5月のシカゴはまだ少し肌寒かった。目を見張るほど巨大なオヘア国際空港に降り立つ。ブルッと体が震えたのは気候のせいだけではない。これから始まる旅に気持ちが高ぶっていた。
「ドライエイジングの話なんですけど、シカゴにすごい会社があるんですよ」
と、商社の担当から聞いたのは2018年の春先。聞けばそのDAB(ドライエージドビーフ)を輸入するのだという。
「現地のDABを輸入する? おいおいマジか、すごいじゃないか!」
「これはすぐ行かねば」と確信した。
そして5月、スケジュールをやりくりしてなんとか日程を確保し、2泊4日の弾丸ツアーに飛び出したのである。
シカゴは大都会である。しかし車で走ると、じきに緑豊かな風景が広がる。目的のリンツ社は中心部から車で40分ほどの郊外の街にあった。
50年ほど前に初代マーチン・リンツが開いた小さな精肉店。
「旨いビーフを届けたい」という信念を守り続け、半世紀を経た今、リンツはとびきり旨いDABの生産者として全米にその名をとどろかせている。