縫い目のない財布やカードケースなどの「所作」シリーズを開発した「No,No,Yes!(ノーノーイエス)」は、音楽や映像、プロダクトを制作するチームが母体となり2006年にアパレル出身の橋本太一郎氏(代表、レザービルダー)=写真と、広告やWEBデザイン出身の河村真氏(デザイナー)の2人によってレザーブランドとして立ち上げられた。
同社は2008年に発表したカモフラージュ柄に見える絞り染めのレザージャケットがパリのルーブル美術館で展示されたのをはじめ、まるでビンテージジーンズにみえるレザーパンツで「ジャパンレザーアワード」の総合グランプリを受賞。これらの製品は国内外で高い評価を受けた。
「所作」に代表されるように、古来から続く相手を気遣う心配りを大切にしたものづくりは、日本国内はもちろん海外でも注目度が上昇中。「所作」は、イタリアの見本市、Mopelでパノラマアワードを受賞し、世界最初の百貨店であるパリのボン・マルシェで“日本の傑作”と認められた。また、世界の有名セレクトショップや、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のミュージアムショップでも取り扱われるなど存在感は日に日に増している。
「所作」について「機能的な面で言えばもっと上の財布があるかもしれませんが、和の心、特に情緒的な価値ではこれ以上のものはないと確信している」と橋本氏。実際、この財布からお札やカード、名刺などを出す際、最後に両手を合わせて拝むような形になるが特徴。橋本氏は「(袱紗のように)包む行為には感謝の気持ちが込められている。それをデザインに落とし込みました」と説明する。
橋本氏は「所作」を発案する際に「一枚革」「縫わない」「最後の1箇所だけボルトで止める」というお題を課した。その理由は、これまで手掛けたレザーウエアで何年も愛用した顧客から頼まれる修繕のほとんどが縫い目のほつれだったから。その結果、たどり着いたのが縫わずに「折る」という製法だった。 ボルトを外せば元の一枚革の状態に戻ることから、「メンテナンスやクリーニングしやすいし、お好みの色に塗り直しアップデートすることもできる」と橋本氏。もちろん、ノーノーイエスではユーザーから依頼されたメンテナンスにも対応している。
「所作」を作っている工房は姫路城の近くにある。橋本氏は「この財布は毎日、世界遺産から吹いてくる風を受けながらできています。パワースポット(のすぐそば)で作られているのだから、使う人にとって御利益のある財布になりますよね」と笑顔で語る。そして、パワースポットというキーワードにこだわった結果、同社は今後、神社、仏閣、城下町のある各地に、ユーザー自らが選んだ好みの革を、その場で裁断し、折って仕上げる「所作ライブ」をインスタレーションツアーしていく予定だ。