このページはバックナンバーです。(2005年3月14日発行)

ひばりがカバーした曲のシンガーや当時のジャズ・シーン(第2回)

 「HIBARI SINGS JAZZ SONGS-memories of Nat King Cole」はタイトルどおり、ナット・キング・コール愛唱歌であり、ひばりが愛し影響を受けた彼の想い出に捧げたアルバムである。'66年の発売だが、彼が'65年に亡くなったからである。'50〜'60年代のナットの人気はすごかった。もともとはスイングの名ピアニストで、'30年代の後半に頭角を現し、最初ピアノ・トリオで演奏していたが、ある時歌ったら好評で、'40年代に弾き語り歌手となった。'47年にオーケストラの伴奏で吹き込んだ「ネイチャー・ボーイ」がミリオン・セラーとなって人気も急上昇し、ソロ・シンガーとしても活躍し、「トゥ・ヤング」「モナ・リザ」「歩いて帰ろう」「ラブ」など次々にヒットを放った。のちに2枚のラテン・アルバムまで吹き込み、「カチート」や「キサス・キサス・キサス」などをヒットさせた。黒人ではじめて自分がラジオ番組やテレビ番組を持ったことでも話題になったが、日本でも毎日のように彼の歌が流れた。レイ・チャールズも最初ナットを真似た歌い方をしていた。今でもナットの歌は数曲カラオケに組込まれている。

 ットと同時代に活躍した'40〜'50年代の人気歌手たちはBMGのヴォーカル・シリーズで聴くことができる。このシリーズは白人歌手が多いが、「ブルースの花束」のダイナ・ショア、「クラップ・ハンズ!ヒア・カムズ・ロージー!」のローズマリー・クルーニー、「ブルー・スター」のケイ・スターらは次々にシングル・ヒットを放っていたポップ・シンガーだった。ヘレン・フォレスト、ヘレン・オコーネル、リー・ワイリー、テディ・キングらはスイング時代から歌っていた上品で優雅でキュートな女性らしさをたたえた白人歌手だった。デラ・リーズやトニー・ハーパーは黒人のジャズ歌手であり、「ローマのナイトクラブで」のヘレン・メリルは日本で人気の高いハスキー・ヴォイスのジャズ歌手である。男性のマット・デニスは弾き語りの白人歌手で、ペリー・コモはビング・クロスビー、フランク・シナトラと並んで戦後の甘美な声で歌った3大クルーナー歌手であり、次々にヒット曲を生んだ点ではナット・キング・コールに負けないものがあった。戦後の'50〜'60年代前半はジャズ&ポップ・ヴォーカルの黄金時代でもあった。戦後ジャズはビ・バップからハード・バップへとモダン・ジャズ・エイジを迎え、'50年代の後半にはゴスペルのフィーリングがモダン・ジャズに流れ込み「モーニン」や「プリーチャー」などファンキーなモダン・ジャズが生まれて人気を集めた。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズ、ホレス・シルヴァー、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、クリフォード・ブラウンなどモダン・ジャズの人気者が集中して現れたのも'50年代の中頃になってからだった。

岩浪洋三(ジャズ評論家)
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