第33回 乗り物酔い(動揺病)


滝田雄磨 獣医師

  • 犬を飼うときに憧れる情景のひとつ。愛犬と楽しくドライブ。
    海、山、川、ショッピングなど、
    いろいろなところへのおでかけに夢が膨らみます。
    しかし、実際に愛犬を迎え入れ、ドライブに行くと、
    そこには思わぬ障害が・・・。

    乗り物酔いです。

  • 乗り物酔いとは、車や船、飛行機などに乗ったとき、その揺れによって起こる症状で、動揺病とも呼ばれます。
    重症化すると吐き戻しを引き起こします

    人間も犬も、耳の奥にある耳石器官や半規管という器官で、身体の加速と減速、回転などの動きを捉えています。
    乗り物に乗ったとき、これらの器官に長時間刺激が加わり、さらに目から入ってくる情報とのズレによって脳に混乱が生じて乗り物酔いをひきおこします。

  • これらの機序にくわえ、不安やストレスなどの精神的な要因も乗り物酔いを助長、誘発します
    人間において、過去の乗り物酔いの記憶がプレッシャーやストレスとなり、乗り物酔いを引き起こす原因となっていることも少なくありません。

  • 犬の乗り物酔いは、人間と同じく、気持ち悪くなり、嘔吐をともないます。
    しかし、人間と違い、気持ち悪いことを事前に教えてくれないので、急に吐き戻しをおこして驚かされてしまいます。
    乗り物酔いをしながら長時間ドライブを続けることは、本人にとって辛い時間です。
    乗り物酔いの兆候がみられたら、早めに休憩をとってあげるようにしましょう

  •  

    吐き戻しをする前に、以下のような兆候がみられることがあります。

    ・あくび

    ・流涎(よだれ)

    ・嚥下(飲み込み)

    これらはいずれも嘔吐反射の症状です。
    その他、不安そうに震えたり鳴き続けたりする場合は、乗り物酔いを起こしやすい状況だと言えます。
    これらの兆候がみられたら、無理せずこまめに休憩し、車から降りて気分転換をしてあげるようにしましょう

  • 乗り物酔いの治療は、まず、乗り物から降りることです。
    基本的に、乗り物から降りて気分転換をしてあげれば、すぐに元気になります。

    しかし、まれに嘔吐が繰り返し続いたために、脱水を引き起こすことがあります
    夏の大型連休など、ただでさえ脱水で熱中症に気をつけたいときには、繰り返しの嘔吐は油断できません。

  • 特に短頭種などの熱中症を起こしやすい子の場合、脱水には十分に注意してください。
    乗り物から降りても元気にならない場合は、はやめに最寄りの動物病院を受診してください。
    熱中症は命に関わる疾患です

    乗り物酔いに対しては、治療をするよりも予防することが大切です
    いくつかのことに気をつけ、投薬も併せることで予防することができます。

  • 2007年、ファイザー製薬会社から、画期的な乗り物酔い予防薬、制吐薬であるセレニアが発売されました
    セレニアの有効成分はマロピタントです。
    マロピタントは、脳の嘔吐中枢に直接はたらきかけることにより、さまざまな刺激が原因の嘔吐に対し、制吐作用を示します。

  • 錠剤は投与してから1時間で効果がでるので、乗り物に乗る1時間以上前に投与しましょう。
    1回の投与で約24時間、長く効果が持続します。
    セレニアの発売により、乗り物酔いによる嘔吐の予防は大幅に改善しました。
    しかし、嘔吐だけではなく、乗り物それ自体に対する不安、パニックなどの症状を呈する場合、セレニアだけでは予防することができません
    その場合は、鎮静剤の併用も検討しましょう。

  • 乗り物酔いの症状は、その子によって大きく異なります。
    長時間乗っていても平気な子がいれば、短時間でもすぐに嘔吐してしまう子もいます。

    そもそも個体差の大きい疾患ですが、精神的な面は、
    ある程度、訓練で症状を和らげることができます

  • たとえば、「車=動物病院で注射=怖い」という連想がされてしまっている場合です。
    動物病院では良かれと思って施している治療も、残念ながら本人には嫌な思い出となってしまうことがあります。
    ペットホテルで遊んであげたり、たくさん褒めてあげたり、ご褒美をあげたり。
    動物病院でも犬たちに病院を好きになってもらおうと努力をしていますが、みんなの不安がなくなっているかどうかは難しいところです。

  • 飼い主も動物病院ではいつも以上に褒めてあげる、
    ご褒美をあげる
    、さらに時間に余裕があれば、動物病院へ行ったあとは本人が好きな場所(公園やドッグラン)へ立ち寄るなどすると、
    「車=動物病院=楽しい」と連想させることができます。

  • もちろんワクチンを接種したあとや体調が悪いときは安静にしなくてはいけません。
    体調が悪いとき以外でも、フードを買いに行く、身体検査を受けるなどの本人があまり嫌がらない用事で動物病院に行くことも、ひとつの方法です。
    なるべく動物病院と楽しいことや場所をセットにし、車に対する不安を減らしてあげましょう

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    人間でも同じことが言えますが、満腹の状態のほうが乗り物酔いになりやすくなります
    かと言って、長時間の絶食状態にしても吐きやすくなることがあります。
    乗り物に乗る2時間前に少量のフードを与えると、比較的吐き戻ししにくくなります

  • 揺れや加速減速が激しいほど、乗り物酔いになりやすくなります
    乗り物酔いが心配な場合は、最大限優しい運転をするように心がけましょう。
    また、車内の空気がよどんでいる、ニオイが強いと酔いやすくなります
    可能であれば窓を開ける、エアコンは外気導入を使うなどの工夫をしましょう。

  • 多くの場合、車のエアコンは普段から外気導入が推奨されています。
    (渋滞、トンネルなどの外気が汚れている場合は内気循環)
    内気循環のほうが効率よくエアコンが効き、燃費も良くなる傾向はありますが、 内気循環はエアコンの中や車内にカビが付きやすくなるというデメリットがあるためです。

  • エアコンの中にカビをつけにくくするコツとしては、
    エアコンを使って走行した後は、10~15分ほどエアコンを切って送風のみにしましょう。
    すると、エアコンの中に溜まった結露を取り除くことができます。

  • 夏の車内は恐ろしく熱くなります。
    エアコンの中に結露が溜まっているまま熱くなると、カビにとっては最高の繁殖環境となってしまうのです。
    それでもカビ臭くなってしまう場合は、まめにエアコンの掃除をするようにしましょう。
    犬は人間よりもニオイに敏感です。
    芳香剤などでごまかすのではなく、キレイな環境を作ってあげましょう。

  • 乗り物酔いの対処法について、投薬やしつけのほか、運転のときに気をつけたいことも含めてご紹介しました。
    車がトラウマになる前に、上手に薬を併用することも大切です。
    乗り物酔い自体が命に関わることはほとんどありません。
    しかし、夏の大型連休に遠出をし、乗り物酔いで嘔吐を繰り返し、脱水状態となって熱中症をひきおこすという事故も起きています。
    たかが乗り物酔いと油断せずに、なるべく辛い思いをしないで済むよう、上手に付き合っていってあげましょう。