このページはバックナンバーです。(2005年3月7日発行)
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【第2回】ジャズ・シンガー/美空ひばりの魅力と実力について 美空ひばりがジャズを歌いはじめたのは、江利チエミや雪村いづみより後だったかもしれないが、ひとたび歌いはじめると、そのうまさに度肝を抜かれた。フィーリングもリズムも抜群で、情緒たっぷりの表現力の豊かさは大人のジャズ歌手をしのぐものがあった。しかも物真似ではなく、すべて美空ひばりのジャズになっていた。なにかで、ひばりはジャズに関してはナット・キング・コールと江利チエミの影響を受けた、と語ったという記事を読んだことがあるが、彼女のCDに「HIBARI SINGS JAZZ SONGS-memories of Nat King Cole」があるが、ヴァースから歌った「スターダスト」の情感のこもった演唱、「プリテンド」や「トゥ・ヤング」「慕情」などのバラード表現はあざやかだし、「歩いて帰ろう」「ペイパー・ムーン」「恋人よ帰れ」などの自然なスイング感やジャズ・シンガーとしての本質を掴んでおり、当時のジャズ・シンガーどころか、現在でもひばりを超えるジャズ・シンガーはいないといいたくなってしまう。 美空ひばり自身大変なジャズ好きだったから共演者に対してもうるさく注文をつけていたようだ。ひばりは1950年代には共演のバンドは当時最高のジャズ・ビッグ・バンドだった原 信夫とシャープス&フラッツの共演を求めた。原氏は「よくひばりちゃんからシャープス&フラッツを、とご指名がきた」と回想している。また、リハーサルの時にはひばりの耳のよさにびっくりしたという。トランペッターが音をはずしたりすると、すぐ指をさして、「あなた今音をはずしたでしょう」と指摘したという。 また、なかにし礼の小説「黄昏に歌え」によると、スタジオ録音の時には、家であらかじめさらってきていて、ほとんどいっぱつ録りだったという。どのジャズ・ナンバーを聴いても、その歌に対する理解の深さに驚かされる。原曲の持つ魅力や歌そのものがもつ旋律の美しさを十分に生かして歌っている。間違った解釈や表現で歌をぶちこわすことがない。こねくり廻したりせずに、朗々と歌い上げているが、それでいてどの歌にもひばりの個性や表現がみなぎっていて、1コーラス聴いただけで、すぐにひばりの歌だとわかる。底知れぬ表現力と個性の発露とセンスのよさは天才的というほかないと思う。 岩浪洋三(ジャズ評論家)
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