第21回 犬の寿命を大幅に縮めていた、フィラリア症
滝田雄磨 獣医師
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犬にみられる疾患、フィラリア症。
犬を飼ったことがある方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。
毎年、暖かい時期から冬にかけ、
予防薬を飲むことを勧められる寄生虫疾患です。よく耳にする疾患ですが、
街中で実際に発症している犬を見かけることは少なくなりました。
しかし、フィラリアの予防がしっかりされていなかった時代は、
犬の寿命を大幅に短くしていた疾患であったことをご存知でしょうか。
今回は、このフィラリアについてご紹介したいと思います。
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フィラリアとは、寄生虫の名前です。
犬の心臓〜肺動脈に寄生します。
またの名を、その糸状の見た目から犬糸状虫といいます。
蚊の吸血により、感染します。
そのため、蚊が活動している時期に定期的に駆虫薬を投与することで、感染を予防することができます。
フィラリアは、犬にとって、しばしば致命的となる疾患です。
過去では、多くの犬がフィラリア症により、命を落としていました。
1981年、動物用の薬として、イベルメクチンという成分を含む薬が開発されました。
イベルメクチンは、フィラリアを駆虫することができる成分です。
この薬の開発により、フィラリアは治療、予防され、
犬の寿命は2倍以上にも伸びたと言われています。
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また、この薬は人間の医療においても絶大な功績を残しています。
たとえば、イベルメクチンは、熱帯地域で蔓延している、
河川盲目症という寄生虫疾患の治療をすることができます。
河川盲目症は、その名の通り、
河川域でブヨの吸血によって感染する糸状虫疾患で、
感染すると盲目、失明してしまいます。
しかし、イベルメクチンによって、この感染症の治療と予防が可能となり、
2002年までに60万人が失明から救われ、4000万人が感染を免れました。
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この功績により、開発者のひとりである、
北里大学の大村 智 博士が、2015年、
ノーベル生理学・医学賞を受賞したことは、記憶に新しいところです。
犬の獣医医療領域では、イベルメクチンをふくめ、
さらなる新しい薬が続々と開発されています。
フィラリア症になると、
体の中でフィラリアはどういった動きをしているのでしょう。
フィラリアは、卵胎生であり、
卵がメスの体内で孵化し、幼虫を出産します。
幼虫は、脱皮により5段階の発育ステージを経て、成虫になります。
それぞれの発育ステージを、L1〜L5および成虫と呼びます。
特に蚊が吸血する最初のステージの虫体を、ミクロフィラリアと呼びます。
先に紹介したような駆虫薬は、
実は全ての虫体ステージに効くわけではありません。
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L3〜L5にはほとんどの駆虫薬が効果を発揮しますが、
L1〜L2には効果がない駆虫薬もあります。
しかし、L4(体内移行幼虫)に対しては、100%駆虫できることがわかっています。
L4(体内移行幼虫)は、感染後3日〜70日の間、体内に存在しています。
つまり、最後に蚊に刺された時から、3日〜70 日のタイミングで、
駆虫薬を投与する必要があります。感染するタイミングと駆虫するタイミングにズレがあるのです。
もう蚊が飛んでいないと思われる時期まで薬を投与しなくてはならないのは、
このためです。
また、残念ながらこれらの駆虫薬は、成虫を駆虫することはできません。
成虫には成虫用の駆虫薬があるのですが、
フィラリア症が蔓延している地域でなければ、病院に常備されていないこともあります。
成虫の駆虫が必要なほどの病態であれば、命の危険がある病態と言ってよいでしょう。
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あまり知られていませんが、
実は猫もフィラリアに寄生されることがあります。犬に比べると、症状が乏しく、発見が困難です。
また、猫において症状(咳、呼吸困難、吐き気、食欲不振など)が認められた場合、フィラリア症はすでに進行しており、治療が困難です。
また、突然ショック状態に陥り命を落とすこともある、恐ろしい疾患です。
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なんと、人間にも犬糸状虫が感染することがあります。
肺に移行した場合、しこりとなり、肺がんを疑われて切除され、
病理検査で犬糸状虫症と診断されることがあります。
ただし、人間のからだのなかでは、犬糸状虫は成虫まで成長することができません。
そのため、重篤な症状を呈することが少なく、多くの場合、経過観察となります。
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犬のフィラリアの生活環や歴史、背景について紹介しました。
フィラリア症をしっかりと予防するためには、その生活環を理解する必要があります。
なぜ、毎シーズンフィラリアの検査が必要なのか、
毎月駆虫薬を飲ませなければいけないのか、実際に感染したらどうなるのか。
次回、フィラリアに感染したときの具体的な症状や、
予防薬の投与方法について紹介します。
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