“道具としての靴”を突き詰めた先に生まれる伝統
フランスには素敵な伝統がある。子どもが18歳を迎えるその節目に「これからの人生をともに歩む靴」を贈るというものだ。そして、その最初の一足として選ばれることの多いのが〈Paraboot〉の「MICHAEL」だという。
1908年、フランス東部の町イゾーで、レミー・リシャール・ポンヴェールは、軍人や山村で暮らす人々のために、雨や雪、ぬかるんだ道でも確かに歩ける実用靴を作り続けていた。過酷な環境で本当に頼れるのは流行よりも確かな機能。その思想は、1926年に滞在中のアメリカでゴム底のブーツに出会ったことで、さらに研ぎ澄まされる。「革靴にこそ、ゴム底が必要だ」──その信念から独自のアウトソールの開発に着手。そして試行錯誤の末に生まれたのが、革靴用としては世界初となるラバーソールだった。木やレザーのアウトソールが主流だった時代においてパラブーツのラバーソールは靴業界に革命を起こしたのである。
天然ゴムのラテックスを輸入するために使われていたブラジルの港「Para」の名を冠したブランド名には、素材と真摯に向き合う姿勢が刻まれている。現在においてもアッパーからソールまでを自社で一貫生産できる世界でも稀有な存在であることが、パラブーツの哲学を物語っているのだ。
そんなパラブーツの中で、長い歴史を持ち、最も多くの人に愛されてきたモデルが「ミカエル」だ。その誕生は1945年。第二次世界大戦が終結した年であり、創業者の孫が生まれた年でもある。「ミカエル」という名は、その孫であり、現在もブランドを率いるミッシェル・リシャール・ポンヴェール氏の名前が由来となっている。ミカエルとは、ミッシェルのラテン語読みなのだ。
山岳民族が履いていたチロリアンシューズを原型とし、ぽってりとしたトゥ、大胆なモカ縫い、重厚な佇まいは一見すると無骨だが、その内側には驚くほど理にかなった構造が詰まっている。オイルをたっぷり含んだリスレザー、登山靴にも用いられるノルヴェイジャン製法、足に馴染むコルクインソール、深い溝を刻んだ自社製ラバーソール。防水性、堅牢性、歩行性──すべてが「長く履く」ために存在している。
これほどまでに道具として完成されていながら、ミカエルはスタイルを選ばない。ジャケットに合わせても、ミリタリーやスポーツミックスでも、パンツの太さや丈を問わず受け止めてくれる。その懐の深さこそが、80年以上続くロングセラーたる所以だろう。フランスでは今もなおパラブーツの中で一番の売上を誇り、学生から医師、弁護士、農家、ワイン生産者まで、職業や立場を越えて愛用されている。社会を静かに横断してきた一足なのである。
シンプルであること。本物であること。修理をしながらともに年を重ねられること。
今、あらためて求められている価値を、「ミカエル」は何ひとつ誇張することなく体現している。
だからこそ、この靴は流行にはならない。日常の中に寄り添い、世代を超えて受け継がれていく。
「これからの人生をともに歩む靴」として選ばれる理由がここにあるのだ。