歴史的建造物が今も多く立ち並ぶ播磨の地に、創業200年を超える酒蔵・三宅酒造があります。町人文化が栄えた江戸時代から令和まで、地元加西市と共に時を重ね、代々受け継がれてきた三宅酒造の日本酒は一体どのようなものなのでしょうか。
今回は7代目蔵元の三宅文佳さんにお話を伺いました。
-蔵の仕事の半分以上が掃除!
200年続く酒造りは環境を整える所から-
「蔵の汚れが酒質に現れる」そう考えるのはお酒を濾す際に使用する布の匂いでさえ、ろ過時にお酒に匂いが移ってしまうほど日本酒がとても繊細だからです。
日本酒醸造というと大きな樽をかき混ぜるイメージがありますが、実際は器具の消毒などの掃除が蔵の仕事の半分以上を占めます。
-醸造工程において米が発酵した状態を指す「もろみ」に優しくとは?-
現代ではお酒造りの洗米から瓶詰めに至るまで機械で行うことが可能です。それにより日本酒の大量生産が可能になり、人々にとって身近な存在になりました。
一方で、機械を利用するデメリットもあります。例えば上槽するときに機械を用いると、もろみに強い圧力がかかり、雑味成分も含まれてしまいます。
三宅酒造では、クリアで繊細なお酒の旨みを存分に引き出すために、手間や労力はかかりますが、製造をできるだけ手仕込みで行っています。例えば袋吊り製法です。
袋吊り
袋吊りとは、搾りの際にもろみを袋に詰めた状態で吊るして、圧力をかけずもろみの重さだけで滴る(したたる)お酒を集める手法です。これによりもろみに圧力がかからず搾りの三段階全てを楽しむことができます。
抽出に大変な手間がかかるので通常はコンテスト用の出品酒のみこの製法で造られています。
「QA クエ」シリーズ
第一段階:あらばしり
あらばしりは搾り始めの白濁した段階のお酒。一番始めに搾り出てくる部分なので香りとお米の旨みをダイレクトに感じることができます。
瓶内発酵が進むため、シャンパンのような発泡感があるのも特徴です。吊るした袋の目が詰まるまでの10分程度しかとれないため、貴重な一品となります。
第二段階:なか汲み
第一段階で溜まったもろみが酒袋の目に詰まって、自然にろ過されて出てくるのが第二段階のなか汲み。落ち着いたまろやかさとバランスの良い香味が特徴でとてもクリアです。
クリアな仕上がり故に、もろみの旨みや甘みだけでなく、苦みやアルコール感などもダイレクトに舌に伝わってきます。もろみの実力が試される一品です。
第三段階:せめ
手回し器でじっくり圧力をかけた段階がせめ。生の根菜をかじった時のようなほろ苦さとほろ甘さが魅力的で料理の付け合わせを考えるのが楽しくなります。
3段階の中でもっとも芳醇かつ複雑味のある味わいです。
-土地柄を活かしたこの地でしか出せない味-
三宅酒造のすぐ近くに一等級の水質を誇る万願寺川が流れています。その川を挟んだ向こう側に酒米の王様「山田錦」の田んぼが広がります。
日本酒はワインと違い原料畑と醸造所が離れていることが一般的です。ところが、三宅酒造は「山田錦」を育てている田んぼに隣接しているため、酒米の育成にも利用されている万願寺川水系の水を使って日本酒を造ることができます。
日に当たるだけで着色したり匂いが変わってしまうほど繊細な日本酒の質は、水質に大きく左右されます。三宅酒造のお酒は、稲の段階からお酒になるまで統一して同じ水を使用しているので、この地でしか出せないピュアな日本酒を造ることができるのです。
加西市の酒蔵として今後も「三宅酒造」を継承していくために地域のリジェネラティブ活動にも力を入れています。日本酒は水質や天候、酒蔵内の環境などに強く影響を受けるほど繊細なもの。いつまでも変わらぬ味を提供するためには、地域の環境保全が不可欠といえます。
たとえば、学校教育です。三宅酒造で使用する酒米には地元の高校生と共に育てた酒米も含まれており、土地に農薬が残らないように有機栽培教育も始めました。
その他にも飲酒運転撲滅活動や、若手醸造家が集まる日本酒イベントに積極的に参加することで日本酒の文化継承にも貢献しています。
三宅酒造は地域と共に歩み、未来に向けて変わらぬ価値を守り続けます。