第42回 門脈シャントと尿路結石


滝田雄磨 獣医師

以前、冬の血尿の回でご紹介しましたが、冬は尿路結石ができやすい季節です。冬に尿路結石ができやすい理由や仕組みについては、冬の血尿の回でご紹介しました。
しかし、尿路結石には他の理由で形成されるものもあります。 その中のひとつに、門脈シャントという疾患が原因で形成される結石があります。

今回は、その門脈シャントという疾患について少し紹介したいと思います。

門脈シャント

門脈シャントは、正しくは門脈体循環シャント(PSS)といいます。
その名の通り、門脈と体循環の間に、シャントが形成されている疾患です。

門脈とは、腸管と肝臓をつなぐ血管を指しています。
腸管で吸収された栄養や、腸で発生した有害物質は、門脈を通って肝臓に運ばれます。

体循環とは、全身をめぐる循環です。大静脈などがこれにあたります。
シャントとは、直訳すると短絡、つまりはバイパス、ショートカットを形成している状態です。

門脈シャントは、門脈を流れている血液を、不要なバイパス血管(奇形)により、肝臓を通らずに全身循環にショートカットさせている疾患なのです。

肝臓のはたらき

門脈の血液が肝臓を通らないと、どのような不都合が起こるのでしょうか。
肝臓の主な働きには、以下の3つがあります。

  1. タンパク質の合成、栄養の貯蔵
  2. 有害物質の解毒・分解
  3. 胆汁の合成分泌

それぞれの観点からどのような不都合が起こるのか、考えていきましょう

1.タンパク質の合成、栄養の貯蔵

門脈の血液が肝臓に流入すると、栄養が肝臓に貯蔵されます。
貯蔵された栄養は、必要な成分に加工され、必要な場所へと運ばれます。
門脈シャントがある場合、十分な栄養が肝臓に蓄えられず、エネルギー効率が低下し、身体が大きく成長できなくなります。
また、肝臓自身も充分な成長ができず、小肝症になります。

2.有害物質の解毒・分解

門脈の血液には、腸内で発生した有毒物質が含まれています。実際に弊害を起こす代表的なものは、アンモニアです。
本来、腸管で吸収されたアンモニアは、門脈を経て肝臓に入り、解毒され、尿素という無毒な物質に変換されます。

しかし、門脈シャントがあると、このアンモニアは大静脈を経て、全身へと運ばれてしまいます。
アンモニア濃度が高い血液が脳に流入すると、神経を障害し、さまざまな神経症状を引き起こすようになります。

神経症状としては、食欲不振、集中力がなくなるなどの軽度のものから、痙攣、昏睡などの重度のものまであります。
また、アンモニア濃度が高い血液から尿が生成されると、尿中のアンモニア濃度も上昇します。
その結果、尿酸アンモニア結石の形成を促します。ここが、尿路結石を形成してしまうポイントです。

3.胆汁の合成、分泌

弊害とは異なりますが、胆汁の視点で考えることは、門脈シャントの診断に役立ちます。

胆汁とは、肝臓で絶えず生成されている液体です。
肝臓で生成された胆汁は、肝臓の近くにある胆嚢という袋に貯蔵、凝縮されます。
蓄えられた胆汁は、食事の際に十二指腸へと分泌されます。
胆汁は十二指腸の中で、脂肪の乳化などのはたらきで消化を助けます。

その後、胆汁は腸管でほとんど吸収され、門脈を通って肝臓に戻されます。
ここで、門脈シャントがあると、腸管で吸収された胆汁の成分は、全身循環へと流入します。
そこで、絶食状態と食後の血液を検査し、そこに含まれている胆汁の成分を調べることで、胆汁の流れに異常がないかを調べることができるのです。実際には、総胆汁酸(TBA)という成分を検査します。

門脈シャントの治療

門脈シャントが原因で尿路結石ができている場合、結石を摘出しても再び尿路結石が形成されてしまいます。
やはり、門脈シャント自体の治療が必要です。
門脈シャントの治療は、外科による異常血管の閉鎖によってなされます。
内科による対症療法もありますが、根本的な治療ではないため、一時的な治療に留まってしまいます。

・異常血管の把握

門脈シャントの手術をするには、どの部位にいくつの異常血管があるのかを把握しなくてはなりません。 そこで、手術前にCT検査や造影検査をすることで、異常血管の位置と数を把握します。
近年は、手術中に血管造影をする技術もあり、より確実な手術を可能にしています。

・異常血管の閉鎖

異常血管をみつけたら、いよいよ異常血管を閉鎖します。 このとき、糸をつかって一気に結紮することもありますが、特殊な器具を使って徐々に閉じる方法もあります。 特殊な器具としてよく使われるのが、アメロイドコンストリクターです。
この器具は輪っかの形状をしており、外側は金属などで固く、内側は吸湿性物質でできています。
閉鎖したい血管にアメロイドコンストリクターを設置すると、内側の吸湿性物質が徐々に膨張し、シャント血管を締め付け、閉鎖します。

シャント血管が太く、一気に閉鎖すると血液の流れが一気に変わってしまう場合は、 特に好んでこういった器具が使われます。

門脈シャントの予後

門脈シャントの予後は、異常血管の閉鎖が成功すれば、一般的に良好です。
ただし、肝臓の機能が低下している症例が多いため、麻酔リスクが高くなってしまいます。
また、正確な原因は分かっていませんが、術後の血液の流れの変化から、術後数日で発作を起こし、残念ながら命を落としてしまうこともあります。

意外と身近な門脈シャント

門脈シャントの症例は、近年徐々に増加しているという報告があります。
これは、症例自体が増加している可能性もありますが、検査の精度が上がり、症状がほとんど出ていない症例も健康診断で検出することができるようになったからであるとも考えられます。
重篤な症例であれば手術難易度も上がり、麻酔リスクも高くなってしまう疾患ですが、手術が成功すれば、完治を望むことができる疾患でもあります。

冬の尿路結石の影に隠れているかもしれない門脈シャント。 定期的な健康診断と、些細な異常でも動物病院を受診することが大切です。