健康評価センター所長 柿野賢一先生書下ろし
連載企画 第45回!

補完代替医療に対する食品機能性の期待
「補完代替医療」という言葉は、最近では一般の方にもようやく認識されるようになってきましたが、英語ではコンプリメンタリー・オルタナティブ・メディシン;Complementary and Alternative Medicine =CAM)といいます。
これを構成する、前半の「補完医療(コンプリメンタリー・メディシン)」とは、西洋医学を補う、つまり補完する医療のことで、一方、後半の「代替医療(オルタナティブ・メディシン)」とは、現代の西洋医学に代わる、つまり代替する医療のことを指しています。
これらの二つの医療は、意味合いとして異なる場合もありますが、明確には分けることが難しく、二つをまとめて「補完代替医療」といいます。
最近では、もっと幅広く「補完代替医療」と「西洋医学」を併せた「統合医療」という考え方が主流になっています。即ち、総合的にみて患者さんにとって最も適した医療を選択するという考え方です。

さて、補完代替医療の分野は幅広く、米国NCCAMによると、
・代替医療体系(Alternative Medical Systems)
・精神・身体インターベンション(Mind-Body Interventions)
・生物学に基づく療法(Biologically Based Therapies)
・整体や身体を基礎とした方法(Manipulative and Body-Based Methods)
・エネルギー療法(Energy Therapies)
などに分類されています。

この中の「生物学に基づく療法」の中に「ハーブ、食品、ビタミン、ミネラル、生理活性分子など」が含まれていて、特にこれら食品系の「機能性」を科学的に証明しようとする機運が世界中で高まっています。
今まではっきりとは証明されてこなかった食品の機能性を有する成分の科学的な研究や、ヒト臨床試験による機能性の科学的研究などが、欧米や日本を中心に世界中で行われ始めています。

ところで、食品の機能性研究についてですが、実は日本が発祥の地なのをご存知でしょうか。
本来食品には、生命維持のための栄養面での働き(栄養機能)や食事を楽しもうという味覚・感覚面での働き(感覚機能)があることは知られていました。
これらは食品の1次機能、2次機能と呼ばれてきました。
しかし日本では、食品には上記の2つの機能のほかに「生体の生理機能を調整する働き(体調調節機能)」が存在するとする研究がかなり前から進められていて、昭和59 〜 61 年に日本において公的なプロジェクトとして実施された研究の成果として、「食品には生体の生理機能を調整する働き(体調調節機能)がある」と結論し、これを食品の3次機能と呼びました。
したがって、現在世界中で市場を拡大し、医療費削減にも貢献している「機能性食品」の概念は、実は世界に先駆けて日本が発祥の地だったのです。
しかし、医療=西洋医学という偏った考え方から、残念ながら食品の機能性研究はかなり遅れをとってしまいました。
「食品には生体の生理機能を調整する働き(体調調節機能)がある」ということは、冷静に考えれば当たり前のことで、遠い昔では草を採取して薬として使用していたことを考えても何の不思議もないことなのですが…。
さて、食品の3次機能に関する表示は、一般に、機能性表示と呼ばれています。
従来、国内で食品の機能性表示を行うことができるのは、「栄養機能食品」と「特定保健用食品」のみとされてきました。栄養機能食品は栄養成分の機能を表示するものであり、「国により定められた機能性表示」を行うことができます。また、特定保健用食品は「その摂取により当該保健の目的が期待できる旨を表示」するものです。
これら以外の食品あるいは成分に機能性表示を行うことは、複数の法律により長い間禁止されてきましたが、今年4月から「機能性表示食品制度」がスタートしました。
これにより、企業責任の上で自由に機能性表示することができるようになりましたが、今後は補完代替医療の一翼を担ってきた、これらの「機能性を有する食品」が市場で正しく評価され、私たち国民においては健康の維持増進のための一つの選択肢として広く役立てられ、年々膨らみ続ける医療費削減の一つのあり方として大いに活用されることを期待します。