第40回 不意に吐き出される毛玉


滝田雄磨 獣医師

  • 犬や猫は人間と比べ、嘔吐することが多い動物です
    ドライフードを勢いよく食べすぎて吐き戻すこともあれば、空腹時間が長すぎて、朝方に胃液を吐いてしまうこともあります。

    これらの嘔吐は、重篤な疾患が原因で吐き戻しているのではなく、
    生理的な行動の一貫として、吐き戻しをしています

    そんな生理的な吐き戻し行動のひとつに、
    猫の毛玉の吐き戻しがあります。

  • 猫が毛玉を吐くのはなぜでしょうか。
    単純に答えると、毛をたくさん飲み込んでいるからです。
    猫はとてもキレイ好きな動物であるため、自分の体を舐めてグルーミングすることでキレイにしようとします。 猫の舌の表面には、無数のトゲがあり、そのトゲは舐めたものを喉の奥へ運ぶように並んでいます。 これは、野生の猫が動物を食べる時、骨から肉をこそぎ取るために便利な構造です。

    そのため、猫が自分の体をグルーミングすると、その舌で絡め取った毛は喉の奥へと運ばれ、飲み込まれていきます。 飲み込んだ毛の一部は、胃腸の奥へと進み、糞便と一緒に排泄されます。
    残りの飲み込んだ毛は、胃のなかに溜まって毛玉となった後、嘔吐行動によって吐き出されるのです。

  • 猫が毛を飲み込み、吐き戻すことは生理的な行動です
    しかし、稀ではありますが、毛が胃の中に過度に貯まると、毛玉が大きくなり、胃の先の腸管で詰まり、腸閉塞を起こすことがあります

    腸閉塞が起こると、食物が通過できなくなり、場合によっては腸管穿孔をひきおこして命を落とす可能性もあります。

    腸閉塞を起こす可能性があるとなっては、毛玉とて侮ることはできません。
    毛玉が過度に溜まってしまう原因を把握し、可能であれば予防してあげましょう。

  • ・長毛種 長毛種は、短毛種と比べ、より毛が絡まりやすく、より多くのグルーミングが必要です。 また、同じ本数を飲み込んだとしても、毛が長いほうがより大きな毛玉ができてしまいます。 長毛種の場合は、飼い主がブラッシングをしてあげることで、毛玉を減らすことができます。

  • ・他の疾患によるグルーミングの増加 グルーミングの量が多すぎると、飲み込む毛の量も多くなり、大きな毛玉を作ってしまいます。
    グルーミングの量が多くなる原因のひとつに、他の疾患が隠れていることがあります。
    例えば、痒みを伴うアレルギー性皮膚炎、ノミ感染症があれば、グルーミングは増加します。
    また、膀胱炎があると、膀胱付近に違和感を感じ、下腹部?腰部を中心に過度なグルーミングをするようになります。

  • ・体にほこりやニオイが付きやすい 猫は本来狩りをする動物です。
    そのため、体に邪魔なニオイが付いていると、それを落とすために熱心にグルーミングをします。 同様に、体が汚れやすい環境では、グルーミングの量が増加します。
    このような習性があるため、中毒症状を起こす植物成分のエキスが入ったアロマをたくと、 グルーミングでその物質を体内に取り込み、重篤な中毒症状を起こす恐れがあります。

  • ・ストレス グルーミングは気持ちを落ち着かせる効果があると考えられており、ストレスがかかるとグルーミング行動が増加します。
    極端な例だと、花瓶を割った後に一生懸命グルーミングすることも・・・。
    猫の室内飼育では、トイレ、キャットタワー、爪とぎ、多頭飼育など、ストレスフリーな環境を作るには様々な障害があります。

  • よりよい環境づくりを心がけたうえで、それでもストレス行動があると考えられる場合は、フェロモン製剤を使うことも検討します。 痛みを伴う疾患がある場合も、そのストレスによりグルーミングが増加することがあります。

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    ・胃腸の運動障害 胃腸の運動が悪くなると、毛が長くとどまり、毛玉は大きくなります。
    原因を特定し、治療する必要があります。

  • ・フード 胃腸の運動にも関わりますが、フードを変更すると毛玉を減らすことができます。 一般的にフードのパッケージに毛玉ケア、便秘対策などと記載されているフードが有効です。 これらのフードは食物繊維の量が多く、胃腸の運動を促し、毛玉の貯留を抑えることができます。 フードを小分けに与えると、より胃腸の運動を促すことができます。

  • ロイヤルカナンヘアボール ケア 吐き戻しや腸内での毛玉の形成に配慮し、ムチン質を豊富に含むオオバコ(食物繊維源)や、ミクロ繊維を配合することによって、飲み込んだ毛の健康的な排出をサポートするキャットフード♪ 商品はこちら

  • ・猫草 猫草を食べることで、嘔吐を促し、胃腸運動を促すことができます。
    猫草とは、市販されている背丈の低い植物です。主にカラスムギの若葉が猫草として売られています。
    猫草は猫が生きていくうえで必須のものとまでは言えませんが、 毛玉をためやすい猫にとっては、体調を整える効果を期待することができます。

  • ・サプリメント それでもうまくコントロールできない場合は、サプリメントを使います。
    サプリメントに分類されるものは、基本的には潤滑油の役割があるものです。
    流動パラフィンなどが含まれており、人間を含め、重篤な副作用がないものとされています。 人間では下剤として従来使用されてきた成分です。

  • 猫が毛玉を吐くしくみ、毛玉がたまりすぎた場合の問題点と対策について紹介しました。
    たかが毛玉。されど毛玉。

    腸閉塞を起こして命に関わることもあるのです。
    日々の生活で少し工夫をしてあげることで、重度の毛球症を予防することができます。
    もし、家の猫に消化器症状があり、その原因に毛玉が疑われた場合は、毛玉のための対策を試してみてください。
    ちょっとした工夫で、より安全な生活を送ることができるでしょう。