蜂群崩壊症候群(CCD)
アルバート・アインシュタインは警鐘していました。「もしハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上は生きられない。
ハチがいなくなると、受粉ができなくなり、そして植物がいなくなり、そして人間がいなくなる。」
残念ながら、ミツバチが原因不明に大量に失踪する現象「蜂群崩壊症候群(CCD)」が発生しています。
私達が普段食べている、リンゴ、オレンジ、イチゴ、玉ねぎ、ニンジンなど、殆どの果物と野菜の花粉媒介は、昆虫のハチが主に行っています。
ミツバチの激減は、地球上の植物を減少させ、生態系のバランスが崩れ、農作物を減少させ、農業の後退を引き起こし、家畜の餌の高騰から、 肉類や乳製品価格にまで影響が及び、世界中の食糧危機を招いてしまいます。
この原因解明に世界各国が研究に入りました。
異常気象による気温の寒暖差や激しい天候被害、疫病・ウイルス、栄養失調、電磁波、遺伝子組み換え作物、環境の変化によるストレス・・・
考えられる原因は沢山ありますが、その中で一番の原因とされたのが「農薬」でした。
ミツバチの大量消失と農薬との因果関係について研究がなされ、ネオニコチノイド系殺虫剤を中心とした農薬成分が原因であることが分かり、オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパを中心に多数の国がこれら農薬の使用を禁止にしました。
ネオニコチノイド系殺虫剤の農薬成分には、主に「アセタミプリド」「イミダクロプリド」「クロチアニジン」「ジノテフラン」「チアクロプリド」「チアメトキサム」「ニテンピラム」があります。
1971年から米国野生種のミツバチ数が激減し始める。
1990年からヨーロッパ全域のアメリカ野生種のミツバチ数が激減し始め、インド、ブラジル、日本でも激減し始める。
1994年フランスで「イミダクロプリド」による種子処理(種子のコーティング)が導入された後、ミツバチ大量死事件が発生。
1999年1月フランス政府は「イミダクロプリド」によるヒマワリ種子処理を全国的に一時停止し、調査に着手。
2000年オランダが「イミダクロプリド」の開放系栽培での使用を禁止、デンマークでも「イミダクロプリド」が販売禁止。
2002年フランスでミツバチ全滅事件(蜂群崩壊症候群)発生。
2002年フランス世界環境基金の研究機関は、「イミダクロプリド」の国内の部分的禁止を提言。
2003年フランス毒性調査委員会は「イミダクロプリド」の種子処理によるミツバチへの危険性を警告する政府報告書を発表。
2004年フランスは「イミダクロプリド」を活性成分とするネオニコチノイド系殺虫剤の農薬の許可取消と「イミダクロプリド」によるトウモロコシの種子処理も禁止。
2004年フランスは、殺虫剤である「フィプロニル」「フェニルピラゾール」もミツバチに対して毒性があると分かり部分的に使用禁止。
2005年イタリア国立養蜂研究院は、「イミダクロプリド」はミツバチのコロニー(巣)を死に導きかねないと発表。
2006年4月フランスは、ネオニコチノイド系農薬を正式に使用禁止。
これを受けて、欧州連合科学者委員会は「モニター研究は主にフランスで行われており、EUの加入国は自分の国の環境とこれらの研究結果の関係を考える必要がある」と発表。
2006年ドイツでは、ネオニコチノイド系農薬「クロチアニジン」による、「蜂群崩壊症候群(CCD)」発生。
2006年アメリカ全米の4分の1以上のハチが忽然と消える「蜂群崩壊症候群(CCD)」発生。
しかしネオニコチノイド系農薬の規制を行わない。
2007年2月フランス、約40人の代議士が10年で蜂蜜の生産が1000トン減少していることに言及し、 「フィプロニル」成分の5種類の農薬がミツバチを殺す原因を指摘し、ミツバチ大量死研究委員会の創設を要求。
2007年アメリカでもネオニコチノイド系農薬がミツバチに被害を与えると発表。
2008年ドイツは、被害が深刻化したことや研究報告を受けて「イミダクロプリド」「クロチアニジン」の認可取消とネオニコチノイド系農薬7種類を販売禁止。
2008年イタリア「イミダクロプリド」「クロチアニジン」による種子処理を禁止。
2009年日本の長崎県の壱岐、五島、平戸、的山大島などでミツバチの大量死が発生。
日本では残留ネオニコチノイドの許容基準値が欧米の500倍(5ppm)まで許可されている。
2012年2月、木村ー黒田純子他、ネオニコチノイド系農薬が、ラット新生仔の小脳神経細胞にニコチン様の影響を及ぼすことを発表。
2012年3月29日アメリカ科学誌サイエンスは、ネオニコチノイド系殺虫剤が低用量でもハチには多大な影響を与えるという英仏のチームによる2本の論文を掲載。
2012年4月フランスのチームは、ミツバチを致死量以下の「チアメトキサム」にさらした結果、巣に戻れずに死んでしまうことが蜂群崩壊を招く恐れがある事を発表。
2012年4月5日アメリカハーバード大学院は、蜂群をイミダクロプリドに晒す実験を行い、23週間後に16のうち15の蜂群において崩壊が起きた事を発表。
2012年4月20日イギリス、マルハナバチをイミダクロプリドにさらした結果、体が小さくなり、女王バチの誕生数が85%減少すると発表。
2012年6月日本では、養蜂振興法(昭和30年8月27日法律第180号)が改正され、原則として蜜蜂を飼育する場合には都道府県知事への飼育届の提出が必要となる。
2013年5月黒田洋一郎他は、「自閉症・ADHDなど発達障害増加の原因としての環境化学物質-有機リン系,ネオ二コチノイド系農薬の危険性」を発表。
2013年12月EU全域において、ネオニコチノイド系農薬3種の使用禁止。
2013年金沢大学教授山田敏郎の研究でネオニコチノイド系農薬によって蜂群が最終的に消滅することを確認。
実験で使用された農薬は、ジノテフラン10%含有商品とクロチアニジン16%含有商品。
実験では高濃度から低濃度(100倍に希釈)までの農薬を餌に混ぜて西洋ミツバチ1万匹8群に投与したところ、濃度に関わらず成蜂数が急激に減少し群は最終的に絶滅した。
山田は慢性毒性によりミツバチは帰巣能力を失ったのではないかとし、また毒性が強くても従来の有機リン系農薬の場合は、 時間経過とともに蜂は回復するとしたうえで、ネオニコチノイド系農薬は「農薬というより農毒に近い」もので、 「このまま使い続け、ミツバチがいなくなれば農業だけでなく生態系に大きな影響を与える」と警告した。
2014年2月フランス、農業以外での農薬使用禁止。
2014年3月韓国、「チアメトキサム」「イミダクロプリド」「クロチアニジン」について、EUの評価が完了するまで農薬の新規と変更登録を禁止。
2014年7月アメリカ、16年1月まで野生保護区でのネオニコチノイド系農薬禁止。
2014年9月フランス、農薬の空中散布を禁止。
2014年6月20日アメリカのハチの減少(下記参照)が毎年止まらず、食糧危機が懸念され始めたことからアメリカオバマ大統領は、ミツバチ保護に予算5千万ドルの「ミツバチ、その他花粉媒介生物の健康を促進する連邦レベルの戦略の策定」覚書を発表。
2007年 「-32%」
2008年 「-36%」
2009年 「-29%」
2010年 「-34%」
2011年 「-30%」
2012年 「-22%」
2013年 「-31%」
2014年 「-42%」
2014年7月18日イギリス、「送粉昆虫を守る5つの簡単な行動を国民に呼びかけ 」を発表。
2014年7月住友化学、米国で大豆種子処理用の「クロチアニジン複合農薬」を発表。
2015年1月ブラジル、ハチへの影響を考慮し、綿花開花期の周辺でのネオニコチノイド系農薬など浸透性農薬4剤(イミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、フィプロニル)の使用を禁止。
2015年4月欧州科学アカデミー諮問委員会、広範なネオニコチノイド系農薬の使用がミツバチ以外の昆虫や生物にも悪影響を及ぼしていると発表。
2015年4月環境保護庁、イミダクロプリドなど4種類のネオニコチノイド系農薬の新規登録や変更を停止。
2015年4月ポートランド市、市有地でのネオニコチノイド系農薬の使用を禁止。
2015年4月ペンシルベニア大、GM大豆とGMコーンの栽培拡大がネオニコチノイド系農薬の使用量増加をもたらすという研究結果を発表。
2015年5月アメリカ、14年から15年にかけてのミツバチの群れの喪失率が2番目に高い42.1%と発表。
2015年5月アメリカ、ミツバチなど花粉媒介生物の健康に関する特別委員会が、期限より5か月遅れで国家戦略を発表。
2015年5月19日厚生労働省は、ネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和(ほうれんそうでは従来の13倍に緩和)。
これについてグリーンピースは、子どもの健康や食の安全より農薬メーカーの利益を優先していると抗議。
2015年5月農水省は、「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組」を改定。
日本では、今も北海道を中心とする北日本でミツバチ大量死が多発しており、水田でカメムシ対策に使われているネオニコチノイド系殺虫剤が原因との結論を畜産草地研究所が出していますが、 農業においてネオニコチノイド系農薬についての規制は特に行われていません。
ミツバチとは
世界に9種類存在し、西洋蜜蜂は全世界で養蜂に利用されています。日本には日本蜜蜂と西洋蜜蜂の2種が飼育され、採蜜や作物の受粉に広く利用されています。
トマトやピーマンなどのナス科の果菜類は蜜を出さず、特殊な振動採粉を行うため、ミツバチではなくマルハナバチが使われます。
西洋蜜蜂の養蜂は、規格化された巣箱を使い大規模な採蜜が行われます。
日本蜜蜂の場合は、野生集団を捕獲して飼育し、採蜜の際は巣を破壊して搾り取ります。
ハチは全体的に攻撃的なイメージがありますが、どのハチも巣を守るとき以外に、攻撃することはなく、観察をする程度なら刺すことはありません。
特に日本蜜蜂は大人しく、巣の入り口のハチを触っても、手に乗せても刺す事がありません。
ハチが腕にとまる時は、攻撃しているのでなく、ミネラルを集めているそうです。
軽く噛まれるので少しチクチクしますが、じっとしていれば、刺されることはありません。
敵意をもつと、体当たりや体にまとわりついてきたりして、刺す前に合図を送ってきます。
刺されても少しチクッと腫れるくらいで、アレルギーがなければ、心配する必要はありません。
しかし、スズメバチはなんども刺せますが、ミツバチは一度刺すと死んでしまいます。
ミツバチの生態系
●ミツバチの巣(コロニー)は、1匹の女王蜂と、働き蜂、雄蜂の3種類の蜂で構成されています。●新たな女王蜂が誕生すると、巣では群の分割(分封)が起こり、旧女王蜂は働き蜂を引き連れて、新しい巣を探しに出ます。
この時、女王蜂を護って働き蜂が塊のようになる分封蜂球(ぶんぽうほうきゅう)を作ります。
●働き蜂は、全て受精卵から誕生するメスです。
メスの幼虫は花粉と蜂蜜を食べて育ちますが、働き蜂の頭部から分泌されるローヤルゼリーのみで育てられたメスは交尾産卵能力を持つ女王蜂となります。
女王蜂が事故や寿命などで死んだ場合は、働き蜂が交尾をすることなく、無精卵を産み、すべてオスが誕生し、羽化したオスが他の群れの女王蜂と交尾することで、遺伝子を残そうとするそうです。
●オスは無精卵から誕生し、働き蜂に比べて体と眼が大きいのが特徴です。 巣の中では働き蜂に餌をもらう以外は何もしないことから、雄蜂(おばち)のことを英語で「drone(なまけもの)」と呼びます。
オスは女王蜂と交尾するため、晴天の日を選び、集団で飛び立ち、群れの中へ女王蜂が飛び込んできて交尾を行います。
オスは交尾の際に腹部が破壊されるため交尾後死亡し、女王蜂は巣に帰還し産卵を開始します。
交尾できなかったオスも巣に戻りますが、繁殖期が終わると働き蜂に巣を追い出され死に絶えます。
●女王蜂の寿命は1~3年(最長8年)で、1日1000個の卵を産み続けます。
働き蜂の寿命は最盛期で15~38日、中間期は30~60日、越冬期が140日、オスは21~32日です。
●毒物への耐性は弱く、ショウジョウバエの半分程度しかないことから農薬には非常に弱いことが分かります。
蜜の採集
ミツバチは蜜源を見つけると巣内の垂直な巣板の上でダンスを行い、仲間に蜜源の方向と距離を伝える高次なコミュニケーション能力があります。この能力を発見したニコ・ティンバーゲンとコンラート・ローレンツは、1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
蜜源が近い場合には、体を振りながら、左右交互に円形を描く「円形ダンス」を行います。
蜜源が50m以上の遠い場合は、太陽の方向を基準に、蜜現がある方向に尻を振りながら直進して、右回りして元の位置に戻り、尻を振りながら直進して、左回りして元の位置に戻る「8の字ダンス(尻振りダンス)」を繰り返し、方角を示し、直進する時に音をだして距離を伝達します。
1秒間の音で670mです。
つまり巣板上で右手水平方向に向かって尻を振るような8の字を描いた場合、「太陽を左90°に見ながら飛べ」という合図になります。
花粉や水の採集、分封の時に新たな巣の場所決定に際しても、ダンスにより情報が伝達されます。
蜜を持ち帰った働き蜂は、貯蔵係のハチに蜜を渡しますが、貯蔵係は糖度の高い蜜を優先して受け取り、糖度の低い蜜を持ったハチは待たされます。
こうすることで良い蜜源へ働き蜂を集中させ、効率よく採集します。
ミツバチの巣
自然の状態では、ミツバチの巣は巣板と呼ばれる鉛直方向に伸びる平面状の構造のみからなります。巣板の数は、自然の状態でも10枚以上になることがあります。
ミツバチは巣板を防御する構造物を自ら作り出すことはせず家屋の隙間や床下などを利用しますが、都市部では巣板がむき出しになった巣もあります。
巣板には、六角柱の穴が平面状に数千個あり、この構造をハニカム構造(honeycomb、蜂の巣の意)といいます。
六角柱は厚さ0.1mmの壁で出来ており、奥行きは10~15mm、底部は三角錐です。
巣板の材料はミツバチの腹部から分泌された透明の蜜蝋で、巣を構成し、巣が使用されるにつれ花粉、プロポリス、幼虫の繭(まゆ)、さらには排泄物などが付着していきます。
幼虫を育てるために使用する穴の奥行きは10~15mmですが、蜜を貯蔵するために使用する穴の奥行きはバラツキが大きく20mm程度に成る場合もあります。
ミツバチによる生産物
●蜂蜜
花から得られる糖分と水分、ミツバチ体内の転化酵素が濃縮された物質。有史以前から甘味料として利用され、現在では化粧品にも利用されています。
●蜜蝋(みつろう)
ミツバチが体内で合成し分泌する物質(ワックス成分)で、巣をつくる際の構成材料となっています。中世ヨーロッパでは蝋燭(ろうそく)の主原料でした。
ワックス、油絵具などのメディウム(薄め液)、石鹸、クリーム、口紅、蝋燭などの原料として利用されます。
●プロポリス
西洋蜜蜂は、植物が芽などを保護するために分泌する物質を、働き蜂が花粉と同じように後脚に付けて巣まで運び、巣の接合部位や巣材の蜜蝋の補強材料にします。抗菌性や抗腫瘍性成分などとして注目され、健康食品として利用されています。
日本蜜蜂は採集しません。
●ローヤルゼリー
働き蜂が体内で合成し、咽頭腺から分泌する物質。ローヤルゼリーのみで育てられたメスの幼虫だけが女王蜂として成長します。
ゲノム解析により女王蜂と働き蜂のゲノムに違いがないことが明らかになっており、どのメスの幼虫も女王蜂になる可能性を持っています。
●花粉
働き蜂は、幼虫の餌やローヤルゼリーの原料とするため、花粉をだんご状にして後脚の脛節にある花粉かごにつけて運び、巣に蓄えます。乾燥物が健康食品として利用されています。
日本蜜蜂と西洋蜜蜂
ハチミツを採取する蜂には、日本蜜蜂と西洋蜜蜂がいます。日本蜜蜂は、北海道、沖縄、離島を除く、日本中に生息している、昔からの在来種です。
1000年以上前から、朝廷などの権力者に献上された記録は残っていますが、大きな養蜂場もなく、採蜜量も少なく、庶民が食べられるようなものではありませんでした。
明治時代になると、ヨーロッパやアフリカに生息している西洋蜜蜂の採蜜量が多いことから、近代的な飼育技術と共に世界中に輸出され、日本にも輸入されてきました。
野生の日本蜜蜂は、環境に変化を感じるとすぐに引っ越してしまうのに対して、西洋蜜蜂は家畜に優れており、採蜜量が日本蜜蜂の5倍以上!
西洋蜜蜂の養蜂場は世界中で増えていきました。
西洋蜜蜂は、単一の花から蜜を集めるのに対し、日本蜜蜂は多くの花から蜜を集めます。
アカシヤ蜜やレンゲ蜜は西洋蜜蜂から採蜜したものであり、日本蜜蜂の採蜜したものは百花蜜と呼ばれます。
海外産のハチミツは蔗糖を添加しているものが多く、国産の西洋蜜蜂のハチミツと比べ、味や風味の少ないことから、 国産の西洋蜜蜂のハチミツの相場は3倍ほど高いのですが、ハチミツ全体の0.1%以下と言われている日本蜜蜂のハチミツは、 更に相場が3倍ほど高く、まさに朝廷献上の、庶民が食べたことがないハチミツと言えます。
野生の日本蜜蜂は、農薬のある場所から美しい自然を選び移動します。
西洋蜜蜂は、日本ではオオスズメバチが天敵となり、野生化できません。
日本蜜蜂は大人しいハチで、飼育者を攻撃することがないそうですが、スズメバチが攻めてくると集団で囲み、熱を発し、窒息死させるそうです。