第36回 食糞、拾い食い・・・異嗜症?


滝田雄磨 獣医師

  • よく飼い主をなやませる犬猫たちの問題行動のひとつに、
    異嗜症(イシショウ)があります。
    異なる嗜好性と書いて異嗜症。
    食べてはいけないものを食べてしまう行動です。
    今回はこの異嗜症について紹介します。

  • まず、異嗜症は病気かどうかという点ですが、それはその行動を起こしている原因によります。
    食べ物以外を口にする場合、空腹が原因なのか、癖になっているのか、他の行動の一連でしているのか、不安やストレスを紛らわせるためにしているのかなどの場合を考えることができます。
    それぞれの場合や、食べてしまうモノに分けて考えていきましょう。

  • タイトルにも載せましたが、
    最も一般的にみられる異嗜症のひとつに、食糞があります。
    子犬で多くみられますが、まれに猫でもみられます。
    子犬の食糞という行動を知らない人が聞いたら、大変おどろくことでしょう。
    それは、我々が糞は汚いものだと知っているからです。
    しかし、犬は糞が汚いものだとは知りません
    むしろ初めて目にしたときは、なんて香ばしいモノなんだ!という認識をすることでしょう。

  • 糞便に含まれているニオイの成分には、インドールやスカトールという物質があります。
    これらの成分、実はジャスミンなどの香水の成分でもあります。
    つまり、いい匂いと臭いは紙一重なのです。
    食糞を擁護するわけではありませんが、知らなかったら自然な行動なのかもしれません。
    とは言え、止めてほしい行動には違いないので、対策を考えてみましょう。

     

  • 空腹が原因で食糞をしている場合です。
    特に子犬で言えることですが、育ち盛りの子はすぐ空腹になるものです。
    子犬では食事の回数や量が少なすぎると、低血糖になってしまうこともあります。
    一日の食事量を調べ、適切な量、適切な回数で与えると、食糞が改善することがあります。

  •  
  • フードの内容も食糞に影響します。
    子犬の場合は子犬用に作られた栄養バランスの適したフードを与えることが最も良いでしょう。
    成犬で食糞が見られる場合は、食物繊維の多いフードを与えてみてください。

  • 一概には言えませんが、食物繊維が多いフードから作られる糞便のほうが、嗜好性が低いと考えられています。
    また、食糞を防ぐためのサプリメントも開発されています。
    すべての犬猫に効果が保証されているわけではありませんが、一度試してみると良いでしょう。
    成犬でも空腹が原因で異嗜症を起こしている場合は、寄生虫疾患、ホルモン疾患、消化器疾患も疑う必要があります。
    血液検査、糞便検査など、一度動物病院を受診してみましょう。

     
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  • 食糞に対する基本ですが、犬が排泄したら、なるべく早く糞便を片付けるようにしましょう。
    食糞が習慣づいてしまうと、改善は難しくなります。
    また、犬が食糞しようとした時に大声を出したり叱ったりしている場合、食糞を悪化させている可能性があります。

  • 飼い主側からすれば、叱っているつもりでも、犬側からすれば、大きな声で飼い主が構ってくれていると勘違いしてしまうことがあります。
    【食糞】 → 【飼い主が走り寄って注意】 → 【犬は遊んでくれていると勘違い】
    それを防ぐためにも、犬が糞を排泄したら、飼い主はなるべく冷静に片付けてあげることが大切です。

  • 糞をなるべく早く片付けるためには、犬がいつ排泄するのかを知っておく必要があります。
    一般的に、犬が排泄をすることが多いのは、食後、運動後、起きた後です。
    食事のタイミングを調節したり、運動後しばらくは排泄しないか観察したりすることで、対策しましょう。

    食糞が重症化すると、排泄が終わるやいなや食糞してしまう子もいます。
    そういった子は、単なる好奇心だけではなく、不安やストレスから食糞をしている可能性があります。

    例えば、
    【排泄】 → 【叱られる】 → 【排泄は悪いこと→糞便を隠さなくては!】 → 【食べたらバレないぞ】
    という認識をしている場合です。

  • この場合、排泄と恐怖が関連付けられてしまっているので、
    治療は複雑になります。
    重症の場合、抗うつ薬やサプリメントを使って不安を和らげ、徐々に行動修正の治療をしていく必要があります。

    不安を与えるようなしつけをしている場合は、注意が必要です。

  • 散歩中に石をよく飲み込んでしまうという犬がたまに来院します。散歩中に草を食べてしまう行動はよくある行動ですが、石となると話は変わってきます。

    石を飲み込んでしまったら、大きなものであった場合は手術や内視鏡で摘出する必要があります。
    実は、この石を飲み込むという行動は、ストレスや不安から来る常同障害である可能性が高いと考えられます。

  • 常同障害の治療法の主軸は、不安を取り除くこと、ストレスを発散させてあげることです。
    散歩は本来不安を解消させてあげる行動であるため、散歩中になにかストレスがかかるような行動や環境がないか、検討する必要があります。
    そういった原因が見つからない場合は、散歩中に限らず、何かしらに対する強い不安やストレスがある可能性があるため、薬やサプリメントを併用して不安を和らげる治療が勧められます。

  • 猫が布、ひも、ビニールなどをしゃぶり続けるという行動があります。この行動は、比較的多くの猫でみられる行動です。

    ひも状の異物を飲み込んでしまう猫は多いのですが、実は、ひも状の異物は腸管に引っかかり、管状の腸管を手繰り寄せて傷つけ、手術が適応となる重篤な消化管障害を起こしやすいという特徴があります。
    これらのモノをしゃぶることが問題となる場合、まずはこれらのモノを猫の手の届く場所に置かないことが先決です。

    しかし、実はこの行動は猫が遊んでいるだけなのではなく、常同障害の特徴的な行動のひとつであるという点にも注意する必要があります。
    常同障害の治療は、不安やストレスを取り除くことですが、猫はとてもストレスを感じやすい動物です。同居動物や環境によりストレスを溜め込んでしまいます。

  • ストレスに思い当たる節があれば、それを取り除けるか検討しましょう。
    可能であれば、キャットタワーやおもちゃなどでストレスを発散させたり、猫が逃げ込むことができる静かで暗い場所をつくってみたりなどの工夫をすることも大切です。
    紐状の異物は重篤な消化管障害を引き起こすため、問題行動の改善が乏しいときは、積極的に薬やサプリメントによる治療を始めましょう。

  • 食糞や小石、ひも状の異物など、
    比較的よく見かける異嗜症について紹介しました。
    よく見かける行動ですが、特にひも状異物などは命を落とす危険があります。

    その行動に原因があるのか、治療法はあるのか、
    早い段階で検討することが大切です。
    問題行動がみられたら、大事に至るまえによく観察し、動物病院に相談するようにしましょう。