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心斎橋みや竹 kasaya.com 傘屋さんへ行こう! ホテイヤ傘店(東京都青梅市)  




Shop Data
 Shop name :ホテイヤ傘店
 Place :東京都青梅市本町142
      
 Tel :TEL:0428-22-3214
 Established year
 :約160年前の天保年間

青梅傘誕生の地に息づく “長持ちする傘”への情熱

ホテイヤ傘店


JR青梅線の終点・青梅駅から奥多摩へと続く旧青梅街道に出ると、今年8月に変えたばかりという真新しい傘屋の看板がひと際目を引く。昭和のレトロな雰囲気を色濃く残す商店街に店を構えるホテイヤ傘店(青梅市本町142 TEL:0428-22-3214)である。

創業は遡ること約160年の天保年間。当時、一帯は「青梅傘」といわれる番傘の一大生産地であり、ホテイヤ傘店もその製造販売を生業として商売を始めた。青梅傘は傘地の裾に数本の糸を入れて補強するなど丈夫な作りが特徴。長持ちするので江戸っ子の評判も上々だった。そして傘に張られた和紙に名前を書き入れるサービスもその人気に拍車をかける。その頃信仰を集めていた奥多摩・御岳山の御嶽神社へ参拝する庶民の中には、道中の青梅で傘の名入れの注文を済まし、帰り道に受け取るものも多く、商売は大いに繁盛したそうだ。



今は4代目の荒井亮太郎さんが店を支える。荒井さんは高校卒業と同時に店を継ぎ店主に。以来、約50年にわたり店の看板を守り続けてきた。「私は金属骨で張りがいい傘が好み」と、美しいフォルムへのこだわりを見せる荒井さん。店では、軽量傘や本格的な長傘、晴雨兼用のパラソル、ほぐし織り、さらには今話題の多間傘、ブランド傘に至るまで品揃えが充実。特に子供傘は、地元の幼稚園、保育園、小学校に通う子供たちのために、店内の一角にコーナーを設け幅広いラインナップを揃える。

購入客には、名入れサービスも提供。とはいえ創業時のように、“書く”のではなく、手元に“彫る”名入れである。「昭和40年ごろに洋傘の販売やサービスについて話し合う研究会が定期的に開かれていて、私を含めた傘屋の店主など約10人が参加していた。その会で出たアイディアが名入れ。私は早速取り入れた」(荒井さん)。それ以来、荒井さんは名入れの技術を磨き、今では漢字、ローマ字のブロック体と筆記体、ひらがなを自在に彫れるようにまで腕を上げた。購入客の一番人気は筆記体。また、毎年幼稚園・保育園から卒園記念品として注文を受ける子供傘の手元にはひらがなを彫る。曲線的な動きが多い筆記体やひらがなを正確に彫るには技術と経験が必要だが、荒井さんは巧みに電動カッターを操り、僅か数分で仕上げる。

また、顧客が訪れると、お茶を出し話し込むのも荒井さんのスタイル。話には必ず“傘の使い方指南”を盛り込む。「傘は手元と中棒の継ぎ目あたりを持って優しくたたむ。使用後はすぐに干す。そんなちょっとした気遣いで骨や生地への負担が大きく減ることを、丁寧に説明する」と、荒井さん。さらに、傘の修理には可能な限り応じる。自分の店以外で購入した傘も要望があれば引き受けるという。

すべては1本の傘に愛着を持ち、長く使ってもらうため――。かつて先人が青梅傘に注いだ“長持ち”への情熱は、形を変え、今も青梅の地に息づいているのである。


手元に名前を彫る荒井さん



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