牛は、人間が食べることのできない草を食べ、人間の食料になる牛乳や肉を提供してくれます。
その役割を担っているのが、’4つの胃’の中にある「もうひとつの生態系」です。
しかし、こうした素晴らしいメカニズムを無視して、牛の本来の食べ物ではない「穀物」を与え続けることが一般的になってしまった現代の酪農では、牛の体にさまざまな異変が生じているのです。

牛の優れたところは、人間が消化吸収できない強固な細胞膜(セルロース等)を持つ草を食べ、人間の食料となる肉や牛乳を生み出せる「もう一つの生態系」を自身の胃に備えている点にあります。この素晴らしいメカニズムを無視して穀物を与え続けることで、第4胃変位※1や第1胃(ルーメン)※2の酸性 化・消化障害などが多発し、予防・治療の投薬が必要になってしまうのです。

※1反芻動物の第4胃内にガスが貯留することにより第4胃が左か右に移動し、消化障害あるいは閉塞の症状を示す疾病。四変[よんぺん]ともいう。

※2牛の胃全体の80%を占め、100Lもの容量がある。微生物が生息し草の繊維質をエネルギーとして利用可能な状態にまで発酵させる。第2胃を含めて反芻胃とも呼ばれる。

(1)一度飲み込まれて第1胃に入った草は、時間が経つと口へ戻ってもう一度咀嚼(そしゃく)されます。

反芻(はんすう)と呼ばれるこの行動も何度も繰り返すことで、硬い食物繊維が細かく砕かれて唾液と混ざり合い、胃の中に多数共生するさまざまな微生物(細菌群と原虫類)による分解・発酵を促進します。
(2)草の中にはそのままでは牛が利用できないタンパク質がたくさん含まれていますが、そのタンパク質は第1胃(ルーメン※1)と第2胃にいる微生物によってペプチド・アミノ酸・アンモニアなどに一旦分解されます。

これらの栄養素は直接牛の養分としてではなく微生物が成長・増殖するために利用されるのです(微生物はその後第3胃を通って第4胃へと流れていきます)。
(3)第3胃の役割はおもに水分を吸収すること。そして第4胃は人間の胃と同様に胃酸やタンパク質分解酵素を分泌して消化を行います。驚くべきことに、牛は、反芻胃で成長・増殖して第4胃に流れてきたぼ生物群をタンパク源として消化・吸収するのです。

植物から得られる利用しにくいタンパク質を一度微生物に引き渡し、微生物の体という利用しやすいタンパク質に作りかえて摂取するのです。

まさに極限まで洗練された驚異の消化吸収システムといえるでしょう。これほど素晴らしい生体のメカニズムを壊すような飼育は間違ってると思いませんか?