カリウムは、食事から摂取できるミネラルの一種です。体内では主に細胞内に存在し、一部は血液中にも含まれています。このミネラルは健康維持に役立つだけでなく、神経伝達や筋肉の収縮・弛緩などの働きにおいて欠かせない存在です。また、
ナトリウムと共に血圧を調整し、体内の水分とミネラルのバランスを適切に保つ役割があります。
※カリウムが不足すると、高血圧や脳卒中のリスクを高め、腎臓周辺のトラブルを引き起こす危険性があると言われています。
高血圧はカリウムで対策を
塩分(ナトリウム)摂取が多くなると、喉が渇くため必要以上に水分が欲しくなります。これは、血液の中のナトリウム濃度が上がるためであり、水分を取ることで血中のミネラルバランスを正常化しようとするのです
このメカニズムは、血液中のナトリウム濃度を水で薄める事になる為、血液の中の圧力が増加し「血圧」が高くなる事を示します。また、血管内でナトリウム濃度が高くなると、血管壁が損傷するリスクもあり、これが過剰な塩分摂取が推奨されない理由の一つです。
通常、血液中に含まれる水分が多くなると、カリウムと腎臓の働きによって、余分な水分や塩分(ナトリウム)を尿として排出する作用が働きます。しかし、カリウム不足の状態が続くと、水分や塩分が適切に尿として排出されにくくなり、高血圧状態が続いてしまいます。
また、血液中に塩分(ナトリウム)が多く含まれると、血管外にもナトリウムが漏れ出す事があります。例えば、心臓内部のナトリウム濃度が増えたりすると、心筋の働きが弱まり、心不全や不整脈の発症リスクが高まります。
さらに、全身の筋肉細胞内にもナトリウムが増加することで、無気力感や筋力低下、食欲喪失などの症状が引き起こされることがあります。
カリウムでむくみを解消
通常、細胞外部の液体(例えば血液やリンパ液)では「ナトリウムが多く、カリウムが少ない」状態が維持されています。それに対して、細胞内部の液体は「ナトリウムが少なく、カリウムが多い」というバランスで保たれています。
しかし、塩分(ナトリウム)を過剰に摂取し続けると、細胞外液(血液やリンパ液)のナトリウム濃度が異常に上昇します。その結果、細胞内にもナトリウムが侵入し、細胞内液のナトリウム濃度も上昇することになります。
この状態を正常化するために、細胞は外部から水分を引き寄せることで細胞内のナトリウム濃度を下げようとします。すると、細胞は不必要な水分によって膨らみ、むくみが生じます。塩分を取りすぎてしまうと顔や手足が膨らんでしまうのは、この「むくみ」が原因なのです。
腎臓は血液中の余分なナトリウムを排泄する働きがありますが、そのためには「カリウム」が必要です。カリウムが不足していると「むくみ」が解消される事はありません。
カリウムが高血圧を予防する3つの働き
(1)カリウムは、交感神経の活動を抑制し血圧を下げる
実は、血圧と交感神経には深い関わり合いがあります。緊張状態になると、自律神経の一部である交感神経が活発になり、心拍数が増加して血圧が上昇します。
カリウムには交感神経の活動を抑制する働きがあります。交感神経が抑制されると副交感神経が優位になり、心拍数も下がり、血管が拡張して血圧の低下をもたらします。
(2)カリウムは、体内の余分なナトリウムを排出する
腎臓は血液をきれいにろ過するための器官であり、老廃物を取り出して必要な成分や水分を体内に再吸収させています。
カリウムは、ろ過された血液が体内に戻る際、過剰なナトリウムの再吸収を抑制し、尿中に排泄されるよう促してくれます。
この作用は、血圧が正常な人よりも高血圧の人の方が、高い効果が得られる傾向にあります。排泄された尿に含まれるナトリウムが多いほど、血圧低下の効果も高いとされています。
(3)カリウムは、血管を拡張させる
血管平滑筋は、収縮することで血管を狭くし、血圧を上昇させます。しかし、カリウムには血管平滑筋を緩めて血管を拡張させる効果があります。血管が拡張されると、血圧は低下します。
カリウムには「むくみ解消効果がある」とか「血圧を下げる効果がある」と言われるはこの様な作用によるものです。
カリウムと抗酸化作用
塩分(ナトリウム)の摂りすぎによって高血圧になると、血糖値を下げるインスリンの働きが阻害されます。これは塩分の摂りすぎによって、酸化ストレスが強められていることが原因の一つだとされています。
しかし、カリウムを多く含む野菜には、抗酸化成分が豊富に含まれるため酸化ストレスが抑えられ、インスリンの働きが改善するとされています。つまり、糖尿病の予防にも繋がります。
塩分(ナトリウム)の摂りすぎは高血圧を引き起こすだけでなく、体内のさまざまな臓器にダメージを与えます。しかし、カリウムを含む食品のもつ抗酸化作用によって、腎臓をはじめとする多くの臓器が保護されます。
※カリウムには直接的な抗酸化作用はありませんが、カリウムが含まれる食品には、抗酸化作用を持つ成分が多く含まれています。
カリウムとカルシウムの関係
骨密度が減少し、骨が折れやすい状態のことを骨粗しょう症といいます。閉経や栄養不足・運動不足など様々な原因で発症します。
カリウムは体内に貯蓄されず、絶えず尿として体外に排泄されるため、カリウムを多く摂取する事で、不思議なことに尿中に含まれるカルシウム濃度が低下し、骨から溶け出すカルシウムの量も減少するといった事が発表されています。そのため、カリウムは骨粗しょう症の予防に効果的であると期待されています。
また、塩分(ナトリウム)はカルシウムを排泄させる作用がある為、カリウムの働きでナトリウム濃度を減らす事は、カルシウム不足の予防にもなります。
ナトリウムとカリウムの比率に注目
癌が日本人の主な死因とされていますが、その次によく見られる死因は循環器系の疾患となります。循環器系の疾患の発生は、血液中の脂肪の増加、血圧の上昇、または血糖値の高まりといった要因により引き起こされます。
これらは運動不足や肥満、喫煙などの生活習慣が引き金となることが多いですが、特に「塩分の取りすぎ」が大きな原因とされています。
私たちの体は、カリウムとナトリウムのバランスを保つことで体内の水分量を調整しています。その為、この2つのミネラルをバランスよく摂取することが重要です。
しかし、現代の食生活では、ナトリウム(つまり塩分)を多く摂りすぎてしまう傾向があり、カリウムを含む野菜などの摂取が足りないため、循環器系の疾患になりやすいと言われています。
ここで注目されるのが、ナトリウムとカリウムの摂取バランスを示す「ナトリウム/カリウム比」という指標です。この比率が高いほど、塩分の摂取が多いことを示します。
喫煙・飲酒の習慣がある若者の『ナトリウム/カリウム比』は高い傾向にあります。また、野菜や果物・きのこ・乳製品の摂取量が少なく、穀物や調味料の摂取量が多い人も『ナトリウム/カリウム比』が高くなります。
このように、現代人はついつい、塩分の多い食生活になりがちですので、積極的にカリウムを摂取する必要がありそうです。
カリウムの摂取方法
カリウムは、多くの食品に豊富に含まれています。例えばフルーツの中では、バナナ、スイカ、メロンが特に優れたカリウム供給源とされています。また、イモ類においては、さといもや長芋がカリウムが豊富に含まれています。
魚介類の中では、イカやまぐろ、カレイなどにカリウムが多く含まれています。他にも、豆乳、トマトジュース、栗などもあります。
ついつい塩分を取りすぎてしまう方は、朝食にバナナを食べる事から始めてみては如何でしょうか。
カリウムは食品を調理する過程で失われてしまうことが多いため、茹でる時間を短くしたり、生のまま食べたる事がおすすめです。
※腎機能が正常であれば、もしも日常生活で摂取したカリウムが多すぎても、腎臓の働きによって尿と一緒に体外に排泄される為、体内のカリウム濃度はほぼ一定に保たれます。
しかし、カリウムが不足してしまうと、体の中の水分や塩分濃度、血圧を正常に保つ事が難しくなりますので、適切に摂取する必要があります。
※カリウムの1日の摂取上限は特に定められていませんが、腎機能に疾患のある方はカリウムの過剰摂取は注意してください。
カリウムの副作用
腎臓や大腸の疾患が原因でカリウムが適切に排泄されない場合、血液中のカリウム濃度が上昇し、高カリウム血症になることがあります。
血液中のカリウム値が上昇すると心電図にも異常が発生したり、不整脈が起こりやすくなります。不整脈は心不全や脳梗塞を招く恐れがあるため、高カリウム血症による死亡者は少なくありません。
血液中のカリウム濃度が7.0mEq/L以上になると、心臓が停止するとも言われています。カリウムを多く含む食事は腎臓機能が正常であれば問題ありませんが、腎不全の人は高カリウム血症になるリスクが高いため、食事内容に気をつける必要があります。
カリウムの少ない食品でも、たくさん食べれば摂取量が増えてしまうので注意が必要です。野菜を茹でるとカリウムが水に溶け出すため、カリウムの含有量を減らすことができます。
参考文献
●孫 麗曼,カルシウム欠乏食による骨粗鬆症に対する運動,ナトリウム,カリウムの効果,2004
●安東 克之,高血圧モデル動物におけるカリウムの腎保護作用,2002
●武藤 重明,カリウムの有効性と安全性
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/download_files/kenkoueiyouchousa/ronbun/32674745.pdf
●吉村 学/高橋 伯夫/中西 正,ナトリウム, カリウム, カルシウム, マグネシウムの昇圧・降圧機序 と高血圧食事療法,栄養学雑誌,1991
●石黒栄紀,医師がすすめる長生き野菜スープ,2019
●中嶋 洋子/蒲原 聖可,これは効く!食べて治す最新栄養成分事典,2017
著者:大名町スキンクリニック 院長 橋本 慎太郎
金沢大学医学部卒、美容皮膚科クリニックを運営
https://m-beauty.jp/about/dr.html
エビデンスやメーカー様の資料などさまざまな文献を基に、みなさまの生活をより豊かにするための情報を発信しております。
本成分は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。疾病に罹患している場合はかかりつけ医師に、医薬品を服用している場合は医師、薬剤師に相談してください。食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスをお勧めします。