ミセス ドロテア・ヘレナ・マリア・グーヴェルヌール
Mrs.Dorothea Helena Maria Gouverneu
オランダ・ザッセンハイム市生まれ。
高校の絵画教師を経て、現在はヨーロッパでも屈指のクロスステッチ・デザイナーとなる。
1963年、自身のデザインの作品キットを製作・販売する「テア・グーヴェルヌール社」を設立。
そのキットは、ヨーロッパ各国の百貨店などに並び、好評を博している。
ザッセンハイム市: 首都アムステルダムから40キロ、チューリップで有名なキューケンホフ市の近くにあります。
お会いできる日を、指折り数えて楽しみにしておりました。
今日は、どうぞ、よろしくお願いいたします。
日本では今、朝晩の冷え込みが厳しくなる秋、紅葉の季節ですが、どのような印象でしょうか。
今回は、東京、名古屋に滞在し、その後、関西方面へ向かう予定です。
日本は、オランダに比べ、人や家、木が多いように思います。
また、街がとても綺麗で、清潔な印象です。
オランダにも紅葉はありますが、日本のものとは木の種類が違います。
ここ名古屋では、方々の川沿いに美しい桜の名所がありますが、桜の時期に、日本に来られたことはありますか。
桜の時期は、ヨーロッパ各地の展示会や、仕事のための出張、新しいデザイン製作の依頼などが重なることが多く、その季節に訪れることができず、残念です。
日本において、他の植物とは一線を画す存在である桜の花…。
テアさんのキットの中で、シュゲールで一番人気があるのは「Double cherry blossom」です。
当時の人気ドラマ名から「八重の桜」と名づけて販売しています。
「Double cherry blossom」「Blossom」など、桜のキットは、オランダでも人気があります。
雑誌に掲載されることも多く、大変大きい反響がありました。
ドイツやアメリカでも、とても人気のあるキットです。
色のグラデーションの変化がとても美しく、上品な仕上がりの「八重の桜」ですが、桜の花はオランダにも咲きますか?
また、桜をデザインされたきっかけは?
桜の花はオランダにもありますが、日本のように公共の場所で見ることはないと思います。個人のお家の庭に1〜2本植えてある程度でしょうか。
私の家の庭にも桜の木が1本あります。桜をデザインしたきっかけは、みごとな美しさに魅せられ、作品にしたいと思いました。
テアさんのお花のデザインは、どれもリアルに特徴を捉えられていて、その花の良さがとても伝わります。
そのようなデザインは、幼い頃から、お花に囲まれた環境、また素晴らしい観察力から生まれるものでしょうか。
家の庭や、仕事場の別荘など、どこに居ても、いつも、デザインのことを考えています。
私は、実際の花を隅々までよく見て、自然に忠実にデザインします。
さらに足りないときは、多くの植物図鑑を調べ、また写真集などで納得いくまで確認します。
キットを見ていても、お花への愛情を感じますが、作品のなかで、一番気に入っているお花の作品はどれですか?
今取り組んでいるデザインが、大好きだと思って作っています。
ですから、その次、その次へと、お気に入りは変わっていき、いつも、いちばん最後のものがBESTになります。
都市シリーズも、視覚的インパクトがあり、どれも素敵で人気があります。
エルサレム、アムステルダム、イスタンブールなど、繊細でありながら迫力があって素晴らしいですが、都市シリーズで、特に苦労されたところはありますか?
都市シリーズは、中には訪れたことのない場所もありますので、写真を見て、どうつなげたら良いかを考えて、デザインします。
色をのせていくときに、刺繍糸のカラーチャートの中に、自分の思う色が無いときには、苦労します。そんなときは2色使いにしたりして、その色にできる限り近づけるようにします。
日本の景色や建物などで、デザインしてみたいものなどありましたら、教えてください。
他の都市シリーズと同じように、日本独特の古い建物と新しくモダンな建物の両方を取り入れながら、デザインしてみたいです。
テアさんのクロスステッチキットは、とても好評です。
時のたつのも忘れるほどに引き込まれ、夢中になって刺し続けてしまう不思議な魅力を持っています。
日本の刺繍キットにはあまり見られないような、繊細な色、柄、細かい描写など、素晴らしいと思います。
洗練された図案のデザインは、どのような流れで製作されているのでしょうか。
以前は、すべてを手作業で行っていました。
リネン布に直接デッサンし、そこに絵を描くようにステッチします。それを記号化してグラフに写すという、手のかかる方法でした。
今は、パソコンが使えるので、作業が随分と楽になりました。
例えば、写真に撮った画像をパソコンに取り込み、大きくしたり小さくしたり、切り貼りしたりしたりしながら、デザインすることもあります。
またデザインしたグラフに色を入れていくことも、パソコンを使うことにより、以前より簡単にできるようになりました。
私ども藤久株式会社は、手芸の小売業をしております。
刺繍はもちろん、毛糸で編む帽子やストール、粘土やレジン、ビーズで作るアクセサリー、布やレザーで作る雑貨など、小物作りが人気の中心です。
また、世界から集う「コスプレ(アニメやゲームなどの登場人物やキャラクターに扮する)パレード」が盛んに行われておりますので、コスチュームや装飾品を作る方も多いです。
オランダで、今流行している手芸と言えば、どんなものがありますか。
オランダでは、刺繍のほかに、ニッティングやクロッシェをされる方が多いように思います。
オランダでも今は、生活必需品を作るということでなく、趣味で手芸をする人が多くなりました。
人々の取り組む手芸は循環します。例えば、ニッティングをするときは、しばらくの間、ニッティングだけに集中し、それが終わると、今度は刺繍だけに集中し…というように、それを交互に繰り返して楽しみます。
日本では今、江戸時代から青森県津軽地方に伝わる伝統刺繍「こぎん刺し」も注目されています。
昔は、生活に必需の衣料品のための刺繍でしたが、現在は、今の暮らしに合う小物作りをします。
人々が求めるテアさんの刺繍の好みなどは、時代の流れとともに変化してきているのでしょうか。
それは、手作りの課題ですね。
昔は値段が高くて買えなかったものが、今は安く手に入りますから。
デザインの色使いについては、年々、とても多彩に変化してきました。
さらに良いものをという思いを盛り込んできたことと、また、人々の考えが変わったので、自分もそのように変わってきたということもあります。
本日は新しいキットの中から、Birth Sampler 、Cats、flowers などを、お持ちいただきました。
とくに、Catsは顔のアップや周囲のトリミングが、これまでにない、とても印象的なデザインとなっており、思わず目が釘付けになります。
こうして実際の作品を見せていただくと、超精細な刺繍だからこそ、猫のデザインが生きるのだということがよくわかりました。
この他に、今、新しくデザインされているものはありますか。
秘密でなければ、差し支えのない程度で結構ですので教えてください。
Catsのデザインはタイプが違うので「ほかの方がデザインされましたか?」と聞かれることがありますが、すべて私ひとりでデザインをしています。約 17×12cmの小さい中に、猫の美しさを凝縮させました。
New Collection では、Birth Sampler があります。これは、赤ちゃんの足形を刺繍するものです。
それから、都市シリーズ America(アメリカ) も好評発売中です。
あとしばらくすると、都市シリーズの Athens(アテネ)が、完成する予定です。
クロスステッチ刺繍キットの良さは、いくつかのステッチを覚えれば教室へ通わなくても、根気があれば楽しめることでしょうか。
自分で絵が描けなくても、1針1針マス目を埋め刺すことにより、すばらしい絵の世界に入って行くことができます。
テアさんのキットにつきまして、お客様からは、「糸数が多くて間違わずに糸を選ぶのが大変ですが、それだけに、グラデーションが綺麗で少しずつ絵が出来てくるのがとても楽しいです」とのお声、また完成後の達成感、満足感など喜びや感動のお声も、多くいただいております。
コツコツ刺す、繊細なクロスステッチは、日本人の感性にも合っているように思います。
テアさんのキットに対する思いを、日本のお客様に伝えていただけますか?
私の頭の中には多くの思いや、思いつくことがあります。
思いが多くありすぎ、また、いい加減にはしたくないので、デザインに行きつくには、なかなか難しく、長い道のりになります。
Thea GOUVERNEUR Catalogs に掲載されている、すべてのキットは、私がデザインしたものです。
すべて、定番として積み重ねてきた、大切なものです。
チャートのシンボルを変えることはあっても、最初に作ったデザインの形を変えることはありません。
刺繍をする人が刺し終えたときに、刺繍をしてきてよかったと思えるものを提案したいという思いで、これまで続けてきました。
これからも、美しさを凝縮したテアのクロスステッチを、楽しんでいただきたいと思います。
【あとがき
】
今後も素敵なデザインの刺繍キットを期待しております。
本日は、お忙しい中、お立ち寄りいただきまして、誠にありがとうございました。
▼インタビュー時には準備中だった都市シリーズキット「アテネ」の販売を開始しました!