最古の歴史そのままにノコギリの歯のようにギザギザに刻んだ爪で、1本1本、糸を掻きよせ織り描く西陣爪掻本綴織。「日に寸、五日に寸、十日に寸」と伝えられるほどの月日と高度な技術を要します。12種類ある西陣織のひとつ「綴」に分類されます。西陣爪掻本綴織は西陣織工業組合の登録商標で、西陣織は昭和51年2月26日に伝統工芸品に指定されています。
ノコギリの歯のようにギザギザに刻まれた爪先で 文様となる糸を1本1本、掻きよせて文様を織り描く技法を『爪掻(つめがき)』といい、爪掻で織り上げた綴織(つづれおり)は爪掻、爪つづれ、本つづれなどと呼ばれます。爪で糸を1本1本掻きよせて織る爪掻は「日に寸、五日に寸、十日に寸」と伝えられるほどの月日と高度な技術が必要であり、複雑な文様になると1日にわずか1cmしか織り進めないものもあります。そのため極めて生産数も少なく希少価値の高い織物となっています。元来、生産数の少ないうえに 職人の高齢化と後継者不足にともない高度な技術をもつ織師は年々減少しています。
西陣織で最も歴史のある綴機(つづればた)で最古の歴史そのまま伝統的技法で織ります。手織綴や紋綴とは異なり、ジャガードの作用を全く必要としない全工程を人の手足で操作して織ります。 鶴の恩返しで鶴がパッタンパッタンと織っている機を想像していただくとわかりやすいと思います。機の操作、文様の表現方法、全てが織師の技術と感性を頼りとする古来の織り方は、伝統的な爪掻の高度な技術のみならず、創造力も技術の一部といえます。綴織は高度な技術とその希少性から 他の織物とは別格とされており最高の格を誇ります。格調高い文様は『一重太鼓でもフォーマルに着用できる』 唯一の帯であるのはその格の高さゆえ。厳密に同じものがないオリジナリティもあります。また単の着物、袷の着物ともに着用できる利便性があり、地厚な絹織物であるため帯芯は不要で締めゆるみなく締め心地が良い帯です。
爪先で糸を掻きよせ文様を織るのはもちろんのこと、 それらの文様は計算された型紙や図案があるのではなく、 まるで白いキャンパスに絵を描くように 下絵をみながら、色形を成すための技を頭のなかで描きながら織ります。 絵から織り描く文様を創造しながら絵の具の色を混ぜ合わせるように多彩な糸をよりあわせる、線を引くように濃淡を表現するよう爪掻の技術を駆使して文様は織り描かれていきます。このように織師の感性により、1本1本の糸が文様となり織り描かれるため、たとえ同じ下絵を用いたとしても厳密には同じ文様が織り描かれることはありません。ひとつひとつに個性があり世界にひとつだけの作品として生まれます。それを創り出すのは高度な技術もさることながら、色形を創造する豊かな感性がなければ成し得ないことです。それが日本美術織物の最高峰といわれる所以でもあります。