「医薬品の安全使用のための

業務手順書」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成24年3月

 

ホープ薬局


 

目   次

 

本マニュアルの活用に当たって

1章 医薬品の採用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.採用医薬品の選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

(1)安全性に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

(2)取り間違い防止に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第2章 医薬品の購入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.医薬品の発注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2.入庫管理と伝票管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

第3章 調剤室における医薬品の管理・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.保管管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(1)医薬品棚の配置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(2)医薬品の充填 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(3)規制医薬品 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(4)特定生物由来製品 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)・・・・・・・・・・・・・5

2.品質管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

第4章 患者への医薬品使用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

1.患者情報の収集・管理・活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

2.調剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

(1)処方鑑査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

(2)疑義照会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

(3)調剤業務(内服薬・外用薬) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

(4)調剤業務(注射薬) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

3.調剤薬の交付・服薬指導・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

4.薬剤交付後の経過観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

第5章 在宅患者への医薬品使用・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択・・・・・・・・11

2.患者居宅における医薬品の使用と管理・・・・・・・・・・・・・・・・11

3.在宅患者または介護者への服薬指導・・・・・・・・・・・・・・・・・12

4.患者容態急変時に対応できる体制の整備・・・・・・・・・・・・・・・12

第6章 医薬品情報の収集・管理・提供・・・・・・・・・・・・・・・13

1.医薬品情報の収集・管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

2.医薬品情報の提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

第7章 他施設との連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1.情報の提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(1)情報の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(2)情報提供の手段 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

2.他施設からの問い合わせ等に関する体制整備・・・・・・・・・・・・・14

(1)他施設及び薬局への問い合わせ ・・・・・・・・・・・・・・・・14

)他施設及び薬局からの問い合わせ ・・・・・・・・・・・・・・・15

3.緊急連絡のための体制整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

第8章 事故発生時の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

1.医薬品に関連する医療安全の体制整備・・・・・・・・・・・・・・・・16

2.事故発生時の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

3.事故後の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第9章 教育・研修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

1.職員に対する教育・研修の実施・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 

巻末資料:特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)例

 


1章 医薬品の採用

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

薬局においては自らの判断で採用医薬品を決定することはできない。しかし、一般名の処方せんや「後発医薬品への変更可」とされた処方せんに対応するための後発医薬品の採用については、薬局の判断に委ねられている。

薬局においても、取り間違い防止などの観点から採用医薬品の検討を行う必要がある。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.採用医薬品の選定

〔解説〕

名称類似や外観類似による取り間違いを防止するため、製剤見本等を用い、取り間違い防止について客観的な評価を行うことが重要である。

 

手順書の具体的項目例

1.採用医薬品の選定

(1)安全性に関する検討

    安全上の対策の必要性に関する検討

安全上の対策の必要性とその具体的内容(使用マニュアル、注意事項の作成等)

 

(2)取り間違い防止に関する検討

    名称類似品、外観類似品に関する検討(後発医薬品も含む)

名称類似品、外観類似品の採用の回避

頭文字3文字、語尾2文字あるいは頭文字と語尾の一致する採用医薬品の有無の確認

包装や容器、薬剤本体(色調、形、識別記号等)の類似した既採用医薬品の有無の確認

    小包装品等の採用

充填ミスを防止するため、充填の必要のない包装品を採用(散剤等)

 


第2章 医薬品の購入

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

医薬品の発注、納品ミスが医療事故の原因となっているケースも見受けられる。正確な発注と納品を確保するため、医薬品の品目・規格などの確認手順を定め、記録の管理を行うことが必要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.医薬品の発注

2.入庫管理と伝票管理

〔解説〕

医薬品の発注に際しては、発注品目の間違いを防ぐため、発注した品目が文書等で確認できる方法で行う。

また、医薬品の納品に関しては、発注した医薬品がその品目や規格が間違いなく納品されたか検品を行う。

規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)及び特定生物由来製品については特に注意を払い、購入記録の保管を行う。特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、検品時に名称類似、外観類似、規格違いに注意する。

 

【 手順書の具体的項目例 】

1.医薬品の発注

    医薬品の正確な発注

商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名

    発注した品目と発注内容の記録

 

2.入庫管理と伝票管理

    発注した医薬品の検品

商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名、使用期限年月日

発注記録との照合(JANコードの照合等)

   規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)の管理

薬事法並びに麻薬及び向精神薬取締法の遵守

商品名、数量、製造番号と現品との照合を行い、納品伝票等を保管

麻薬、覚せい剤原料については譲渡証の記載事項及び押印を確認し、2年間保管

   特定生物由来製品の管理

納品書を保管し、製剤ごとに規格単位、製造番号、購入量、購入年月日を記載して管理

   特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の検品

医薬品名、名称類似、外観類似、規格違いへの注意

 

 

 

 

第3章 調剤室における医薬品の管理

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

 医薬品の適切な保管管理は、名称類似・外観類似による医薬品の取り間違い、規格間違い、充填ミスなどを防止する上で非常に重要であり、医薬品関連の事故を防止するための基本となる。

また、有効期間・使用期限を遵守するとともに、医薬品の品質劣化を防止するため、温度、湿度等の保管条件に留意する必要がある。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.保管管理

2.品質管理

〔解説〕

医薬品棚の適切な配置や複数規格がある医薬品等への注意表記は、医薬品の取り間違いを防止する上で最も基本となる。

特に、規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)や特定生物由来製品について関係法規を遵守するとともに、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)についても、配置の工夫などの事故防止対策が必要である。

また、医薬品の品質確保の観点からは、有効期間・使用期限を遵守するとともに、温度、湿度、遮光等の医薬品ごとの保管条件に留意する必要がある。

 

【 手順書の具体的項目例 】

1.保管管理

(1)医薬品棚の配置

   類似名称、外観類似の医薬品がある場合の取り間違い防止対策

   同一銘柄で複数規格等のある医薬品に対する取り間違い防止対策

規格濃度、剤形違い、記号違い等

 

(2)医薬品の充填

   医薬品の補充や充填時の取り間違い防止対策

医薬品棚への補充、散薬瓶、錠剤自動分包機への充填時等

複数人による確認

 

(3)規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)

   麻薬及び向精神薬取締法、薬事法等の関係法規の遵守

法令を遵守した使用記録の作成・保管

   適切な在庫数・種類の設定

   定期的な在庫量の確認

   他の医薬品と区別した保管、施錠管理

   盗難・紛失防止の措置

 

(4)特定生物由来製品

   使用記録の作成、保管

患者ID、患者氏名、使用日、医薬品名(規格、血液型も含む)、使用製造番号、使用量

20年間保存

 

(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)

   他の医薬品と区別した管理

注意喚起のための表示、配置場所の区別、取り間違い防止の工夫等

   必要に応じた使用量と在庫量の記録

 

2.品質管理

   有効期間・使用期限の管理

定期的な有効期間・使用期限の確認

有効期間・使用期限の短い医薬品から先に使用する工夫(先入れ先出し等)

   医薬品ごとの保管条件の確認・管理

温度、湿度、遮光等に関する医薬品ごとの保管条件の確認(凍結防止など)

保管場所ごとの温度管理、湿度管理

   必要に応じた品質確認試験の実施

  不良品(異物混入、変色)発見時の対応、回収手順等

 

 

第4章 患者への医薬品使用

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

患者に医薬品を安全に使用するには、患者情報を収集し、調剤に活用することが重要である。

また、患者への医薬品使用において間違いを防止するには、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。さらに、医薬品情報を提供することで、患者自身が調剤薬等の間違いに気づくことも少なくない。したがって、適切な服薬指導を行うことは、医薬品に係る事故を防ぐ上でも重要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.患者情報の収集・管理・活用

2.調剤

.調剤薬の交付・服薬指導

4.薬剤交付後の経過観察

〔解説〕

患者の薬物治療において安全性を確保するには、患者情報を収集・管理し、調剤に活用することが重要である。また患者情報は、必要に応じて施設間で共有することが望ましい。

患者への医薬品使用において間違いを防止する上では、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。薬剤師は、「調剤は単なる医薬品の調製ではなく、処方の確認から患者への薬剤交付に至るまでの医薬品の安全性確保に貢献する一連の業務である」ということを認識する必要がある。

さらに、患者への適切な医薬品情報の提供は、副作用の防止などの面で重要な役割を担っている。患者に薬効を説明することで処方の間違いや患者の取り違いを防ぐことにつながる場合もあり、事故防止の観点からも服薬指導は大変重要である。

加えて、医薬品の副作用の発現について経過観察を行うことは、医薬品の安全使用の観点から重要である。重篤な副作用が発現した場合に備え、緊急時の体制整備や夜間・休日を含めた患者からの相談窓口を設置することが望ましい。

 

【 手順書の具体的項目例 】

1.患者情報の収集・管理・活用

   患者情報の収集・管理

患者の既往歴、妊娠・授乳、副作用歴・アレルギー歴

小児、高齢者の年齢、体重

他科受診、他剤併用(一般用医薬品、健康食品を含む)

嗜好(たばこ、アルコール等)など

   患者情報の活用

患者ごとの薬歴管理の実施

患者情報(禁忌医薬品名等)を施設間で共有する仕組みの構築(お薬手帳の活用など)

 

2.調剤

(1)処方鑑査

無理な判読、判読間違いは重大な事故の原因となるため、慎重に確認する。

   処方せんの記載事項の確認

処方年月日、患者氏名、性別、年齢等

医薬品名、剤形、規格、含量、濃度(%)等

用法・用量(特に小児、高齢者)

投与期間(特に休薬期間が設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品、定期的検査が必要な医薬品等)

重複投与、相互作用、配合変化、医薬品の安定性等

   患者情報・薬歴に基づいた処方内容の確認

重複投与、投与禁忌、相互作用、アレルギー歴、副作用歴

 

(2)疑義照会

処方内容に疑義がある場合には処方医への問い合わせを行い、必ず疑義が解決されてから調剤を行う。

   疑義内容の確認

   疑義照会後の対応と記録

照会内容、処方変更の内容、照会者及び回答者を調剤録等に記録

 

(3)調剤業務(内服薬・外用薬)

正確な調剤業務は医薬品の適正使用の大前提である。調剤者は調剤過誤がもたらす危険性を常に意識し、必要に応じた業務環境の整備、業務内容の見直しを行うことが重要である。

 

@ 患者の安全に視点をおいた調剤業務の実施

   調剤用設備・機器の保守・点検

使用時の確認(散剤秤量前の計量器のゼロ点調整、水平確認等)

日常点検、定期点検の実施(分包器等)

   取り間違い防止対策

外観類似、名称類似、複数規格のある医薬品への対策

   調剤業務に係る環境整備

コンタミネーション(異物混入、他剤混入)の防止

調製時の調剤者の被爆防止

 

A 内服薬・外用薬の調剤

   散剤や液剤の調剤間違いの防止対策

秤量間違いの防止対策(小児用量換算表の活用等)

散剤計算の再確認、総重量の確認(秤量計算メモの活用等)

   適切な調剤方法の検討

錠剤やカプセル剤の粉砕の可否、配合変化、製剤の安定性等

   薬袋・薬剤情報提供書の作成

調剤年月日、患者氏名、用法・用量、保管上の注意、使用上の注意等を適切に記載

 

B 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の調剤

   患者ごとの薬歴管理

用法・用量、服薬期間、服薬日等

   病態と処方内容との照合

患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか

   他薬との取り間違い防止対策

 

C 調剤薬の鑑査

   調剤薬等の確認

調剤者以外の者による確認(調剤者以外の者がいない場合には、時間をおいて確認するなどの工夫)

処方鑑査、疑義照会の再確認

処方せんと調剤薬の照合

散剤の秤量、分包の間違え、誤差等の確認、異物混入の確認

一包化した医薬品の確認

処方せんの記載事項と薬袋・ラベルの記載事項の照合

 

(4)調剤業務(注射薬)

@ ラベルの作成

○ 調剤薬への必要な情報の明記

患者氏名

医薬品名、単位、量

投与方法、投与時間、投与経路、投与速度等

調剤者名、調剤日時

   特に注意すべき事項の注意喚起

保存方法(冷所、遮光等)、使用期限等

 

A 計数調剤(取り揃え)

   処方せんとラベルとの照合

   取り揃え手順

・処方せん1使用単位ごとにトレイ等に分けて準備する

   遮光対策等

・遮光袋の添付等

 

B 計量調剤(混合調製) 

   混合調製の環境整備

無菌室やクリーンベンチ、適切な着衣を使用して混合調製を行う

適切なシリンジ、注射針、フィルター等を使用する

中心静脈栄養、抗がん剤は適切な環境下で調製を行う

   取り揃え手順

患者ごとにトレイ等に分けて準備する

患者氏名、計量値等の明記

安定性及び配合禁忌・配合変化の確認

患者氏名、空容器数、残液量等

調製薬の外観変化、異物混入、総液量

 

C 鑑査 

   医薬品の確認

処方せん、ラベル、注射薬の照合

   調製薬への必要な情報の記載

患者氏名、医薬品名、単位、量、投与方法、投与時間、投与経路、投与速度、調製者名、調製日時、保存方法、使用期限、その他注意事項等

 

3.調剤薬の交付・服薬指導

   患者、処方せん、医薬品、薬袋等の照合・確認

患者氏名の確認方法の確立と周知徹底

患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか

   調剤薬の交付

薬剤の実物と薬剤情報提供文書を患者に示しながらの説明

   医薬品情報の提供

薬効、用法・用量及び飲み忘れた場合の対処方法等

処方の変更点

注意すべき副作用の初期症状及び発現時の対処法

転倒のリスク(服薬による眠気、筋力低下、意識消失など)

使用する医療機器、医療材料などの使用方法等

その他服用に当たっての留意点(注意すべき他の医薬品や食物との相互作用、保管方法等)

薬剤情報提供文書、パンフレット、使用説明書等の活用

 

4.薬剤交付後の経過観察

   患者情報の収集と処方医への情報提供

副作用の初期症状の可能性、コンプライアンス等

   緊急時のための体制整備

病診連携、薬薬連携等の施設間における協力体制の整備

対応手順の整備(副作用初期症状の確認、服用薬剤及び医薬品との関連の確認等)

   患者等からの相談窓口の設置

夜間・休日の体制整備

  患者への広報

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  第5章 在宅患者への医薬品使用

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

在宅患者(施設入所者を含む)の薬物療法の安全性を確保するには、患者の食事、排泄、移動など生活環境を考慮した調剤、投与が行われるとともに、コンプライアンスの確保、飲み間違い防止、副作用の早期発見及び重篤化防止、重複投与及び相互作用の防止等のために、的確な管理及び服薬指導を行うことが重要である。各医療職が連携し、在宅患者への管理・指導を行うことで、治療効果と安全性の両方の向上が期待できる。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択

2.患者居宅における医薬品の使用と管理

3.在宅患者または介護者への服薬指導

4.患者容態急変時に対応できる体制の整備

〔解説〕

剤形の選択や調剤方法の工夫は、在宅患者の薬物療法の安全性を確保する上での重要な要素である。

患者居宅における医薬品の安全を確保するため、患者の状態を踏まえ、医薬品を使用する際の管理者や保管状況等の確認を行う。また必要に応じ、服薬の状況や保管の状況を記録し、連携する医療職が閲覧できるようにすることが望ましい。

 

【 手順書の具体的項目例 】

1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択

   剤形の検討と選択

患者の状態を考慮した服用(使用)しやすい剤形

   用法の検討と選択

患者の生活環境(食事、排泄、移動など)を踏まえた用法(使用法)

   調剤方法の検討と選択

一包化、粉砕、簡易懸濁法の可否など患者特性を踏まえた調剤方法

経管チューブによる投与が可能か否かの確認(例:腸溶製剤は不可)

 

2.患者居宅における医薬品の使用と管理

   医薬品の管理者及び保管状況の確認

患者の管理能力、管理者の必要性

冷所保存、遮光保存等の適正な保管・管理

   副作用及び相互作用等の確認

副作用の初期症状の観察

他科受診、一般用医薬品を含む使用医薬品等

コンプライアンス

   連携する医療職・介護職が閲覧できる記録の作成

コンプライアンス、保管状況等

 

3.在宅患者または介護者への服薬指導

   患者の理解度に応じた指導

表示、表現、記載等の工夫

服薬カレンダー、点字シール等の活用

   服薬の介助を行っている介護者への指導

服用上の注意事項、保管・管理上の留意事項、服用後の症状の変化に対する注意等

 

4.患者容態急変時に対応できる体制の整備

   夜間・休日の対応方法

緊急連絡先の周知等

 

 

 

 

 

 

 

第6章 医薬品情報の収集・管理・提供

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

医療事故防止の観点からも、常に最新の医薬品情報を収集し、適切に管理し、各職種に迅速に提供できる体制を整備することが重要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.医薬品情報の収集・管理

2.医薬品情報の提供

〔解説〕

医薬品情報の収集・管理に関しては、医薬品情報を担当する者を決定することが重要である。厚生労働省の医薬品等安全性関連情報など、医薬品の安全使用に関する情報の収集・管理や、医薬品集、添付文書集等の作成・定期的な更新を行うとともに、適切な医薬品使用のための情報を薬局内の職員に周知することが望ましい。

 

手順書の具体的項目例

1.医薬品情報の収集・管理

   医薬品情報を担当する者の決定

   医薬品等安全性関連情報・添付文書・インタビューフォーム等の収集・管理

緊急安全性情報

禁忌、相互作用、副作用、薬物動態、使用上の注意等

   医薬品集、添付文書集等の作成・定期的な更新

 

2.医薬品情報の提供

   緊急安全性情報等の提供

各職員への迅速な提供

   新規採用医薬品に関する情報提供

名称、成分名、適応症、用法・用量、相互作用、副作用、禁忌、配合禁忌、使用上の注意、保管・管理上の注意、安全上の対策の必要性等の速やかな各職員への提供

   製薬企業等からの情報

製薬企業の自主回収及び行政からの回収命令、販売中止、包装変更等

必要に応じた各職員への周知

 

 

 


第7章 他施設との連携

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

患者に継続した薬物療法を安全に提供するには、医療機関や薬局の間で正確な情報を提供し、共有することが重要である。そのため、薬局は、他施設への情報提供の手順や、他施設からの問い合わせに的確に答えるための手順を設け、連携のための体制整備に努めることが重要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.情報の提供

2.他施設からの問い合わせ等に関する体制整備

3.緊急連絡のための体制整備

〔解説〕

他施設との連携においては、入退院時等において正確な患者情報・医薬品情報が共有されていることが重要である。

また、他施設からの問い合わせに対して適切に対応できる体制と十分な連携を確保するための手順を整備することが望ましい。

 

手順書の具体的項目例

1.情報の提供

(1)情報の内容

   医薬品情報の提供

入退院時処方(現に使用している医薬品の名称、剤形、規格、用法、用量)

一包化など調剤上の工夫

過去の医薬品使用歴

服薬期間の管理が必要な医薬品の投与開始日等

   患者情報の提供

アレルギー歴、副作用歴及び使用可能な代替薬

禁忌医薬品等

コンプライアンスの状況等

 

(2)情報提供の手段

   情報提供の手段

お薬手帳、服薬情報提供書等

 

2.他施設からの問い合わせ等に関する体制整備

(1)他施設及び薬局への問い合わせ

   問い合わせ手順

   問い合わせ内容・回答の診療録等への記録・反映

 

)他施設及び薬局からの問い合わせ

   問い合わせへの対応手順

夜間・休日等の対応

   問い合わせ内容等の診療録等への記録・反映

 

3.緊急連絡のための体制整備

   地域の医療機関及び薬局との緊急時のための連絡体制

 

 

 

第8章 事故発生時の対応

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

医薬品に関連する事故に限ったことではないが、医療事故が発生した場合、最初に行うべきことは、患者の健康被害の有無を確認し、健康被害が疑われるような場合には、責任を持って適切な処置を行うなど、必要に応じた対応を講じることが大切である。

同時に、事故の一報が連絡された段階から、全ての過程について客観的事実を詳細に記録することが重要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.医薬品に関連する医療安全の体制整備

2.事故発生時の対応

3.事故後の対応

〔解説〕

医薬品に関連する医療事故が発生した場合、あるいは患者等から連絡を受けた場合には、救命措置を最優先するとともに、速やかに当該薬局の責任者または管理者に報告を行う。同時に、事故の一報が連絡された段階から、全ての過程について客観的事実を詳細に記録する。

薬局においては報告に基づき事故事例を分析し、再発防止対策あるいは事故防止対策を策定する。さらに、策定された事故防止対策が職員に周知され、薬局内で確実に実施され、事故防止、医療の質の改善につながることが重要である。

 

手順書の具体的項目例

1.医薬品に関連する医療安全の体制整備

   責任者または管理者に速やかに報告される体制の整備

責任者または管理者の不在の場合の対応

   緊急時に備えた体制の確保

当該施設における体制整備(人・物・組織)

周辺医療機関との協力・連携体制

   患者相談窓口の設置

   事故発生を想定した対応手順の作成と定期的な見直しと職員への周知

   自他施設のヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)の収集・分析とそれに基づく事故防止対策の策定・実施

   医療安全に関する職員研修の実施

   薬剤師会等との連携体制の確保

 

 

2.事故発生時の対応

   救命措置

   具体的かつ正確な情報の収集

   責任者または管理者への報告

   処方医への連絡

   患者・家族への説明

 

3.事故後の対応

   事故事例の原因等の分析

   事実関係の記録、事故報告書の作成

   再発防止対策あるいは事故予防対策の検討・策定・評価、職員への周知

   患者・家族への説明

   処方医への連絡

   関係機関への報告・届出


第9章 教育・研修

 

【 医療安全の確保へ向けた視点 】

医療安全や医薬品に関する研修を全職員に定期的に実施することで、職員個々の知識及び安全意識の向上を図るとともに、薬局全体の医療安全を向上させることが重要である。

 

【 手順書を定めるべき事項 】

1.職員に対する教育・研修の実施

〔解説〕

医薬品に関与する全ての職員に対し、定期的に「特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)」などに関する教育・研修を実施する体制を整備することが望ましい

さらに、医療安全に関する教育と研修を通じ、職員に対する安全文化の醸成を図り、単なる知識や技能の習得のみでなく、患者やその家族及び医療職相互の効果的なコミュニケーションが可能となることが大切である。

 

【 手順書の具体的項目例 】

1.職員に対する教育・研修の実施

   医療安全、医薬品に関する事故防止対策、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)などに関する教育・研修の実施

薬局内での計画的・定期的な研修会、報告会、事例分析等の実施

薬剤師会主催など外部の講習会・研修会への参加及び伝達講習会の実施。外部の講習会・研修会に参加しやすい環境の整備

有益な文献、書籍の抄読等による自己研修


巻末資料:

 

 
特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)例

下記の医薬品は、事故発生により患者に及ぼす影響の大きさに十分配慮し、使用上及び管理上、特に安全な取り扱いに留意しなければならない。

内服薬を主とした記載となっており、「注射薬に関する特記事項」を別途記載した。剤形によらず、各項目に該当する医薬品の取り扱いには注意が必要である。

なお、規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)については、関係法規を遵守されたい。

  ( )内は代表的な商品名

1.投与量等に注意が必要な医薬品

○ 抗てんかん薬

フェノバルビタール(フェノバール)、フェニトイン(アレビアチン)、

カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)等

○ 向精神薬 

ハロペリドール(セレネース)、レボメプロマジン(ヒルナミン)、エチゾラム(デパス)等

○ ジギタリス製剤

ジギトキシン、ジゴキシン(ジゴシン)等

○ 糖尿病治療薬

経口血糖降下剤(グリメピリド(アマリール)、グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、グリクラジド(グリミクロン)等)

○ テオフィリン製剤

テオフィリン(テオドール、テオロング)、アミノフィリン(ネオフィリン)等

○ 抗がん剤

キソテール(ドセタキセル)、タキソール(パクリタキセル)、シクロホスファミド(エンドキサン)、メルファラン(アルケラン)等

○ 免疫抑制剤

シクロホスファミド(エンドキサンP)シクロスポリン(ネオーラル、

サンディミュン)、タクロリムス(プログラフ)等

 

2.休薬期間の設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品

メトトレキサート(リウマトレックス)、ティーエスワン、ゼローダ、ホリナート・テガフール・ウラシル療法薬 (ユーゼル・ユーエフティ)

 

3.併用禁忌や多くの薬剤との相互作用に注意を要する医薬品

イトラコナゾール(イトリゾール)、ワルファリンカリウム(ワーファリン)等

                   

4.特定の疾病や妊婦等に禁忌である医薬品

ガチフロキサシン(ガチフロ)、リバビリン(レベトール)、エトレチナート(チガソン)等

 

5.重篤な副作用回避のために、定期的な検査が必要な医薬品

チクロピジン(パナルジン)、チアマゾール(メルカゾール)、ベンズブロマロン(ユリノーム)、ピオグリタゾン(アクトス)、アトルバスタチン(リピトール)等

 

< 注射薬に関する特記事項 >

 

1.心停止等に注意が必要な医薬品

○ カリウム製剤

塩化カリウム(KCL)、アスパラギン酸カリウム(アスパラカリウム)、リン酸二カリウム等

○ 抗不整脈薬

ジゴキシン(ジゴシン)、キシロカイン(リドカイン)等

 

 

2.呼吸抑制に注意が必要な注射薬

○ 筋弛緩薬

塩化スキサメトニウム(サクシン、レラキシン)、臭化ベクロニウム(マスキュラックス)等

○ 麻酔導入・鎮静薬、麻薬(モルヒネ製剤)、非麻薬性鎮痛薬、抗てんかん薬 等

 

 

 

3.投与量が単位(Unit)で設定されている注射薬

○ インスリン(100単位/mL

○ ヘパリン(1000単位/mL

 

 

 

4.漏出により皮膚障害を起こす注射薬 

○ 抗悪性腫瘍薬(特に壊死性抗悪性腫瘍薬)

マイトマイシンC(マイトマイシン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ビンクリスチン(オンコビン)等

○ 強アルカリ性製剤

フェニトイン(アレビアチン)、チオペンタール(ラボナール)、炭酸水素ナトリウム(メイロン)等

○ 輸液補正用製剤

マグネシウム製剤(硫酸マグネシウム)、カルシウム製剤(塩化カルシウム)、高張ブドウ糖液等

○ その他

メシル酸ガベキサート(エフオーワイ)、造影剤等