しっとりした小雨はスコットランド名物。“スコッチ・ミスト”と呼ばれるこの霧雨は、太古以来の古い岩の上に降り注ぎ、しみ込み、泉となり、渓流となって、国際的なウイスキー産業の原動力となります。

スコットランドのどの地方を訪れても地名こそ違えど、天候の表現が何となく似通っていることに気づきます。

たとえば、エアシャーでは「クライド湾の向こうにアラン島がはっきり見えたら、やがて雨。はっきり見えなかったら、すぐに雨」などと言われます。

それぞれのモルトウイスキーのスタイルやフレーバーが異なるように、水の質や性格もさまざま。ある地域ではピートの褐色を帯び、ある地域では水晶のように透明で、それがウイスキーの微妙な個性に影響を与えています。

スコットランドでは狭い地域内でも驚くほど水質に差があるため、蒸溜所では使用する水がきわめて重要です。

蒸溜所が優れた水を確保することは、自家製麦を行う場合の大麦の発芽工程を含め、糖化・発酵・蒸溜に至るまで、ウイスキーづくりのすべての工程において大きな力となるのです。

水はいつの時代も、場所によって性格の異なる神秘的な自然要素とみなされてきました。

こんなお話があります。今から100年ほど昔、ある男がライバルの蒸溜所を追い落とすため、職人を自分の蒸溜所に引き抜きましたが、ライバル社とそっくりの蒸溜器をつくり、同じ樽に詰めて寝かせる。

しかし、出来上がったウイスキーはライバル社とは似ても似つかぬ味だったのだとか。良質な水とウイスキーづくりとは、切っても切れない関係にあるのです。

スコットランドの西にある淡路島よりやや大きな島、アイラ島。

アイラ島は海風と雨に激しく打ちつけられるため、ウイスキーにも塩の効いた海草のフレーバーの影響を与えます。

ほとんどのウイスキー愛好者に”アイラ”という言葉をかけると、”ピート”という返事が返って来るでしょう。

ヘブリジーズ諸島の中の、この小さな島は平坦で、主としてピートで構成されており、このピートを蒸留所は大麦をモルトにするための燃料として使用しています。

これによって、ウイスキーに強力なスモーキーでピートのフレーバーが付加され、スペイサイドのほとんどのウイスキーとは非常に異なるものになっています。