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東京の伝統工芸を担う
若手職人 Vol.2

小粋屋東京が紹介しているのは、伝統工芸の技を大切に活かしながらも、現代の暮らしに寄り添うもの。
ここ東京で、伝統の技を受け継ぎ、磨いているのは、どんな人たちなんだろう? 伝統工芸の未来を見据え、新しいかたちを生み出している3名の若手職人をVol.1に続き、今回もご紹介していきます。

町田 久美子

そめもよう合同会社

町田 久美子

東京都生まれ。東京染色美術専門学校卒業後、長澤龍二氏に10年間師事。2009年に独立。手描き友禅のほか、東京友禅を気軽に楽めるようにと、2019年、手描き友禅をスキャンしてデータ化し、ポリエステルにデジタル捺染プリントした「some-pri」シリーズを開発し、商品化。

手描き友禅を、
気軽に楽しむために

友禅染は、柄の輪郭を「糸目糊」という糊で描き、そのあとにのせる染料がにじんだりはみ出したりするのを防ぐ、江戸時代に京都で生まれた染色技法。これにより、たくさんの色を使った華やかで繊細な手描き染めの表現が可能になりました。東京友禅は、江戸幕府が開かれ、多くの大名が京都から染め師や絵師を抱えて移り住んだことから伝承されたといわれています。町田久美子さんは、中学生時代に手描き友禅に興味をもち、専門学校で染色を学んだのちに友禅作家に弟子入りし、独立した手描き友禅職人。伝統工芸の未来を見据えるビジネス・ウーマンでもあります。

町田私は子どもの頃から絵が好きで、日本文化にも興味がありました。中学生時代に金沢で加賀友禅を見て、こういう“絵を描く仕事がしたい”と思ったのがこの道に入ったきっかけです。東京友禅は、江戸文化ならではの渋さと華やかさが共存し、気品のある作風が特徴。それをベースに自分らしく“カワイイ”や“面白い”、“カッコいい”を表現し、自由にコーディネートを楽しんでいただきたいと思っています。

着物を楽しむ若者層も増えているというが、ネックになるのは、価格。町田さんは、手描き友禅のよさを残したまま、気軽に手に取れる商品の開発に乗り出しました。手描き友禅を精密にスキャンし、データ化してポリエステルに捺染プリントする工場を探し当て、「デジタル友禅」を完成。「some-pri」と名付け、商品化したのが「小粋屋東京」でご紹介しているストールです。鮮やかな色合いや華やかな模様、ユニークな柄が揃いますが、どんなコーディネートにもマッチし、ふわっと明るく装えるのは、東京友禅のなせる技。

町田着物を着る人に向けて、さまざまな色柄の帯揚げを楽しんで欲しいと考えたことがきっかけですが、ストールとして幅広くお使いいただけます。この「デジタル友禅」の技術を複数の友禅職人でシェアし、商品売上の一部を還元することで、新しいビジネスモデルを確立したいと考えています。

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中條 康隆

大松染工場

中條 康隆

1973年東京都生まれ。京都の呉服商で修行ののち、2001年に同社に入社。二代目の父のもとで修行を積む。東京マイスターとして高い評価を受けるとともに、現場の若きリーダーとして若手職人の育成にも注力している。2016年に経済産業大臣指定伝統的工芸品東京染小紋伝統工芸士認定。2021年江戸更紗東京都伝統工芸士認定。

手染めにこだわる
江戸小紋と江戸更紗

柿渋を塗った和紙に柄を彫り抜いてつくる型紙を白生地にのせ、その上から防染糊をヘラで均等に「型付け」をして染め、糊を洗い落とすことで柄を浮かび上がらせる「型染め」。なかでも江戸小紋は、遠目からは無地にしか見えないほど細かな柄行きが特徴です。一方の江戸更紗は、種類の異なる型紙を何枚も重ねて異なる色を刷り込む技法。どちらも、型紙をずらさずにぴたりと位置を決めて置き、染料を混ぜた糊を型付けしていく、緻密で根気のいる作業です。大松染工場は、この2つの伝統的な染色を型付けから仕上げまで墨田区の自社工場で一貫して行う、都内でも貴重な染色工場です。

中條江戸小紋の型紙のサイズは、縦約30×横約38cmです。一反(約13m)を染めるために、型紙に開けられた「ほし」と呼ばれる小さな丸い穴の印をぴったりと合わせながら事前に水に濡らした型紙を軽くふきとって置き、餅粉と米糠で作った防染糊を型付けするという作業を45回以上も繰り返します。糊を型付けするために何度もヘラを往復させてしまうと“柄が太る”といってすっきりとした柄に仕上がらないため、一往復でまんべんなく型付けするには修練が必要です。技術と根気が必要な仕事ですが、現在4人の若手の職人が一緒に仕事をしてくれています。彼らとともに、この技術を未来につなげていきたいですね。

小粋屋東京で紹介しているのは、江戸小紋のネクタイ、江戸小紋と江戸更紗を組み合わせたストール、そして、パリで行われた「メゾン・エ・オブジェ」でも注目を浴びたワイングラスマーカーだ。

中條父の代から、ブラウスやワンピースなど、着物だけでない新しい提案を行ってきました。私も伝統的な技術とともにその進取の気風を受け継ぎ、さまざまな取り組みをしています。ワイングラスマーカーは私がデザイナーと一緒に考案したもので、評価していただいたのは嬉しい驚きでした。こうした新しいアイテムの開発だけでなく、手染めならではの新たな提案として“裏染め”にも取り組んでいます。日本の平均気温が上がり、単衣(ひとえ)の着物を着る期間が長くなっているので、通常は染めない生地の裏にも単色染めを施し、深みや重むきのある手染め江戸小紋や江戸更紗を単衣でお召しいただけるというものです。ほかに、牛皮革に江戸小紋や江戸更紗を手染めした財布なども人気です。これからも、“水と空気以外は染めてみせる”をモットーに、新素材への染色なども積極的に手がけ、私たちしかできない技術を育てて未来に伝えていきたいと思っています。

  • 中條 康隆
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柿沼 利光

柿沼 利光

1979年生まれ。人形師の初代・柿沼東光氏が1950年に創業した「柿沼人形」3代目。2005年より人形師芹川英子氏に師事。伝統的な木目込人形の技術を受け継ぎながら、デザイナーや企業とのコラボレーションを含め、新たな商品開発も手がける。経済産業大臣認定伝統工芸士。

木目込みの技術を
幅広く活かす

木目込とは、桐塑という桐の粉とのりを混ぜてつくる地に筋目を彫り、被せた布の端をその筋彫りに押し込んで仕上げる伝統技術のこと。江戸時代中期に、京都上賀茂神社の神官が、祭事に使う柳筥(やなぎばこ)の材料の残片に神官の衣装の残布を着せつけたのが始まりだと伝わります。その技術が京都から江戸に移り住んだ人形師により伝わり、次第に江戸風に変化して「江戸木目込人形」が発展。現在も、五月人形や雛人形などの節句飾りで愛され続けています。

柿沼江戸木目込人形を製造しているのは、現在東京ではわずかに5社のみとなっています。とくに数多く生産しているのは、雛人形です。雛人形がなければ木目込の技術がとうの昔に途絶えてしまったのではないかというほど、大きな存在です。人形づくりは分業制なので、さまざまな職人さんがつくったパーツがこの工房に運び込まれ、木目込で衣装を着せ、頭を取り付けて冠などを被せて仕上げをし、完成させます。衣装は、工房の倉庫に何千とストックしている生地から色合わせをしながら、1枚ずつ選んでいます。なるべく古いものを残したい想いで、薄墨で幾重にも重ねて描いた書き目のお顔を使用したり、伝統柄の衣装を着せた人形をつくるようにしていますが、目をぱっちりと丸く大きくしたお顔を取り入れたり、衣装の色合いを現代風なものにしたりと、時代の変遷に合わせて少しずつ変化もしていますね。

小粋屋東京に出品しているのは、カラフルな招き猫と、外したアクセサリーや腕時計などを入れるアクセサリートレイ。どちらも木目込の伝統的な技術が活かされているにもかかわらず、印象はポップでモダン。海外でも人気です。

柿沼少子化による仕事の減少も顕著になった20年ほど前から「招き猫」のシリーズを手がけ始めました。6年程前から力を入れて販売してきた招き猫はしっかりした目玉をはめ込んでいるので、“目力”がありますよね(笑)。海外へのお土産や、開店祝いのプレゼントにされる方も多いようです。また、昨年の国際スポーツ大会の公式グッズとしても大変人気を得ることができました。このスタイルを応用して、企業からキャラクター木目込人形を依頼されることもありますね。木目込は絹地だけでなく、レザーやラメなど、さまざまな布地に応用できる伝統技術です。アクセサリートレイなどもそうですが、今後は人形以外の分野で、たとえばホテルのベッドのヘッドボードなど、インテリア装飾の一つとしてこの技術を楽しんでいただける場を広げていきたいと思っています。

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