■ 海藻パニック



青森公立大学、丸山教授の研究室で、当店の「海藻スープ」をアメリカ で売り出せないかとの
マーケティング実践研究を行ないました。  
 ご担当の桜田さんが、アメリカへ調査に行ったときのお話を冊子「北の街」 に寄稿されました。
桜田さんの許可を得、転載させていただきます。  
 ご許可頂いた、桜田さんに心より感謝申し上げます。<(_ _)>


エッセイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥    
:☆:..:☆:..:☆:..:☆:..:☆:           海藻パニック・・    桜田孝志  


アメリカ西海岸に行って来た。ツアーに頼らないまったくの一人旅である。 アメリカの単独旅行は
初めてではないが、今回の旅には明確な目的があった。
 それはワカメや昆布などの「海藻」がアメリカのマーケットに受け入れられる かどうかの調査で、
大学院での研究課題の一環である。  海藻は、日本人にとって毎日の食卓に上るごくありふれた
食品だ。ミネラル や食物繊維など広範な栄養分を持つことから、健康にも美容にも有効であると
の認識はすでに常識となってる。  
 アメリカ人は肉食だが近年健康志向が極めて強いと聞く。 そんな彼らが、 海藻の持つ“主義
主張”を理解し、それを口にしてくれるかどうかという検証作業が今回の主目的である。そして、
アメリカ市場では海藻関係のマーケット は未開拓だし、商品輸出の手掛かりが得られれば青森
県の産業にとって新たな 活性化につながるというもくろみもある。  
 幸い、今度は二年前の訪米時に知りあったアメリカ人の家庭に滞在するチャ ンスを得た。そこで
彼らとの共同生活を通して、“海藻仮説”の検証作業を試 みることにした。  
 三月中旬サンフランシスコ国際空港に降り立つ。二年ぶりの訪米に新たな緊 張感を覚えた。
空港内で昼食に選んだ“サラミサンド”が大きすぎて半分残し たり、トイレの壁面が床から30セン
チほどの高さで切れているので隣で用を足す人の足が丸見え、音も丸聞こえということもあった。
個人のプライバシー を重んじる国民にしてはなぜこんな造りをするのだろうかと一人思案に暮れた。
 そんなドタバタを演じているうち、サンフランシスコからBARTという列車で 50分ほどの所にある
CastroValley(これからお世話になる家族の住む街) まで行く算段が付き、ようやく空港からの
移動を開始した。  
 目的地のCastroValleyまでは無事到着。そこから滞在予定の家に電話をし た。ガイドブックで
電話の掛け方を確認し、全く問題のない操作をしているの に何度掛けても「・・・try again !」という
メッセージが流れるだけで一向につながる気配がない。七、八回はトライした。そこで、駅員にその
旨を告げると、市外局番が要らないとの指示だったので再度チャレンジしたが、状況は全 く変わら
なかった。 夕暮れが近づいてきて心細さが急速に募った。  半分諦めかけながら何となく隣にあ
る電話機で同じ操作をしてみた。すると 、事もなげにすぐつながったのである。呼び出し音が鳴っ
ているのを確認した時は、心底嬉しかった。すなわち、初めに使った電話機は壊れていたというこ
となのだ。  
 ようやく愛車Dodgeで迎えに来てくれた母親のGayleと娘のStephanie。 二年ぶりの再会はまぶ
しく、しばし感激に浸った。興奮冷めやらぬまま、車は 一路彼らの自宅へと向かった。  
 広く大きな家に着くと、NeilとJoelの兄弟も待っていてくれた。握手で再 会を祝し、家族全員と久
し振りにつどった。
 ところが、ここからGayle一家に“seaweed panic”(海藻パニック)が起こ ることになろうとは誰が
予想し得ただろうか。  

 サンフランシスコの東 CastroVally にある Gayle 家に迎えられた時、まるで映 画の一シーンでも
見るようなアメリカ人の家庭に身が震える感動を覚えた。 感激的な挨拶が済み、ここで海藻問屋
札幌GSCさんから頂いた「海藻スープ」 (乾燥した海藻)をお土産に差し出した。でも、彼らはそん
なものを見たことも聞 いたこともないのである。気遣った母親のGayle が、二日後「海藻スープ」を
入れた野菜煮を作ったが、彼らがそれを食べる姿はついに見なかった。「海藻スープ」 を用いたこ
とを僕に示しながら大鍋に作ったあの野菜料理は、一体どこに消えてし まったのだろうか。  
 翌日から「Safeway]という全米一の規模のスーパーマーケットに出向いて「海藻 」関係の調査を
始めた。同行したGayle は、このスーパーの販売責任者に「海藻ス ープ」を新商品として導入でき
ないものか掛け合ってくれた。しかしスーパーでは 業者との直接取引はしないとのことなので、
海産物の卸販売業者を教えてくれるよ う頼んだ。  
 店内には「アジア食品」のコーナーもあり、そこで日系の商社が販売する海苔を 巻いた“おかき”
を見つけたので、試しに買ってGayle 一家に食べさせてみた。母 親のGayle と16歳の長男 Neil
は一個だけ食べたが、14歳の娘Stephanie は口 に入れたとたん吐き出してしまった。 12歳の
二男 Joel は見向きもしなかった。  
 実は、これらの“事件”が今回の調査の結論を物語っていたのだ。すなわち、彼 らはおかきに
巻いた“海苔”にですら魚の匂いを感じるという。Gayle たちも一個 だけは食べたがもう結構という
ジェスチャーをした。海藻のもつ磯の香りが“魚の におい”を連想させるらしく、彼らは“魚くささ”だ
けは生理的に絶対受け付けな いと話していた。実は「海藻スープ」は磯の匂いがプンプンなのだ!
 翌日から、Gayle は、親戚、近隣住民、職場関係の人たちにあの「海藻スープ」 を配って試食後
の感想を聞くという協力を取り付けてくれた。  
 それから約10日間生活を共にしたが、食事には「海藻スープ」はもとより 「魚」らしきものも一切
出なかった。徹底した肉食だった。少なからず健康が思い やられる。  
 Gayle 家を辞した後も、サンフランシスコやロサンゼルスでレストラン経営者な どアメリカ人、イギ
リス人、モロッコ人、アルジェリア人、ブラジル人ら五十数人 に「海藻」の調査を試みたが、みな否
定的な答えばかりだった。アメリカでは、 「海藻」は下等な家畜の“エサ”との認識があるらしく、
人が食べるなど思いもよ らないようだ。  
 “海藻パニック”まで引き起こした今回の調査は頓挫したが、一つの解決方法は 見つかったよう
に思う。それは、海藻の持つ豊富な栄養成分の紹介に加え、磯の香 りを消した海藻商品を開発
することである。アメリカでは十年前には考えられなか った“すしブーム”が今起こっている。
 「海藻」も宣伝次第では“第二のすしブー ム”にならないとも限らない。発展性を秘めた「すきま産
業」への参入のきっかけ として、今回の調査は極めて意義があったと思う。    
                                              (おわり)  
                         (青森公立大学大学院修士課程)