前章でお伝えした通り、様々なストレスに見舞われている現代人の足。急速な勢いで変化する環境に一見簡単に適応していけるのは、 人間の足が超複雑な構造を持っていて高い順応性を備えているからなのです。
  例えば人間の足首から下の部分(いわゆる“足”、足首より上も含むのが“脚”)には左右一対で56個の骨があります。人間の全身の骨の数が206個なので、全体の1/4以上が足首から下に詰まっていることになります。 頭から遠く離れたところに位置して、普段は靴や靴下に隠れて見えない足だけど、実はスゴイでしょ?

  そして56個の複雑な骨の構造に加えて、64の筋肉と腱(けん)、76の関節、214の靭帯(じんたい)で構成される人間の足。レオナルド・ダ・ビンチが「足は人間工学上、最大の傑作であり、 そして最大の芸術作品である。」と述べたそうですが、まさに精密機械です。
  どうしてこんなに複雑なのかと言えば、足にはたくさんの役割があるから。「バランスを取って立つ」、「歩く」、「衝撃を吸収する」、「血流を上げる」・・・など、結構いろいろなことが求められているのです。

  こんな複雑な構造を持つ足だからこそ、人間が要求するさらに過酷な環境にも耐えられてしまいます。たとえばハイヒール、前章でも触れましたが 普段の生活でここまで爪先荷重になる履物は必要ありません。十何僂箸い高いピンヒールも、人間の足はその柔軟性で履きこなしてしまいます。ただしその場では見えなくとも足への負荷は内在していて、 アフターケアもなしに長期間履き続ければ、後になって外反母趾など目に見える症状が現れるのです。

  たとえばバレエは非常に美しい芸術舞踊ですが、一流のバレリーナには過酷な体重管理、体型管理、そして足先への高負荷が課せられます。美しい動きのトゥシューズの中はタコや変形骨だらけ、 でもバレリーナにとってはここまで鍛え上げた勲章のようなものだそうです。人間の足はここまでやれてしまう…という芸術的なお手本ですね。(ただしオフタイムにはぜひ労わってあげて欲しいと思います。)

  そしてこんな特殊分野でなくとも、人間の足が過酷な環境に耐えてしまうケースがあります。それが「靴選び」を間違えること、特にサイズについてなのです。多少本来のサイズから離れた靴であっても、 人間の足は履きこなしてしまいます。だから自分が思っているマイサイズが本当のサイズと違っていてもなかなか気づかないのです。でも足本来が持つパフォーマンスは、その足に最適なシューズを履いたときに得られるものなのです。



  普段は軽視されがちなことが実はすごく重要だった、なんて良くあることですよね。「足」はまさにそれで、改めて見ると結構スゴいんです。 だから普段の何気ない靴選びは実は「姿勢」や「血流」、「凝り」、「腰痛」など皆さんの健康にとってスゴく重要。足本来のパフォーマンスを引き出してあげれば解決する問題がたくさんあります。
  ここで足の柔軟性を説明するのにハイヒールやバレリーナが登場しますが、彼女たちは自分の足をいじめていることに自覚的なのでまだ良いのです。 おそらく相応のケアをしてあげているでしょう。良くないのは無自覚なケース。知らず知らず履く靴が間違ったものに偏り、知らず知らず健康を損ねているのはまさに悲劇です。



  皆さんご自分の足のサイズ(足長)を聞かれて、今すぐ自信を持って即答できると思います。でもそのサイズいつごろ測ったものですか?
  最近ですか? それとも学生時代? ずっと変わらなかったですか? それから体重は増減ありました? そのサイズ、右足でした? 左足でした? サイズを測ったときは朝でした?夜でした? ・・・・ほら、なんとなく自信が無くなってきませんか? でも大丈夫です。靴のサイズは足長だけで決まるものではありません。

  むしろ重要なのは足幅…というより足囲(ワイズ)です。足幅は親指と小指の付け根の一番張り出た部分を結んだ距離。足囲はその線上をぐるり囲んだ円周の距離(足の太さ)です。 この数値をもとにJIS(日本工業規格)サイズ表で自分のサイズが決まるわけです。足長は数字、足囲はA,B,C…のアルファベット表記です。そして日本のサイズ表記では履く人のサイズが靴の表記サイズとなります。 外国のサイズ表記は靴を製造するときの靴型(ラスト)サイズを指し、靴型のつま先部分10mmほどの捨て寸が長くなります。…だんだんモヤモヤしてきましたね。

  海外の表記サイズにも種類があって、日本国内で販売されるインポート靴は本国の表記で混在しています。US(アメリカ)サイズ、UK(イギリス)サイズ、そしてFR(フレンチ)サイズがメジャーです。 表記の単位はUSとUKがインチ表記(1インチは2.54cm)でFRが日本と同じセンチ表記です。ただし足長を測る起点が違い、UKでは踵から4インチの箇所を起点に1/3インチ等差で数えます。またUSでは3+11/12インチが起点です。 …もう何言ってるのかわからなくなってきました。

  ここまできたら一応最後まで説明しておきます。USとUKではワイズはアルファベット表記でJISと同じですが1/4インチ等差、AAA、AA、A、B・・・などの表記もありさらに紛らわしくなります。 FR(フレンチ)ではセンチ表記で起点はJISと同じ踵なんですが、なぜか2/3囘差で数えるため数字が大きくなります。例えば日本の23cmサイズはFRの靴型(ラスト)サイズでは捨て寸を足して24cm、それを2/3で割ると36となります。 …どうです「???」ってなりませんか?

  でも日本のJIS規格サイズなら実際の足のサイズで統一だからわかり易いのでは…って思いますよね。ところが、日本の各メーカーが実際に使う表記はJISに則っていたり、 メーカー独自の表記だったりバラバラなんです。
  「え!?じゃあ今までの説明は意味無いのでは?」……ですよね!もうケムリに巻かれているような話になってしまうのです。そしてそんな状況でサイズを乱暴に選んでいるにも関わらず、 あなたの足が何とか履きこなしてくれている訳です。



  いやあもう訳わからないですよね。しかもマイサイズというのも測定したときの立ち方、体重の掛け方、そのときの足のむくみ方などいろいろな要素で変わってしまいます。 また選んでいる靴の形、スニーカーなのかパンプスなのかブーツなのかによって、同じサイズ表記でも足入れ感が変わってきます。そして素材…合皮なのかキャンバスなのか本革なのかでサイズ感も… もう厳密にサイズ選びなんてできません(笑)。
  実際にサイズを探すときは、サイズ表のことなんて一度忘れてしまって構いません。大まかな自分の足長と足囲だけ把握して近いサイズから当たりをつけていくのが現実的です。そして特に足囲で靴を合わせていって欲しいのです。



  これまでに出てきた靴の専門用語で「捨て寸」、爪先部分で10mmほど長くなるってどういうことでしょうか?まずは上の画像を見てください。 これはラストと呼ばれる靴型で、この型をベースに靴の内側の空間を作り立体を起こします。
  通常靴と爪先の間には10mm ほどの空間があって、歩行時に足先に圧力がかかって足の指が伸びるための伸び代を用意する必要があります。 例えば23cmの足のためには24cmのラストを使って爪先に10mmの空間を作ります。これが捨て寸です。

  足先は靴の中で先端に触れているわけではありませんから、極端なことを言えば靴のサイズが足長より短くさえなければ問題はないということになります。もし靴が短いのに無理して履いてしまうと、 巻き爪の原因になったり、そもそも指が動かしづらく歩きづらいことになります。ただし捨て寸は一般的には5〜10mmあれば十分でそれ以上あっても構いませんが、長すぎると歩いていて爪先が地面にぶつかりやすく、 躓きやすいことになるでしょう。

  ということで、よく言われている足のつま先の形3タイプによって合う靴、合わない靴があるなんて説もナンセンス。どちらにせよ指を動かすに十分なスペースが必要なので、 合う合わないを決定するのは甲周りということになります。ちなみに日本人には第一趾が長いエジプト型が一番多く7割ほど、次に第二趾が長いギリシャ型が2割、ほぼ均等な長さのローマ型(スクエア型)は1割程度と言われています。



  よく欧米のブランドスニーカーを履くときは実際のサイズより2〜3cm大きいものを選べ、などと言われています。これはワイズの狭い欧米人向けに作られたシューズを日本人が履くときに起こるケースで、 表記サイズ通りに選ぶとワイズの広い(盤広甲高な)日本人は足が入らない、もしくは窮屈になってしまうのです。つまり足長サイズで選ばなくとも問題にならないということです。爪先の捨て寸部分に何ミリのスペースがあるかなんて、 履いている本人にはわからないしあまり意味の無いことですよね。



  日本人の足が統計的に欧米人に比べて、甲高で太めなのは結構知れ渡っています。そこでこんな風に思われている方が多いかもしれません。「幅が広い靴の方が履き心地が良い。」 …事実には違いありませんが、足囲は靴のサイズ感を決める重要な指標で、自分の足に合った最適なものを選ぶべきです。よくあるのが「3E」(または「EEE」)を選んでおけば大丈夫という考え方ですが、 実は靴に表記されている3Eはメーカー基準によって実寸が違うかもしれないのです。JIS規格で定められた「3E」は足長23.5cmで243mm、コレかなりの大きさです。

  なぜこんなことが起きるかと言えば、「3E」と表記しておいた方がお客様に選んでもらいやすいから…、極めて営業的な理由です。ちなみに市場にある「3E」表記の靴の足囲を実際に測ってみると、 215〜218mmくらいだったりします。これってJIS規格でいう「C」程度です。そしてリゲッタで一番売上実績のある足型23.5cmの足囲は226mm、これはJIS規格の「D」程度です。いかに靴の表記があてにならないかがおわかり頂けると思います。 そして「3E」表記の靴がぴったりすれば、お客様はご自分の足囲が「3E」だと思ってしまうはずです。

  「でも足長より足囲の方が重要なんでしょ?それじゃ何を基準にワイズを選んだら良いの?」…そうですよね。だからまずは表記を気にしないで履いてみてください。 靴のデザインによっても変わりますが、ワイズの部分(指の付け根周り)では柔らかく支えるくらいのホールド感で大丈夫です。そして甲上部がしっかり押さえられていること。これで踵が浮いてしまうことも、 足が前に滑るようなこともなくなります。ただし甲が締められないプレーンパンプスなどでは、足首周りとワイズの二点でホールドしますので、ワイズも少しきつめになります。



  サイズ表記を気にするなって無茶なことを言ってますが、結構これがこの問題の核心かもしれません。職業柄人の足をたくさん見てきましたが、例えば23.5cmという同じ足長でも足の形やワイズは様々です。 また選んでいる靴のデザインや素材によっても選ぶサイズは変わるかもしれません。そして朝なのか夜なのかでも足のむくみ方が違うので選ぶサイズが変わる可能性があります。 つまり表記で選ぶだけでは最大公約数的なサイズ選びになってしまい、ベストサイズにたどり着けないかもしれないのです。



  シューズデザイナーとしていろいろ考えていくと、ぴったりなサイズを探せるようにSKU(ストックキーピングユニット:サイズなどの組み合わせの単位)を増やしていくより、 細かなサイズ調整が簡単なシューズを作る方が現実的だし、お客様にとってもわかり易いのです。スニーカーの編上げ紐なんて、まさに部分的にサイズ調整できる機能的デザインです。他にもマジックテープや、 ポンプなどいろいろなサイズ調整機能がこれまでありましたよね。

 

  ちなみにリゲッタカヌーでは、足幅を広く取っていますがワイズそのものは結構小さく設定しています。ただし伸縮性のある素材やマジックテープを使って調整が可能、だから楽な履き心地が確保されているのです。 足幅を広くした分靴が大きく見えてしまいますが、そもそも「ビッグフット(大きい)」ということをデザインに組み込んでしまいました。そして長時間履いてもムクみにくいインソール設計、 ワイズの変化が少ないので正しいサイズをキープできます。

  リゲッタのサイズピッチ(間隔)は10mm刻みですが、通常のワンサイズ分くらいのワイズ調整(3.5mm)はアジャスターで簡単に調整できます。 少々手間に思えるかもしれませんが、こちらの方がより正しいサイズ選びが出来るというものです。
  そして正しいサイズ選びをすることで、正しい姿勢で正しい歩き方ができます。つまり人間の足が本来持っている高いパフォーマンスを得られるのです。



  「結局履かなきゃわからない」などと、乱暴なことを言っているのではありません。でも、「一般的だと思われている足長だけで選ぶことにあまり意味がないこと」、 「足囲で選ぶと言っても単純に表記を鵜呑みにはできないこと」をわかって欲しかったのです。足の形は人それぞれ千差万別なので、既製靴でぴったりなんてことは滅多にありません。 でもビスポーク(注文仕立て)で皆が靴を作れるわけありませんよね。そこで、細かな微調整は自分でやってしまおう!…というわけなんです。



  靴のサイズ選びはとても重要、良い靴を正しく履いて、正しく歩くことのアウトカムは大きいのです。でもそれが中々世間に伝わらないのは、多少正しくない履き方をしても気づかないから。 そして、気づいた時には結構重大なトラブルを足に抱えていたりします。「外反母趾」、「内反小趾」、「開帳足」、「偏平足」、「タコ」、「魚の目」、「靴擦れ」・・・これらはわかり易い足で起こるトラブルですが、 これ以外にも「腰痛」、「肩凝り」、「片頭痛」、「冷え性」など足からくるトラブルはいろいろ考えられます。特に女性の皆さんが悩むトラブルが多いのではないでしょうか?  そこで、少々面倒かもしれませんがサイズ選びにもう少しだけ気を使って欲しいのです。そうすることで得られる成果は結構割に合うものだと思うからです。

次回第2章は「知っておきたい!靴の構造」について!
2016年春公開予定です。