このページはバックナンバーです。(2005年4月21日発行)

ひばりin東宝映画(下)

 空ひばりの華やかさは、スクリーンで楽しむのが一番。ことに『ジャンケン娘』に始まる、ひばり、チエミ、いづみの「三人娘」映画の楽しさは、豪華饗宴という点では映画でなくては味わえない。例えば『ジャンケン娘』(55年11月公開)のショウ場面で歌われる「ラヴィアン・ローズ」。この頃、洋画系のスクリーンではジュディ・ガーランドの『スタア誕生』(54年)や、ジェーン・パウエルの『艦隊は踊る』(55年)などのミュージカル映画が花盛り。東宝のステージや映画のスタッフたちは、こうしたミュージカルのスペクタクルをスクリーンに再現するために創意工夫を凝らしていた。

 えば、三人娘の同窓会気分に溢れている『ひばりチエミいづみ 三人よれば』(64年5月公開)では、日本を代表するタップダンス・チーム「中野ブラザース」が振付けで参加。フレッド・アステアとジュディ・ガーランドの『イースターパレード』(48年)の「カップル・オブ・スウェル」を意識した衣装で、三人娘が歌って踊る。スタッフのミュージカル映画への憧憬を、抜群の表現力で応えるひばりは、やはり不世出のエンタティナーである。

 宝では「三人娘」映画のような、明るく都会的なコメディと、『おしどり喧嘩笠』(57年5月22日公開)のようなひばり映画の王道的な、歌入り時代劇が作られている。『おしどり喧嘩笠』は、松竹の『あの丘越えて』(51年)でコンビを組んだ鶴田浩二と久々に競演して話題となった。

 『三人よれば』から久々に作られた東宝映画は、芸能生活25周年を記念して、東映ひばり映画のメイン監督のひとりだった沢島忠監督がメガホンをとった芸道もの『女の花道』(71年11月20日)。これが最後の主演劇映画となった。「今日の我に明日は勝つ」というコピーはひばりそのものを象徴。同時封切りは日本映画でも珍しかったライブ映画『ひばりのすべて』。71年の芸能生活25周年記念リサイタルの裏表を、井上梅次監督が追いかけたドキュメンタリー。偉大なるパフォーマーの素顔が、昭和46年の空気のなかに凝縮されている。

佐藤利明(娯楽映画研究)
 

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