スバル XV - 良識派のためのSUV
車名:スバル XV
試乗グレード:1.6i EyeSight(サンシャインオレンジ)213万8400円(試乗車224万1000円)(税込)
スバルXVはベースとなったインプレッサよりも最低地上高を上げることで悪路走破性を確保するとともに、大きなホイール、バンパーやフェンダー周りを専用デザインとすることでSUVに仕立て上げたモデルである。
見た目の良さと素敵なカラーでスマッシュヒットとなった旧型XV
初代「インプレッサXV」は、2010年に3代目インプレッサの1グレードとして追加されたモデルだった。スバルお得意の4WDだけではなくFFモデルも存在し、最低地上高はインプレッサと変わらないなど、硬派なスバルには珍しいお手軽な街乗りSUVという印象のクルマであり、販売期間も1年少々しかなかった。
2012年に登場した2代目からスバルXVという独立した車種扱いとなり、インプレッサをベースにしながらも、最低地上高は200mmを確保しつつ車高は多くの立体駐車場に対応する1550mmに収めるなど、SUVとしての実力アップが図られた。この2代目は適度なサイズ感とセンスの良さが光る外観、それに組み合わされた洒落たカラーリング、そしてハイブリッドが途中で加わったことなどもあってスマッシュヒットとなる。ちなみに今回、比較のために撮影に連れ出した旧型モデルがまとうデザートカーキという色はオートカラーアウォード2013でグランプリ賞をスバルとして初めて受賞している。
リアスタイル以外は好評だった旧型の路線を継承
2017年4月に発表された3代目となるXV、基本的には好評だった旧型の路線を踏襲している。ベースとなったインプレッサの進化に合わせて新しいシャシーが用意され、サイズも全高を除き少しだけ大きくなっているが、パッと見の印象は前や横から見るとそんなに変わらない。前述のデザートカーキこそないがカラフルなボディカラーが9色用意されている点もキープコンセプトである。
一番変わったのは後ろからの眺めだろう。旧型のリアスタイルはシンプルながら月面探検車のように少し未来感を感じさせつつも、コアラのような愛くるしさもあるスタイルで独特の好ましさがあった。新型はアピールが強く北米や中国大陸で支持されそうな印象である。
インテリアの仕立ては微速前進
旧型XVの弱点を挙げるとしたら造形も含めたインテリアの質感だろう。これはスバル全体の課題であるのだが、新型でもこの弱点は克服されたとは言い難い。妙に立体的となったインパネの造形は、それがスバル、と言ってしまうべきなのだろうか、世間の風潮に反してオトコ臭さを増したと感じる。内装色が黒しか設定がない点も含めて、よく言えば男の道具感があるのだが。
シフトノブや肘掛けなどにソフトな素材を使うなど進歩も見られるが、同じように大量生産品へのアンチテーゼとして生き残りを図るマツダが、内装にも細やかな配慮をしていることに比べて、全体的には少々差がついた印象だ。とはいえシフトレバー周りは旧型の傷つきやすい素材からシルバーに変更され、パワーウインドウの最後がスピードダウンするなど、スバルらしい良心的な仕様変更は評価したい。
実用車のインプレッサをベースにするだけに、リアシートは足元に十分な余裕があり4人乗りなら楽々遠乗りをこなすだろう。シートの高さが十分あり、バックレストの角度も適切、ヘッドクリアランスも十分である。
ラゲッジルームはもう少し前後方向の長さが欲しいが、いわゆるコンパクトカーよりは余裕がある。
新たな高みに達した足回り、迷いを感じるCVT
新型XVには今のところハイブリッドの用意はなく、2リッターと1.6リッターのガソリンエンジンがラインナップされる。今回試乗したのはベーシックな1.6リッターの方だ。このボディにターボなし・ハイブリッドなしの素の1.6リッターエンジンでは、さすがにパワー不足を感じる場面が少なからずあった。特にエアコンを入れているとその印象は強い。それに拍車をかけているのがCVTのセッティングだ。踏み始めでドーンと進むのも好感が持てないが、アクセルを少し踏み込んでいったときの反応がリニアではないことに少々戸惑う。
かなり踏み込むと4000回転以上で綺麗に段を踏んで加速していくのだが、軽く踏んだときの2000~3000回転での挙動がどうも落ち着かない。オトコのスバルとしてCVT特有のスリップを嫌ったのはわかるが、低回転域ではもう少し滑らさないとトルク不足のこのエンジンではつらい。多少のエクストラコストを払ってでも2リッターエンジンの方がオススメだ。思い返してみるとトルコン時代からスバルのATは凡庸な出来のものが多かった。水平対向エンジンや4WDの駆動系は素晴らしいのにもったいないな、と感じる。
対照的に足回りは軽快で洗練されており新プラットフォームの大いなる進化を感じる。良好な直進性や安定したブレーキ性能はもちろん、思った通りに曲がれるステアリング特性がなにより秀逸だ。まるでリアもステアしているかのごとき回り込みの良さは少々驚きのレベルである。また速い速度で荒いコーナリングをしても、懐が深い足回りは大いなる安心感を与えてくれる。舞台を高速道路に移しても印象は変わらない。ロングツアラーとしてはほんの少しだけ揺れ戻しが速いと感じる瞬間もあるが、トントン、と軽く凸凹を乗り越えフラットな姿勢で進むさまは、欧州プレミアムブランドのコンパクトモデルのように「良いものを買ったな」と感じさせてくれる。
またこの手のSUVにしては4WD性能が高いことはXVの魅力であろう。ベースグレードでも普通に雪道を走るくらいであれば十分な性能だが、上位グレードにはエンジンや駆動系を統合制御する「X-MODE」を新たに装備しており、スバルへの期待を裏切らない。
一日以上の長があるアイサイト
このところのスバルの躍進を支えたのが「ぶつからないブレーキ」のアイサイト。ここに来て他社も盛んにアピールをしているが、実際に運転するとアイサイトの実力はさすがだと再認識をした。
特に全車速追従型のオートクルーズは、高速道路のみならず加減速の激しい一般道でも十分使い物になる。
もちろんあくまでも「支援」システムなので、ドライバーは常に介入の準備を怠ってはいけないが、クルマ任せにしていても加速時の追従やブレーキングのタイミングなどが非常に適切である。間違いなくこの手の装置の中で最上のものの一つだ。ポッと出(?)のメーカーが敵わないノウハウの積み重ねを感じる。
これ見よがしではない良さ
全世界的に流行しているSUVだが、その主流はトヨタCH-RやマツダCX-5、日産エクストレイルなど、専用ボディをまとったタイプのクルマたちだ。一方で古くはレガシィアウトバックやボルボクロスカントリーなど、ステーションワゴンやコンパクトカーの実用車をベースに、最低地上高を上げバンパーやフェンダー周りを専用デザインにするタイプのSUVも依然一定の支持を集めている。専用ボディのSUVたちの押し付けがましいスタイルに比べ、XVのような実用車ベースの方が好ましい、と思う人が一定数いるということだろう。この手のクルマの中には、最近ではアクアに追加された仕様のように「見た目だけSUV」も多いのだが、XVは初代の反省を活かし(?)街を飛び出しても活躍できる能力を備えている。他人とは違った「ちょっと良いもの」を欲しい人にとって検討リストに加える価値は十分にあるだろう。