天寿を全うする洋傘
『鈴や流行堂』
西武新宿線田無駅北口から徒歩3分、青梅街道沿いの街で開業してから半世紀という
洋傘専門店「鈴や流行堂」(西東京市田無町3‐1‐15 TEL:0424‐61‐
0360)は店を構えている。店主の鈴木悟さんは二代目。先代が東京・池袋で戦後
すぐに創業し、田無に店を移してからも長年掲げ続けてきた看板を平成10年に引き
継いだ。そして、「お客さんに一本の傘をできるだけ長く使っていただく」という先
代からの方針を、7年間、忠実に守ってきた。
「量販店のように売りっ放しということは絶対にしない」と鈴木さん。店で購入して
もらった傘は、たとえ壊れても、いつでも快く修理に応じる。これ以上は直しても使
えないという、まさに「寿命」が尽きるまで、責任を持って面倒をみるのだ。
また、ハンドルにネームを彫刻するサービスも無料で提供している。「お客さんの中
にはそうしたサービスに驚かれる方も少なくないが、1、2分で終わると聞くと、9
割の方はそれならば、と名前を入れていく。名前が彫ってあれば、傘立てに差したと
きに間違って持っていかれることも少なくなる」と、鈴木さん。同時に、自分の所有
物であるという意識も高まり、愛着も湧いてくる。
評判を聞きつけて、地元民だけでなく、小平市や東久留米市、清瀬市などからも電車
に乗って客が足を運ぶ。そして、鈴木さんの真摯な姿勢に直に触れた瞬間、共感を覚
え、自然とリピーターになっていく。
そうした客が持ち込む修理依頼は、月平均150本にも及ぶそうだ。「親父は傘職人
として、注文に応じて自らの手で洋傘を作っていたが、20年前に作られた傘をいま
だに修理に持ってきてくれて大事に使ってくれるお客さんもいる。『あんたの親父さ
んが作った傘は持ちがいいね』なんていいながらね。そうしたお客さんを見たときが
一番うれしい」と鈴木さん。
強い風雨にさらされれば、どんな傘でもいつかは壊れるもの。そんな傘のデリケート
な一面を知り尽くしている。修理に来た客に買い替えを勧めた方が利益は出るだろう
。ネーム入れも手間といえば手間だ。しかしすべては「一本の傘を末永く使ってもら
うため」。かたくなな鈴木さんのひと言ひと言が、妙に心をあたためてくれた。
|