■ スキンステッチとは何か

スキンステッチとは、“革の内部を手で縫い通す”縫製の技術を称する。 靴の製作において、革のパーツとパーツを繋ぎ合わせる時や、飾りとして施すときに縫製を行うが、その時、革の表と裏を糸が貫通するのが一般的な縫製である。

これに対し 、スキンステッチは、一方から針を入れた後、その反対側へは針を貫通させず、革の内部のみを縫い通すのである。平面形状の革の上に美しい立体感を与える意匠。この章では、前回のスキンステッチの詳細説明に引き続き
、スキンステッチの1つの形である、「ライトアングル ステッチ」について触れたい。


■ 一般的なスキンステッチとの違い

ライトアングル ステッチはUチップ(靴のフロント、トウキャップの部分をU字型でデザインしたもの)によく見られるスキンステッチである。


通常、スキンステッチは装飾として施される事が多いが、このスキンステッチは“成形に関わる部分を縫製する”(U字の中の革と外の革を繋ぎ合わせる)。

そのため、一般的な装飾としての役割を果たすスキンスキンステッチに比べ、さらに困難な作業になる。まず縫製の準備段階にあたる穴開けに関わる部分の説明をしよう。







■ 二枚の革に施す穴を狂いなく一致させる


スキンステッチでは、縫製をする前にまず針を通すための穴を開ける作業が必要になる。(左図:@)

良質なカーフはしなやかで柔らかな素材であるが、非常に強固な素材でもあるため、縫製をするような細い針では糸を通すことが困難になるからである。


僅か数ミリの革の内部を均一の間隔で縫製していく。一つ一つの穴の大きさ、位置が僅かでもズレてしまうと、釣り込みをする時にそこに負荷がかかり革が裂けてしまう。

また、ライトアングルステッチでは、“2枚の革を同時に縫製する”。そのため、それぞれの革に施す穴の位置がズレないよう、2枚の革に開ける全ての穴の位置を定めなくてはならない。スキンステッチを施す上で、最も神経を使う場面である。


この2枚の革を、予め固定した状態でズレなく縫製していく必要がある。



そこで、木型に仮留めをした状態で、縫製していく。この段階ではまだ釣り込みを行えないため、一点一点要所に固定のための釘を打っていく。(左図:A)最初にU字の内側を留め、その後内側の革に合わせて外側のアッパーを仮留めしていく。(左図:B)


この時、スキンステッチを施す穴の位置が狂いなく合うよう、“予め立体になった状態を想定して”二枚の革の穴を施しておくことが重要だ。重ねて言うが、どこか一点でもズレが生じれば、そこから靴は破綻してしまうからである。




続いて革を木型に釣り込んでいく。ここで、このスキンステッチ特有の釣り込みの課題が現れてくる。


革を立体に仕立てる過程では、平面上の革を立体にするため非常に強い力をかけることになる。冒頭で、このスキンステッチは成形に関わる縫製であることを述べたが、ここで大きな問題がある。U字のステッチの部分は、釣り込みをする時に、最も負荷がかかってしまう箇所なのである。そのため、機械で釣り込みを行ってしまうと微細な感覚で釣り込むことが難しいため、そのまま縫製の部分が裂けてしまうことがある。

また、仮に機械で縫製が裂けることなく釣り込みを行えても、強度の面で不安が残る。そこで、このスキンステッチを施すデザインに関しては、大塚製靴では“手”で釣り込む工程を加えている。


1箇所1箇所、革のテンション、皺の逃し方を確認しながら釣り込んでいく。立体に釣り込んでいくためには非常に強い力を必要になるため、「わに(ラスティング・ピンサー)」という専門の道具を用いて釣り込みを行う。

■ 二枚の革を同時に縫製していく


最後に縫製を加えていく。微細に穴を調整しながら糸を通していく。最終的に重要なのは、施した糸を同じテンションを一つ一つ絞り上げることである。


均一な力で絞り上げることで、モカの部分に美しい立体的なラインが生まれる。どんなに強固な作りで仕立てても、このUチップの顔とも言える部分が美しく仕上がらなければ、意味がない。



均一に仕立てられたUチップは、男性的な力強い魅力を備えるとともに、秀麗な表情を醸し出す。“手”で行う意匠だからこそ、生まれる表情である。




※下図は、ライトアングルステッチを施した「M5-011 外羽根Uチップ」



この技術を使用している靴

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■M5-011(外羽根Uチップ)