世界に被害が広がる新型コロナウイルス感染症。
すでに身近な感染症になり、社会全体で予断を許さない状態が続いています。
いまは感染拡大を防ぐため、人々は移動の自粛、うがい手洗いなどの予防を徹底するように求められています。
これらの予防法は、いまできる感染拡大を防ぐ唯一の方法であり、それによって抑えつつも、感染拡大を許してしまっているというのが現状でしょう。
もし、感染の拡大を確実に抑えることができ、感染者の数が優位に減っていったとしても、気を許したとたん、同じような感染拡大が再発することが目に見えています。

では、どうすれば私達は感染拡大以前のくらしを取り戻すことができるのか。
それには2通りの方法が考えられます。
感染した後に速やかに効く治療法を確立すること、もうひとつは、感染しない身体にすることです。

感染しない身体にすることは難しいですが、感染しても重症化しない、その結果病原体の拡散を抑えることができる方法はあります。 ワクチンの開発です。

ワクチンとは

ワクチンとは、特定の感染症に対する免疫力をつくることを目的として、予防的に接種する薬剤(基本的には注射)です。

免疫力があれば、その感染症に対抗することができます。 対抗するとは、感染したとしても、重症化することを防ぐことができるということです。 感染することを完全に防ぐことができるわけではないことに注意が必要です。

感染を完全に防ぐことはできなかったとしても、重症化を防ぐことには十分な意義があり、さらに病原体の増殖を抑えられるため、感染の拡大も抑えることができます。

新型コロナウイルスのワクチンが開発され、多くの人々がワクチン接種をすることができたら、ついに感染拡大は抑えられ、以前のくらしを期待することができます。 感染症が蔓延してしまった世界に終止符を打つ、希望の光です。

ワクチンの開発

世界中から望まれているワクチンの開発は、いつできるのでしょうか。

一般的に、ひとつのワクチンが製品化されるまでは、約10年かかると言われています。
10年もいまの生活が続いたら、世界経済は崩壊し、医療も崩壊し、争いが生じ、人類の秩序が崩壊する恐れがあります。
一部の報道では数年以内のワクチン開発も囁かれていますが、年単位の時間が必要であることにはちがいありません。

なぜワクチンの開発にはこれほどの時間がかかるのか。
古代ウイルスとも言える狂犬病と人類の戦いの歴史をみてみましょう。

犬猫と狂犬病ワクチン

ワクチンは犬猫でも接種されています。 特に犬では狂犬病ワクチンの年に1回の接種が義務化されており、飼育者にとっては身近な存在です。 すべての飼育犬が生涯にわたって毎年ワクチン接種するほど、狂犬病ワクチンは普及しています。 ここまでに至った背景には、狂犬病の特徴と長い歴史が関わっています。

狂犬病とは

狂犬病とは、その名の通り、犬が狂ってしまうウイルス疾患です。
ただし、発症した犬は100%死に至ります。

さらに恐ろしいことに、発症した犬に噛まれた人にも感染し、その人もまた発症すると100%死に至るという一面を持っています。
発症したら狂ったように襲ってきて、噛まれた人も発症してしまう。ゾンビ映画を思わせるような疾患です。

日本史と狂犬病

狂犬病の歴史をひも解いていくと、驚くほど古い記述に辿り着きます。
まずは日本史を見てみましょう。

狂犬病と考えられる文章が載っている最古の記述は、養老律令にあります。 養老律令とは、昔の法律です。
その編成には中臣鎌足の息子にあたる人物も関わっているほど遠い昔で、成立したのは今からおよそ1300年前、西暦718年であったとされています。

その記述によると、「其れ狂犬有らば所在殺すことを聴せ」つまり、狂った犬をみかけたら、処分すべしとあります。

また、江戸時代の徳川綱吉による生類憐れみの令には、「狂犬つなぎをかざる所は、曲事たるべし」とあり、これもまた狂犬を処分せよという内容です。
遠い昔から、日本では狂犬病の驚異は知られていたと考えられます。

世界史と狂犬病

日本史では西暦718年まで遡ることができた狂犬病。世界史ではさらに過去まで遡ることができます。

狂犬病と考えられる、世界で最も古い文章は、エシュヌンナ法典という法律に記載されています。
これはいまからおよそ4000年前、紀元前1930年頃の古代メソポタミア文明で作られた法律です。 これによると、「狂犬病の症状を示した犬の所有者は咬傷の予防対策を取る必要がある。
人が狂犬病の犬にかまれ死亡した場合は、所有者に罰金が科される」とあります。
狂犬病の存在はもちろん、その症状、感染経路、責任の所存にまで記載されています。
人類の歴史、その始まりとも言える頃から、私達は狂犬病とともに生活していたと言うことができます。

古代ウイルス狂犬病

新型コロナウイルスで切望されているワクチン開発。
犬猫にも関係している疾患である、狂犬病のワクチンの歴史はどうだったのか。
今回は狂犬病に関する最古の記述について紹介しました。
次回はワクチン開発に至る歴史を紹介します。