無垢棒削り出しボールペン開発秘話

また1つ、大量に売れるとは思えないのに、
作りたかったペンを作ってしまいました。

開発への思い

キリタで製作している金属製のボールペンの本体は、通常は板材からの深絞り、またはパイプ材から作ります。

深絞りとは、板材をプレス機で凹ませて、凹ませて、細長いパイプ状にまでした物です。
厚さ1mm程度の板から絞りますから、プレス後の本体軸の肉厚としては0.4mm程度になります。

これは真鍮でも銀材でも同じで、シルバー925ボールペンの本体軸の肉厚も0.4mm程度の厚さということになります。
(それでもペンの重量で31.3g( 銀の重量で15.8g )あり、なかなかの重量感はあるのですが。)

シルバー925ボールペンの魅力は、銀という素材の持つ白く柔らかい輝き、その素材感をメッキや塗装で隠すことなく感じられる所です。
ただ正直、もっと肉厚があれば、より価値の高いペンと なるのにという思いが心の隅にずっとありました。

また、シルバー925ボールペンと並んで人気のある高級ボールペンに、ベークライトボールペンがあります。
こちらは工業用として使われる絶縁体の樹脂であるベークライトの丸棒を、1本ずつ削りだしてペンの形にしています。

職人が1本ずつ手作りしており、大量には作れないのですが、ベークの艶のある風合いと相まって、品格のある製品となっています。

最大の魅力はその手作り感にあり、1本1本をよーく見比べると微妙に形に違いがあり、世界に1本と思えるペンです。
ただやはり樹脂であるため、キリタ本来の持ち味である金属の重量感には乏しく、他のペンの重量感に慣れているとちょっと物足りない気もしていました。

この2種類のペンの魅力を併せ持ったペンを作りたい。その思いが「無垢ボールペン」開発の出発点でした。

すなわち、表面処理をせずに金属素材の風合いのまま、プレス品とは違うガッツリとした肉厚を持ち、職人の手によって1本ずつ削り出されて作られたペン。
材料費と技術費でかなり高額にはなるけれど、受注生産で少しずつしか販売できないけど、そんなペンを作ってみたかったのです。

実はこのペンの企画自体は、かなり前からあったのです。
ただ、どれだけ売れるか分からないけど銀の棒材だけは先に揃えなければならないなど、色々な条件が整わないで、いまいち踏み切れないでいました。
(銀材は前払いが原則。)

今回は、ちょうどプレス品のシルバー925ボールペンが完売となり、次のロットの生産用に銀材を購入することになりました。
そこで、思い切って抱き合わせで無垢用の材料も注文し、いよいよ数年越しの企画が実現する事になったのです。

 

デザイン

無垢棒を削り出していく工程自体は、元々キリタの得意分野ですし、ベークライトでの経験もあります。
思い切って生産・発売をする踏ん切りさえつけてしまえば、開発自体にはさほどの苦労はありませんでした。

今回は細かい図面などを先に作ることをせず、先ずはおおまかにどう言った形状にするのかだけ決めてからキリタの職人である加川に試作を依頼しました。
その後に細かい部分の形状などに改良を加えて試作を繰り返していく方法で、開発は進めていきました。

「無垢」のデザインには、ストレートタイプとカーブタイプの2種類がありますが、最初の試作では1種類でした。
先軸がカーブタイプで後軸がストレートタイプ、天金ももっと尖っていました。

それを、全体に曲線を取り入れたカーブタイプと、直線で全てをつないだストレートタイプの2種類に分け、天金もそれぞれ丸と台形にしました。

台形の形を決めるのには、4〜5回試作をして貰いました。
「もう2mm高さを低くしてみて下さい。」とか「台形の斜めの角度をもう7-8度きつくしてみて下さい。」とか、その都度作り直して貰いました。

2つのタイプの片方をマットにし、もう片方をミラーにするアイデアは、加川の考えた物で、マットの柄(縦方向のヘアライン)も考えて貰いました。

 加川
没になった垂直型の天金

最初の試作では掘る穴の大きさも、最初は少し大きめでした。正直大きい穴の方が掘りやすいのです。
それを、あえて最低限の深さの穴だけにして極力肉厚を残すようにしました。

特に先軸は、ほとんど芯の通る細さの貫通穴しか空いていませんが、細い穴を長く空けるのはかなり難しいのです。
ドリルで空けるにせよ、穴の深さの方がドリルのグルグル部分より長いので、深く掘ると削った切り粉が排出されなくなります。
その都度切り粉を取り除きながらゆっくりと何度も出し入れして掘り進め、最後に反対側からペン先の通る小さい穴を空けます。

これによって、メカの入る部分を大きく空ける後軸より、先軸がより重くなり、振られることなく書きやすさが向上しました。

 

生産工程

銀・真鍮共に、直径10mmの棒から削り出します。
銀は1メートル、真鍮は2.5メートルの長さで入荷してきますので、まずはおおよそペン1本分の長さで切断し、
さらに先軸分・後軸分・天金分の長さで切断します。

先軸・後軸については外観を削るのは後にして、先ずは中心の貫通穴を空けます。
上述したように細い穴を長く空けるのはなかなか大変です。

内部に収まるのは、主に回転メカと芯。
それらが収まる最低限の穴だけを空けます。

 

穴空け後に外観を削っていきます。

 

 

仕上げに、

最後に、削り上がった各部材にピカピカにするバフ研磨とマットにするヘアーラインかけをします。
これらの工程には、本来、専門の研磨屋さんがいますので、大量に生産する場合は研磨屋さんに外注します。

しかし今回の製品は完全受注生産で、実際何本売れるか分からないので、全て工房内で加川が行うことになります。
本来は切削のスペシャリストですが、研磨についても玄人はだしでこなしますので、安心しています。

 

そして組立てです。

今回の製品は、他のキリタの製品と比べてかなり内製率が高くなっています。
なにしろまとまった数は期待できないので、切断から切削、仕上げ、組立てまでほとんど加川1人でこなしています。

サンプル以外は全て受注生産。1本1本丁寧に作っていきます。

 

 

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