オイバ・トイッカと長い時間をご一緒できる機会に多く恵まれ
その度に、彼はいつも冗談を混じえながら作品について
教えてくれます。
そして、色々なお話を聞いていて感じたのですが
作品・プロダクトにはオイバ・トイッカらしい二つの側面があるようです。

一つは多くのアーティストがそうであるように
自分が作りたかった物を自由に作っているという面。
ヘルシンキで開催されているオイバ・トイッカの展示会を
オイバ・トイッカに案内してもらいながら鑑賞するという
非常に贅沢な体験をしたわけですが、その展示会に
僕の心をキャッチする素晴らしい作品がありました。
その作品が何なのか全くわからないんだけどとにかく心惹かれました。
何に使えるわけじゃないけど、凄く欲しかった。
少しでもその作品について知りたくて


『 この作品のコンセプトは何ですか? 』

と質問したところ

『 コンセプト!?そんなものはない。
  コンセプトだとかアイデアだとか、そんなものはない。
  この頃は青が好きで、青色を使って大きな物を作りたかった。
  それだけだ。大きくしたかったから3段に積み上げてみたんだよ。 』


少し厳しい感じで教えてくれました。
なるほどであります。

エキシビジョン用の作品の多くは、この方向で
組み上げられているのだと思います。
作りたいように作っている。バードについても、何の鳥なのか
わからない物が沢山あるのは、特にどの鳥を作るって
決めて作っているわけじゃないからでしょう。
作品作りの時はデザイナーではなくアーティスト。
心優しいアーティストです。

そしてもう一つはデザイナーとしての側面。
ここには人とは違う大きな特徴があるように感じています。
デザインで何か問題を解決する。そんな目的が常にあるようです。
それは時にはトリックのようなものだったり。
うまく工夫できた。そんな感覚に近い気がします。
ある時、沢山の色が使われた細かな柄のファブリックについて教えて
くれました。小柄のカラフルなファブリック。
何のためにそうしたかといえば


『 こうしておけば子供達が何かをこぼして
 テーブルクロスを汚したとしてもバレないだろ? 』


それは使う人のための工夫であったり、時には工場で発生する
どうしようもない問題をカバーするような工夫であったり。
その両方であったり。そんな多くの工夫がされたプロダクトが多い。
プロダクトについて説明をしてくれる時には、まず何が問題だった
のかを説明してくれるから大事なポイントになっているはず。

そんな解決の物作りのスタートにあったのが、オイバ・トイッカの
50周年を記念して復刻されたカステヘルミです。
オイバ・トイッカのデザインが工場で発生する生産上の問題を
クリアしただけではなく、器に上品さと
美しさを生み出した素晴らしい傑作です。




  


オイバ・トイッカのデザイナーデビュー50周年を記念した復刻に
カステヘルミを選択したのは、はじまりがそこにあったからという
だけではなく、1つのデザインが、多くの面でよい結果を出すことが
できた最高の作品だったからなのだと思います。

カステヘルミの生産がフィンランドのヌータヤルヴィガラス工場で
スタートしたのは1964年のこと。デザインしたのは、その前年に
カイ・フランクの部下として工場に入社したオイバ・トイッカでした。

オイバ・トイッカがヌータヤルヴィでカステヘルミをデザインした
1964年頃はプレス加工のガラスプレートに平らで傷の無い表面を
求めるのは難しい時代。
そこで彼はガラスの滴をプレートのエッジに並べることで傷が
できても目立たないようにデザインで問題を解決する事を考えました。

やがて、そのガラスの滴はプレートの表面全体を覆うようになり
ガラスの滴が中央から放射状に広がったカステヘルミが誕生します。

また、カステヘルミ以前の多くのプレスガラスの食器には
底部分に幅の広いリング状の台がついていましたが
トイッカはそれが嫌いでした。多分、綺麗に見えなかったからでしょう。
カステヘルミではガラスの滴がこのリング状の台の役目を
担っています。そのため製品には余分なリング状の台がなくなり
全体がスッキリと見えるようになりました。

そして、もうひとつの問題は今でもそうですがプレスガラスのボウルや
グラスの脇にどうしても現れる縦のライン。そこもカステヘルミの
全面を覆う沢山のガラスの滴が見る人の目を晦まし
この縦のラインを非常に目立たないものにしてくれています。

カステヘルミは当初から日常使いの食器として作られましたが
工場での問題を解決する事を目的に考えられたガラスの滴が
特別な雰囲気を醸し出し、そこに生まれた高級感が使う人にも
素晴らしい気持ちよさを届けてくれます。こうして、カステヘルミは
日常の食卓だけでなく特別なイベントやお祝用にも使われ大ヒットし1964年〜1989年という非常に長い期間、生産が続けられます。

一つのデザインが生産上の問題を解決し
使う人にとっては特別な装飾となり
毎日気持ちよく使う事ができる器として仕上げる。

そんなデビュー作にしてオイバ・トイッカ デザインの傑作ともいえる
カステヘルミは2010年にヘルシンキで開催された展示会でも
プロダクトの展示スペースで一番に展示してありました。





オイバはこのカステヘルミを作った時


『 カステヘルミはタイムレスな製品で
  あまり個性的ではないけれど
  洒落ているし、きっと多くの人に気にいって貰える。 』


そう思ったそうです。発売当時だけでなく、復刻された現在でも
全く古さを感じず、素晴らしい人気アイテムとなっているわけですから
オイバ・トイッカが発売当時に感じたタイムレスという言葉は大当たり
だったわけです。

復刻されたカステヘルミは製造方法の変化により外観がオリジナルと
ほんの少し異なります。例えば、プレートのエッジは依然のものより
少し丸みを帯びています。しかしこの復刻版はオリジナルと合わせて
使用しても違和感はなく、トイッカ自身も、再生産された
カステヘルミには大満足しているようで、こんな風に話してくれました。


『 これを作った事は後悔していないよ。
  本当のところ、もう一回同じものを作ってもいいくらいだ。 』


草花の上で太陽を浴びて輝く朝露のしずくを意味するカステヘルミ。

作品の多くがそうであるように
自然のインスピレーションから生まれたその名前。
それをつけたのは、オイバ・トイッカ自身だったのか
本人ははっきりと覚えていないそうです。
でも、きっと、トイッカがつけたんだと僕は思います。

また、いつ思いだして楽しい話と一緒に聞かせてくれるか
わかりませんかヘルシンキへ行く機会がある度に訪ねてみよう。
そう思っています。


『 この皿は魚や野菜をのせても
ガラスの滴がきらきらして見えるんだよ。 』


オイバ・トイッカは今でも自宅で自身のデビュー作ともいえる
カステヘルミを愛用しています。






あの髪の長い日本人がまたヘルシンキに来るのか。
俺の周りに長髪の男は1人いれば十分だ。
共通の知人にそんな話をしていたそうです。
その長髪の1人の男にしてもらえたのかなぁ(笑)

SPECIAL THANKS
オイバ・トイッカ
みつる(ヌータヤルヴィ)
ハンナ・ヤムサ(マイスオミ)




iittala (イッタラ) / Kastehelmi(カステヘルミ) ボウル230ml クリア iittala (イッタラ) / Kastehelmi(カステヘルミ) プレート17cm クリア iittala (イッタラ) / Kastehelmi(カステヘルミ) プレート26cm クリア