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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
盗られる傘には「価値」がある?



 一般的・通常的な常識も良識も備えている彼が、電車内の傘を「盗む(拾う)」こ
 とにあまり後ろめたさを感じないのは、傘に対する貨幣価値が低い(百円ショップ
 でも売られている)という社会通念も多分に影響しているはずである。


 電車内に忘れられた傘は、荷物棚に置かれた週刊誌や漫画雑誌とあまり変わらない
 存在と思われるのであろう(東京のJR山の手線などでは、電車内の週刊誌や漫画
 本を収集して、駅近くで再販売する商売もあり、傘でも同じようなのを見たことが
 あるが、その後も商売として成り立っているのかどうか・・・・・)



 一方で、容易に手に入らない高価な物品も「盗み」を誘発する対象物になる。それ  が欲しいという強い情動や換金するという魅力が人を盗む行為に走らせることも少  なくないようだ。  1945年の敗戦。そして戦後60年となる節目の今年。いま。どの家庭でも玄関口など  には、少なくとも数本から数十本に及ぶ傘がたてられていることであろう。しかし、  1950年代頃までは、都会でも洋傘は家庭に一本か二本かほどの普及でしかなく  (番傘が主流)、貴重品的な存在であった。
 まだまだあらゆる物資が不足していた時代、ゴムひもや鉛筆などのこまごました日  用品を携えて訪問販売するセールスマンたちがいた。いわゆる怖いお兄さんの押し  売りだが、彼らもいま時の訪問販売に比べたら、ずっと人間味があったとさえ思わ  れるほどである。  そんなセールスマンが帰った後で、玄関先の洋傘が紛失していたなどという話も出  たりしたものであった。(玄関の戸締りも今ほど注意深くなかった・・・・・?)  
 傘が高級品で効果であった時代、傘泥棒は、海の向こうでも流行っていた(?)ら  しく、1868年(日本では慶応4年。その年9月に明治と改元する)7月1日の『ザ・  タイムス』に、次のような趣旨の読者からの投書が載っている。  「料理人・家政婦・雑用係などの求人募集広告を出すと、召使いの身なりで応募し  た女性たちがよく傘泥棒を実行する。彼女たちは、ショールとか衣装の下に傘を隠  して立ち去る。 私は今週、年齢45歳位に見える別々の二人の婦人によって二本の  傘を盗まれた。2年ほど前にも、今とは違う家に住んでいた時に同じようなことを  経験している・・・・・」。
 ほぼ、同じ時期、ある男が8〜9本盗んだ傘を所持していたことで捕えられ、投獄二  ヵ月間を宣告されたという話もある。傘泥棒が商売(?)として成り立っていたの  であろう・・・・・。

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