カレンシルバー発注で知る異文化と自文化の違い

記号が持つ意味は文化によって異なり、日本人と同じ意味で「〇」「×」を使う文化の方が少数派です。

カレンシルバーの発注書

「〇」「×」は世界共通ではない

「〇」と「×」。日本人なら誰でも知っている記号です。
学校のテストで回答が正しければ「〇」、正しくなければ「×」または「✓」が赤ペンで印されたのを懐かしく思い出すことでしょう。

「〇」は正しい/良い/OK、「×」は正しくない/悪い/NG(No good)を意味する世界共通の記号と考えています。
しかしこれらの記号が持つ意味は文化によって異なり、日本人と同じ意味で「〇」「×」を使う文化の方が少数派です。
欧米・タイでは日本人が「〇」を使うところ「✓」を使います。
当たり前のように使っている記号でも、「所変われば品変わる」なのです。

文化のギャップを埋めて意図を伝える4つの方法

カレン族の銀細工職人にカレンシルバーを発注するとき、「良い見本」「悪い見本」の意味合いで発注書に「〇」「×」を書いていたことがあります。
この村のカレン族はタイ国に帰属していますが、家庭内ではカレン語、学校では北タイ語を用います。
この村に移住してきたのは1970年代で移住第一世代はタイ語の読み書きが不自由な人が少なくありませんでした。
文字が読めなくても、文化が異なっても、記号なら一目瞭然でこちらの意図を理解しやすいはずと考えたのです。

この頃は発注通りにできあがることもあれば、そうでないこともあり、なかなかできあがりが安定しませんでした。
発注通りのできあがりではないので受け取らない・支払わないということはできません。
なので発注通りにできないと大きな損失になります。
記号が意図通りに機能していないと気が付いたのはだいぶ経ってからでした。

改善前の発注書

「〇」「×」記号、イラストが含まれたカレンシルバー発注書
「〇」「×」記号、タイ文字、イラストが含まれたカレンシルバー発注書

どうしたら文化のギャップを埋められるのか、試行錯誤を重ねました。
苦心の結果が次の通りです。以下のように何重にも保険をかけておくことでお互いの齟齬を少しでも減らします。これでようやく希望通りの品ができあがってくるようになりました。

記号

「〇」「×」ではなくタイで使われている「✓」「×」を使う。

世界共通である信号色の「緑」と「赤」を使う。「(緑)」「×(赤)」として視認性を高める。

文字

タイ語を併記する。「 ตัวอย่างที่ดี(良い見本)」「× ตัวอย่างที่ไม่ดี(悪い見本)」

画像

写真/イラストを多用し、要望をタイ語でも記入する。

改善後の発注書

「 ✓ (緑)」「×(赤)」記号、タイ文字、写真が含まれたカレンシルバー発注書
「 ✓ (緑)」「×(赤)」記号、タイ文字、写真/イラストが含まれたカレンシルバー発注書

「◎」「〇」「△」「×」はいつから始まった?

日本人は同じ文化を共有し、同じような教育を受けています。
日本人同士のコミュニケーションでは気付きにくいのですが「暗黙の了解」が多くを占めています。
異なる文化圏に属する人とのコミュニケーションでうまく行かない時、既成概念や固定観念に捕らわれていないか疑ってみることも大切だと実感しました。

異文化を理解しようとすると、相対的に自文化を改めて知ることにもなります。
「◎」「〇」「△」「×」 記号がこのように並ぶと「◎」は非常に良い、「△」は普通と日本人なら誰でもわかります。日本人以外が見ると意味不明の記号の羅列に見えるはずです。

となると、日本でこれらの記号が優劣を意味するようになったのはいつから?と疑問が湧いてきます。
優劣を表すのに便利で学校教育によく使われていることから、寺子屋あたりが発祥ではないかと想像しています。