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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
古代ギリシャとパラソル



  現代オリンピック第1回大会は、1896(明治29)年4月にアテネで開かれた。
以後4年毎に開催されているが、第6回(1916)、第12回と第13回(1940・1944)は
戦争のため中止されている。

 古代オリンピック大会は、ギリシャの主神ゼウスに捧げる多神教の祭典競技として
オリンピアで4年毎に開かれ、紀元前776年から紀元393年まで、実に10世紀以上に及び
1度の中止もなく293回を重ねている。都市国家間で戦争をしていても、大会3ヶ月前に
「休戦使」が各都市を巡回し、戦争を一時中止して競技会を開いたという。わずか1世
紀ちょっとの間に、3回も戦争で中止された現代オリンピックの歴史が想い合わせられ
る。

  古代オリンピックが廃止されることになった原因には、替え玉事件や八百長が横行す
るのうになり、更にはギリシャがローマ帝国に征服されたことなどが挙げられるが、そ
れ以上に、ローマ帝国がキリスト教を国教と定めて(392年)、他の宗教を禁止したこ
とが、多神教の祭典である基本を否定したことが決定的であったと思われる。文化の多
様性を排除する一元的パワーギリテックの強制であったともいえようか。

閑話休題。





   ◎チームカラーのパラソルで応援


 古代オリンピックの競技種目は、競走、ボクシング、レスリング、パンクラチオン
(ボクシングとレスリングを兼ねた格闘技)、5種競技(競走、走り幅跳び、槍投げ、
円盤投げ、レスリング)、義車競走(馬に車を引かせる競技)などであった。

 オリンピック大会の他にも、当時の人々は屋外円形劇場(コロセウム)で催される
各種競技会や野外劇上演などを楽しんだようである。

 そんな中、2頭引き馬車の競走では、一群の女性たちが人気チームのシンボルカラ
ーと同じ色に染めたパラソルを持って応援したといわれる。今に変わらないサポータ
ーたちの熱狂ぶりが想われる。

 円形劇場で、女性たちが日傘あるいは雨傘を使用することは許容されたが、一方で、
それが観客の視界を妨げるとして問題になり、その是非について大いに論議されると
ころとなった。1世紀頃にこの問題は皇帝の前に持ち出されるに至ったが、彼は女性
たちに味方をする裁定を下したといわれる。


   ◎バッカス祭で目立ったパラソル

 古代エジプトのヒエログリフ(象形文字)には傘の形が書かれており、主権(権力)
を意味した。また、紀元前11世紀エジプトの彫刻に、王権の影と栄誉の両方を意味
するものとして傘が用いられたことが描かれている。
 傘は儀式的な場面で王の頭上に掲げられたことから、王の特権(権威)を象徴する
ものとなった。


 エジプトで権威の象徴として儀式用の傘がギリシャに伝播すると、儀式的要素を継
承しながら、一方で権威と関係なく、女性たちの流行品として愛用されるようになっ
ていった。
 ギリシャの歴史家ヘロドトス(BC485?〜425?)によると、エジプトの儀式をダナ
オス(ギリシャ神話アルゴスの王)の娘が持ち出して、ペラスギアン族(ギリシャ最
初期の居住者とされる)の女たちに教えたという。


 その儀式は、古来から伝わる様々な祭礼と混交しながら、紀元前6世紀頃になると、
バッカス神の中に吸収されて確立され、その祭りの行列には傘が携行された。
 バッカス祭は、生産(多産)や肥沃、死と再生などを祈念する男根像崇拝的な精神
が根底にあり、ある場面ではパラソルを持った女性たちが突出して目立ち、お祭りを
独占して、猥雑に男たちを圧倒したといわれる。


 こうした放蕩さは紀元前3世紀初め頃のローマで起こり、186年に元老院が抑制命
令を出し、テーベでも法律を定めたが、あまり効果はなかったとされる。
 ベルリン博物館が所蔵する、紀元前440年ごろの壷の絵に、バッカス祭の行列でサイ
リナス神(バッカス神の養父)が、若い女性に傘(パラソル)をさしかけている場面
が描かれている。



   ◎パラソルは古代ギリシャの女性専用


 紀元前5世紀頃のギリシャにおいて、傘(パラソル)はバッカス祭でのようなセク
シャルなシンボル性は少なく、影をもたらす用具という意味合いが強かったようである。
 ※ただし、ギリシャ彫刻で傘が表現される時は、必ず男(神)の神聖さを示している。
それはバッカス祭と常に近い関係にある。

 紀元前520年頃、恋愛詩人のアナクレオン(BC563〜478?)は、知人のアルタモンが
「女性が使うような象牙の付いた柄のパラソルを使った」ことをからかっている。ギリ
シャの男が傘を持つのは、同伴した女性にさしかけてやる時だけであったとされる。


 アリストファネス(BC450〜385)は、紀元前414年に初演された彼の劇作の中で登場
人物に傘を持たせて演じさせ、また、他の劇中人物には「きみの両耳はパラソルのよう
に開き、そして再びたたむ」と言わせている。(この時代に開閉するパラソルがあった
ことを暗示する?)。

 紀元前3世紀頃になると、熱暑から身を守る有用(実用的)な服飾アクセサリーとし
ての傘(パラソル)が、ギリシャからローマへと広がっていく。







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