世界が切望している新型コロナウイルスのワクチン開発。
ワクチン開発はどういった方法でするのか。どれくらいの時間がかかるのか。
古代ウイルスとも呼べる狂犬病などを例に、ワクチンの歴史とその重要性について紹介します。

世界で最初のワクチン

感染症の免疫力を得ることができるワクチン。
最初にワクチンの概念が利用された疾患は、天然痘でした。
天然痘は、狂犬病と同じく歴史の古い疾患です。
紀元前から流行しており、高い罹患率と致命率が世界で知られていました。

日本国内でも、明治時代に2万~7万人の感染および5千~2万人の死者を伴った流行が6回あったと記録があり、わたしたちにとっても身近な疾患でした。
しかし、1980年5月にWHOが天然痘の世界根絶宣言をおこない、その後、現在まで40年の間、患者の発生は世界で確認されていません。

天然痘ウイルスは自然界からほぼ根絶できたと考えられています。
(アメリカとロシアの施設で厳重に保管されているウイルスがあります)
強い毒性と感染力で紀元前から世界に恐怖を与え続けてきたウイルスを根絶させたもの。
それがワクチンでした。

天然痘と牛痘とエドワード・ジェンナー

天然痘をワクチンによって治療し始めた人は、イギリスの医師、エドワード・ジェンナーです。
ジェンナーはある日、乳搾りをしている女性は天然痘にかからないことを疑問に思い、彼女らに共通していることとして、牛痘に感染したことがあることに注目します。

牛痘とは、牛で発生する痘瘡(乳房などの皮膚に水疱ができる)で、当時しばしば流行していた感染症です。 牛痘の水疱が破けると、その中身の液体に触れた人にも感染し、水疱ができます。
しかし、重症化することはなく、ほとんどの場合、感染した人は2~3週間で治っていました。
ジェンナーはこのことから、牛にできた水疱の液体を人にわざと接種して感染させることを考えます。

まだ天然痘の原因ウイルスの存在すらも知られていなかった時代。
とても勇気のいる医療行為であったと考えられます。
1780年頃、ジェンナーはとある少年に牛痘の液体を複数回にわたって徐々に増やしながら接種し、 その後、ついに天然痘をこの少年に接種します。
その結果、天然痘は発症せず、予防することができたのです。

ラテン語で牛を意味するvaccaという言葉から、この予防医療はvaccineワクチンと名付けられました。
この革命的な出来事は、後に牛痘による予防医療を確立し、多くの人の命を救うことになります。

狂犬病とウサギとルイ・パスツール

ジェンナーのワクチン医療の開始からおよそ100年。
1885年に、フランスのルイ・パスツールによって狂犬病のワクチンが開発されます。
パスツールの画期的な点は、ワクチンに使うための病原体を弱毒化させたという点です。

パスツールは、狂犬病の神経症状から、狂犬病の病原体は脳や脊髄にいると考えます。 そこで、狂犬病で死んだ犬から脊髄を取り出し、生きたウサギの脳に接種しました。 その結果、そのウサギは接種後2週間で狂犬病を発症し、死亡しました。
次に、この死亡したウサギの脊髄を取り出し、別の生きたウサギの脳に接種します。 次のウサギも約2週間で死亡し、脊髄を取り出し、次のウサギに接種します。
これを21代繰り返したのです。

すると、徐々に狂犬病の発症時期が早くなり、最終的には接種後1週間での発症が認められました。 このことから、狂犬病ウイルスは、別の動物では発症時期が遅い(毒性が弱い)が、同じ動物で感染を繰り返すと徐々にその動物に順化し、毒性が強くなっていくと考えました。
事実、ウサギで継代された狂犬病ウイルスは、人間において弱毒化されたことが後に証明され、この方法はいまのワクチン開発でも応用されています。

パスツールが開発したワクチンは、もうひとつ素晴らしい特徴があります。 暴露後ワクチンです。

暴露後ワクチンとは、その病原体が体に入ったあとに接種するワクチンです。 パスツールは狂犬病の犬に噛まれた少年にワクチンを接種し、治療を成功させています。
現在でも狂犬病の暴露後ワクチンは有効であり、狂犬病を発症している犬に噛まれたとしても、ワクチン接種による治療が推奨されています。

現在の狂犬病ワクチン

パスツールが開発した狂犬病ワクチンは、副作用としてアレルギー脳炎を起こすことがありました
これは、ワクチンが脳や脊髄の成分を含んでいたためと考えられ、神経系ではない細胞を使ってウイルスを培養することでこれを克服しました

現在使われている狂犬病ワクチンの添付文書を見ると、ニワトリの細胞で順化させていることがわかります。
順化させたウイルスは、細胞培養で増殖させ、不活化、濃縮、精製し、安定剤を加え、凍結乾燥させています。

パスツールが開発したワクチンに副作用としてアレルギー脳炎があったように、開発初期のワクチンは安全性が低い可能性があります。
病原体を分離し、様々な調整を試みて、ワクチンは開発されます。

新型コロナウイルスワクチンの開発

狂犬病や天然痘のワクチン開発の歴史を紹介しました。
紀元前から1980年まで世界で猛威を奮っていた天然痘は、ジェンダーのワクチン開発により、撲滅させることに成功しました。
同じく古代から猛威を奮っている狂犬病は、パスツールのワクチン開発によりその感染拡大にブレーキをかけ、 日本を含む部分的な地域で清浄化することに成功しました。

いま私達が直面している新型コロナウイルスもまた、世界で猛威をふるっている感染症です。

この感染拡大にブレーキをかけるためには、ワクチン開発が必要不可欠です。

ワクチンは副作用など危険性を伴うこともあり、これを改良して安全性を高めるためには長い時間と試験が必要です。
ワクチン開発には少なくとも数年かかると言われています。
それは安全性の高い、効力の高いワクチンを開発するために必要な期間です。
いまの私達にできることは、ワクチンが普及するまでの間、 感染拡大を抑制するためにうがい手洗い消毒、行動の自粛をすることです。

長い戦いになることが予想されますが、 いつかワクチンによって以前の生活を取り戻せることを期待し、コロナに負けないように頑張りましょう。