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Season8「な気分」おかしな気分 2023年8月31日

突然ですが、最近の僕の推し都道府県は、岐阜県です。生まれも育ちも愛知県である僕が、お隣の県になぜか惹かれて仕方がない。実は家系図を辿っていくと、和田家のルーツは岐阜県にあった!というのは本当の話なんですが、そんな事はどうでもよくって。岐阜は川の県。山々が連なっており、そこから湧き出る水の見るにも惚れる透明度。そんな恵みをベースに、陶芸から食まで、脈々とここにしかない文化が構築されている姿が、都会のそれとは真逆で美しい。

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ツバメヤ

岐阜駅から少し北へ行った所に、昭和の佇まいを残した柳ヶ瀬商店街があります。この数年でシャッターが下りているお店もある中、常に人の出入りが絶えないお菓子店「ツバメヤ」。毎日朝早くから店舗奥の厨房で、ひとつひとつ丁寧に手作りしているお菓子のお店です。親しみのある和菓子から、サブレやプリンまでがズラリと並んでいます。敢えて敷居を高くしないようにしているのでしょうか、お子様からご年配の方まで世代を超えて街の人達から愛されているように感じますね。

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そんなツバメヤさんが、東京進出をするらしい。そして、その店舗のデザインを我らがSTIIKのデザイナーでもある鷲見栄児さんが手掛けるらしい。と聞けば、行かない理由はありません。暑い暑いお盆明けの8月18日、オープン初日に駆けつけたのでした。

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日本橋駅を出て、東京駅方面へ歩くこと3分程。大通りに面したビルの1階にツバメヤ東京店はあります。シックなグレーの外壁からは、岐阜本店とは少し違った緊張感が伺える。多くの祝い花が並ぶ中、いざ店内に入ってみれば、生地の焼けた甘い香りがふわっと漂う。店員さんの笑顔と共に、なんか安心感を覚えてしまいました。

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ムイシゼン

すると、「どもども~。」と奥から鷲見さんが登場。オープンまでかなりバタバタしていたようで、ちょっとお疲れ気味のご様子。手短に「今回の内装はどんな感じでデザインされたんですか?」と聞いてみた。「えっと、ここの内装のコンセプトは“無為自然”。それだけなんだよねぇ。」と鷲見さん。お恥ずかしながら、その言葉は初耳だったので「なんですか?それ。」と僕。

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「無為自然は、老子の言葉で、人の手を加えないで、何もせず、あるがままにまかせるっていう意味で。でも、今回のケースは、全部を自然のままにしておくと、いつまで経ってもお店はできないから、大事な部分・きっかけだけを、人間の手で作って、あとは極力最後の仕上げまで自然の風化とか、表情をそのまま活かすことにしました。」

鷲見さんの、丁寧な解説を聞きながら周りに目をやれば、確かに作為的に最後まで作り込んであるのではない事に気づきます。

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本物の土を固めて磨いた「タタキ」は、なだらかな曲線を描きながらそのままカウンターへと繋がる。そこには、一切の境界線がありません。そこに乗る板や銅板もまた、余計な加工をせず、素材をそのまま活かしているだけの造りになっています。

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お店全体を覆う、こちらも本物の土を使用した壁。土だから故、乾燥する時にひび割れを起こします。見渡せば、店内の全ての壁が見事にひび割れており、自然にこうなったというにはあまりにも美しすぎてついつい見入ってしまうほど。

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要所要所に飾られた、オブジェもまたその文脈で選ばれたもの。宮古島の土で造られた壺や、使われ続けた姿のままの臼。

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様々なお菓子を販売しているツバメヤですが、東京店では、わらび餅・どら焼き・草もち の3つのみ。この日は、既に草もちが売り切れてしまって買えませんでしたが、名物のわらび餅を連れて帰ることに。

いざ

“明日までにお召し上がりください”。

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そう書かれた箱を開けてみると…現れたのは、きなこのみ。かなりのインパクト。ここから餅を掘り起こして食べても良かったのですが、家族みんなで食べるなら、もうちょっと楽しんだ方がいいかも、と木のお盆を持ってきて箱ごとひっくり返してみることに。恐る恐る、慎重に箱を持ち上げてみれば…こっちの方が良い。

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みずみずしさを閉じ込めるように、丸く丁寧に手切りした、とろけるような食感のわらび餅。北海道産の大豆の香りと甘みを引き出したきな粉をふんだんに纏い、調和しています。職人の手先の芸術から生み出される和菓子とは対象的ですが、素材そのものを、全身で味わいたくなる、ダイナミズム。まさに大地のお菓子と言うに相応しい姿をしています。一個づつ味わうのも楽しいでしょうし、こうやって板やお盆にがさっと出して、きな粉を飛び散らせながら味わうのも良いのかもしれません。

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黒蜜などをかけるわけでもなく、そのまま頬張れば、純黒糖のほのかな余韻が、とろけるような食感と共に広がります。決して押しつけがましくない甘みは、自然と「もう一口」となってしまう。これはちょっと味わったことのない感覚です。

大地の味がする

和菓子作りは歴史の長い文化なので、暗黙のルールや決まった作り方が存在するようです。ただ、ツバメヤの作るお菓子は、おそらくその類ではないのでしょう。力強い素材を日本中から探しては、その魅力が最も活きる方法を、その場にある道具でじっくりじっくり手作りする素材主義。だからこそ、日持ちがしないお菓子が多いのも頷けます。まさに無為自然なお菓子作りと言えるではないでしょうか。

お店に入ってから、そのお菓子を口に入れるまで、一気通貫したコンセプチュアルな体験を、是非日本橋で味わってはいかがでしょうか。

つづく

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ツバメヤ公式サイト https://tsubame-ya.jp

スタッフコメント

「無為自然」私も初めて聞いた言葉でした。
あるがまま、素材を活かす。元々もっている良さを磨くことが自然な美しさになるのだな、と思いました。そんな想いでできたお菓子、ぜひとも食べてみたいです!

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和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。(インスタグラム:@k_enjiwada