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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
◆◆◆傘と扇は兄弟の間柄?◆◆◆





すこしばかり傘の名称にこだわってみる。
雨の日や陽射しの強い日などに使う傘は、普通は覆いの材料に生地(織物)が用いら
れており、これらを総称して「洋傘(雨傘・日傘)」と呼んでいる。
 これに対して、昔から日本にあったのは紙張り製で、これらは「からかさ」と呼ば
れ、最近は洋傘に対して「和傘」とも言われている。古い文書などにある「傘」の字
にも、大抵は「からかさ」の読みが当てられている。

  (イ)からかさの語源

 復習として、「からかさ」の語源なるものを尋ねてみると、通常、次のような三つ
の説がある。


 [その1]
  笠(傘)に柄(え)を取り付けたものだからとする柄傘(からかさ)説。
 
 [その2]
  唐・韓など大陸(から)より渡来したものだからという唐傘説。

 [その3]
  機械(からくり)仕掛けのように開けたり、閉じたりできる「からくり傘」→
「から傘」という説。

 三説とも、それなりに根拠があるものの、決定打にはならないようである。




  (ロ)洋傘は蝙蝠傘であった

 一般に洋傘の名称で呼ばれているアンブレラ(umbrella)も、つい一世代位前まで
は、ほとんどの人が「蝙蝠傘」と言っていた。現在でも年配の人はそうだし、若い人
にも親の影響でか、こうもり傘という人を見かける時がある。
 
 なぜ、「蝙蝠傘」になったかといえば、西洋からきたその傘を広げた形が、あの
「蝙蝠」に似ていたからだとされる。その頃(幕末から明治初めにかけて)の渡来傘
は、構造が武骨で張り生地も黒だったことから、夕刻に飛び回る薄気味悪い蝙蝠を連
想したのであろう。
 しかし、始めの頃は西洋傘、異国傘、南京傘・・・などとも呼ばれたらしく、蝙蝠
傘が定着したのは、明治20年前後頃からのようである。
 現在のような、新素材を導入したファッション性に富んだ多種多彩な傘からは、と
てもあの蝙蝠を連想することはできない。


  (ハ)蝙蝠傘への異説試考?

 傘を広げた形が蝙蝠の飛ぶ姿に似ていたからという説はもっともながら、牽強付会
して私的試考をしてみると---------。
蝙蝠は、その昔、「かわほり」と呼ばれた。川守(かわもり)の転化で、河岸の石垣
の間や橋下などに多く棲んでいたから命名されたようで、それが「こうぶり」「こう
もり」等等の変化を経て「こうもり」になったとされる。
 一方、折りたたみのできる扇のことを「かわほり扇」あるいは単に「かわほり」と
呼んでいた。
これは「開いた形や、開閉することが蝙蝠に似る」ことから由来しているという。
 奇しくも、日本(大陸伝来?)古来の扇と西洋渡来の傘が共に「蝙蝠」に見立てら
れることで、あたかも、異母兄弟のような関係になる。
骨の上に紙や布を張り、開閉して使用するということでも傘と扇には共通性が認めら
れる。
 「かわほり」は、しかし、時代が下がるにつれて影が薄くなっていく。そんな変わ
り目に西洋の傘が入ってきたことから、昔からあった扇の「かわほり」に対して、新
しく台頭する傘には「こうもり」が付けられたのではないか・・・・・・・。少なく
とも、明治に入っていち早く、他の名称ではない「こうもり傘」に定着した背景に
は、そうした歴史的状況があったのではないだろうか・・・・・・。
そんなふうに愚考してみるのだが・・・・・・。

  (ニ)辞書の説明は・・・・

 いま、手近にある「国語辞典」(岩波新書)、「新言海」(日本書院)、「国語大辞
典」(小学館)をみると、「かわほり(蝙蝠)」の2番目(1冊は3番目)の解に
「扇の異称」あるいは「かわほりおうぎ(蝙蝠扇)の略・扇」などと出ている。

 方や、「こうもり(蝙蝠)」では、「こうもりがさ(蝙蝠傘)の略」と出ている。
 また、「ようがさ(洋傘)」については、「こうもりがさ」、「西洋風の傘(から
かさ)」と説明されている。
 ちなみに、わがさ(和傘)という項目は、上記辞書のいずれにも見当たらない。
 和傘という呼び名は、「こうもり傘」の呼び名が「洋傘」として一般化してから、
それに対応する格好で、ごく近年になって言われ出したのではないかと思われる。
 
 傘に文化の歴史あり。











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