●杖、ステッキとは・・・
ステッキは英語のstickの発音が訛ったもので、明治時代に輸入された洋杖のことです。なお、英語のcane(ケイン)も籐、竹などの意味から杖、ステッキとも訳されています。お店によってはステッキをケインとして取扱っているところもあります。
『大百科大辞典』 『日本大百科全書』によりますと、杖、ステッキについて、
古代エジプトやオリエントでは王や神の尊厳や威光のシンボルとして用いられ、中世には君主や僧侶の表徴として不可欠であり、貴婦人のアクセサリーとしては11世紀に出現、18世紀にはロココ調の細くて高いヒールの靴にあわせて全盛をみた、といいます。
また、男性用の籐杖の使用は16世紀からで、17世紀にはフランス紳士の重要なアクセサリーとなり、イギリスでも、スナッフ・ボックス(かぎタバコ入れ)とともに紳士の最重要アクセサリーと考えられ、休日の散策や礼装には欠かせないもの、としています。
なお、ステッキの流行は19世紀末までで、20世紀に入ると実用的なもののみが残ることとなったが、イギリスでは紳士にとって、引き続き実用より重要なアクセサリーであった、とされています。
(日本では、「古事記」「日本書紀」などに記述されていますように、)杖は神が降臨してくる依代(よりしろ)としての性格を持っていたが、やがて神の持ち物とされ、下って権威者の権威の象徴や護身用としても利用されるようになった、といいます。
なお、杖の形態と使用目的などによりさまざまな呼び名があり、また時代とともに呼称が変遷してきました。
<杖の種類と呼び方>
・古くは、先が二また、また握りの部分がT字形あるいは鹿の角をつけた鹿杖(かせづえ)
・撞木(しゅもく)のような形をしたT字形の撞木杖(しゅもくづえ)
・奈良時代以後、長寿者の高位者に朝廷から下賜される、竹の撞木杖の頭に鳩形のものをつけた鳩杖(なお、この制 度は戦後吉田茂に下賜されるまで存続)
・僧侶が持った錫杖(しゃくじょう)
・修験者が持つ八角または四角の白木の金剛杖(こんごうづえ)
・籠かきなど重荷を担ぐ者が持つ息杖(いきづえ)
・近世に入り流行った桑の木の杖をつくと養生によいといわれた桑杖
その後、杖は次第に実用性を離れ、一種のアクセサリーとなり、元禄の頃には細身の竹杖が余情杖(よじょうづえ)、化粧杖(けしょうづえ)などと呼ばれ、洒落者や遊離通いの若者に愛用され、明治維新になり、廃刀令が出ると、杖を持つ風が生じ(手持ち無沙汰の解消?!)、杖の中に刀を仕込んだ仕込杖などが盛んに用いられた。もっともこの仕込杖も禁止され、1887年(明治20年)前後頃より洋杖のステッキに取って代わられた、といわれています。
このように杖には、身分や位を表象する象徴としての役割や実用的な機能とは別に、超自然的力をもつとされ世界各地にさまざまな伝説・伝承が残っていますが、日本では次のようなのがよく知られています。
・杖立(つえたて)、杖突(つえつき)などの地名にまつわる伝説:
弘法大師など高僧、英雄が立てた杖が成長して大樹になるという杖立伝説(熊本の「杖立温泉」が有名ですね。弘法大師が持っていた竹の杖を立てたところ芽が出たとか、杖をついてやってきた人も入湯し病が治り杖を忘れて帰るといわれています)。
また、その杖が成長したという樹の種類は、銀杏、梅、桜、竹、杉など全国にその例が多く、「杖銀杏」「杖梅」などといわれています。また、地面に杖をつくと清水が湧いたとされる「清水伝説」(しみずでんせつ)を伴うこともあるとされています(皆さんのところにはどのような伝説、いい伝えなどがありますか)。
その他、日本武尊が伊吹山の荒神を討伐しての帰途、疲れ果てて杖を突いて歩いたところの三重県四日市市と鈴鹿市の境にある坂の「杖突坂」
長野県諏訪盆地と伊那谷とを結ぶ峠で、近世まで諏訪・甲府方面と東海地方をつなぐ交通要所で、傾斜が急で杖を突いて登らざるを得なかったことからつけられた「杖突峠」などがあります。
・粥杖(かゆづえ):
正月15日の小正月に粥を炊くのに用いた木の燃えさしを削り、これで新嫁や子のない女性の腰をたたくと、子が生まれるといい、広く行われていたといいます。
・杖占(つえうら):
辻で杖の倒れた方向で行き先を占う。
●杖にまつわる諺
「転ばぬ先の杖」:失敗しないように、前もって用意をしておくこと(『広辞苑』)
その他、杖にまつわる主な諺
杖とも柱とも(杖にも柱にも):非常に頼りにするたとえ
杖にかかる:杖をつく。杖を頼りにする。
杖にすがる:杖にしっかりつかまる。また、頼りとするものに助けられるたとえ。
杖にすがるとも人にすがるな:みだりに他人に依存してはいけないという戒め。
杖ほどかかる子はない:杖と同じほど頼りになる子はいない。わが子でも、真に頼りになる子は少ないことをいう。
杖も孫ほどかかる:年をとると孫を頼りにするのと同じくらい杖に頼るようになる。
(以上 『ことわざ大辞典』)
|