第5回 腎臓病
〜慢性腎臓病の治療と急性腎傷害〜

滝田雄磨 獣医師


  • 今回は慢性腎臓病と診断された後の治療方法と、
    急性腎障害についてお話します。

    慢性腎臓病の診断については、前回のコラムを御覧ください。

慢性腎臓病の治療

    慢性腎臓病と診断されたら、どんな治療をすればよいのでしょう。
    前回お話したとおり、慢性腎臓病になると腎機能の回復は望めません。

    したがって、残った腎機能をいかに大事に消費していくかが治療につながります。
    何をすれば腎臓の負担が増えてしまうのか、それを知ることが治療のカギとなります。

腎臓病を悪化させる原因

    腎臓病を悪化させる原因と、それに基づいたケアの方法についてみていきます。
    原因①　高血圧
  • 腎臓は大量の血液から尿を生成します。
    そのため、血圧の影響を受けやすい臓器でもあります。
    高血圧になると、腎臓の負担が増え、腎臓病が進行してしまいます。
    さらに悪い事に、腎臓病が進行すると血圧を調整する働きのある
    酵素（レニン）の分泌に支障をきたします。

    その結果、さらに高血圧を引き起こし、悪循環へと入ります。
    腎臓病と診断され、高血圧が認められたら、
    血圧を調節する薬によって治療しましょう。

    原因②　高タンパク質
  • タンパク質は生きていく上で必須の栄養素です。
    タンパク質は体の中で使われた後、腎臓を経て排泄されます。
    （尿素窒素など）
    したがって、タンパク質の過剰な摂取は、腎臓の負担となります。

    腎臓病と診断された場合、
    タンパク質の量を調節した腎臓食でコントロールします。
    また、血液検査の結果、
    血液中の尿素窒素（BUN）が高値を示した場合、
    吸着炭製剤（コバルジン、ネフガードなど）を飲むことにより、
    BUNの低下を図ることが出来ます。

    原因③　高リン
  • 過剰なリンの摂取は腎臓病の悪化因子となります。
    腎臓病と診断された場合、
    リンの量を調節した腎臓食でコントロールします。
    また、血液検査の結果、血液中のリン（IP）が高値を示した場合、
    リン吸着剤（レンジアレンなど）を飲むことにより、
    IPの低下を図ることが出来ます。

    原因④　不飽和脂肪酸バランス
  • 腎臓病の悪化の原因とは少しことなりますが、
    不飽和脂肪酸をバランス良く摂取することにより、
    腎臓病の進行を遅らせることができたという報告があります。

    不飽和脂肪酸のバランスに配慮したフードや、
    サプリメントによる調節を行うことで腎臓病のケアにつながります。

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    原因⑤　脱水
  • 慢性腎臓病のステージにもよりますが、
    尿の濃縮機能が低下すると脱水が進行します。

    脱水が進行すると尿量が減り、
    老廃物をしっかりと排泄することが困難となります。

    慢性腎臓病で脱水症状が出てしまう場合は、
    皮下点滴補液などによってコントロールします。
    こうしてみると、慢性腎臓病の治療には日々の食事の管理が重要であることがわかります。
    慢性腎臓病と診断されたら、まずは腎臓食を処方してもらいましょう。
    また、近年、猫の慢性腎臓病のための新しい薬も開発されました。
    慢性腎臓病と診断される、比較的初期からの投薬が推奨されています。
    早期の診断と早期の治療で上手に腎臓病と付き合っていきましょう。

急性腎傷害

  • 急性の腎傷害は救急の病気です。
    数日の間に命を落とすこともあります。

    少し専門的な話になりますが、その病態について簡単に紹介します。

    急性腎傷害となってしまった原因から、尿の生成から排出までの流れで考えて、
    腎臓の前、腎臓、腎臓より後の3種類に分けられます。


  • 急性腎傷害の治療法は、可能な限り原因を取り除き、
    輸液による腎臓への血流の確保、
    利尿の促進    などによってなされます。

    治療が奏効すれば、腎機能の回復が望めます。
    しかし、治療反応が悪いと、慢性の腎臓病への移行、
    もしくはそのまま命を落としてしまう恐れがあります。

    急性の疾患であるため、症状が出てからの病気の進行は速やかです。
    食欲不振、嘔吐、排尿障害・・・
    些細な変化でも、早期の受診をし、
    早期の治療をできるかどうかが予後に大きく影響します。

猫における急性腎傷害

    猫における急性の腎傷害を起こすケースとして多いのは、腎毒性物質の摂取です。
    ブドウ、ユリ科の植物、不凍液（エチレングリコール）
    特にユリ科の植物を摂取して病院にかかるケースを多くみかけます。

  • 他にも腎臓病以外の障害を含めると、
    猫に実害がある植物は数え切れないほどあります。
    もちろん猫草などは問題ありません。

    しかし、猫は本来完全な肉食動物。
    有害な植物の方が多いと言われています。

    普段食べないような植物を口にする、
    もしくは花瓶の水を飲んでしまうようなことがあれば、
    体調の変化によく注意してください。

腎臓病

  • ２回にわたって腎臓とその病気についてみてきました。
    一度腎機能が失われてしまうと、取り返しのつかない腎臓病。
    症状が少なく、早期の診断が困難な腎臓病。

    定期的な健診を受け、病気の早期発見をし、
    上手に病気と付き合っていくことが大切です。
    より永く元気に過ごせるように、
    元気いっぱいの健康な姿に見えても、
    定期的な健康診断を心がけましょう。