株式会社リッチェル:商品企画部・荒地さん
「リュクレ」「アライス」など、多くのバスチェアを制作販売している株式会社リッチェル。
今回、実際にバスチェアの企画を担当しているバスチェアのプロ、リッチェル商品企画部の荒地さんに、お風呂のソムリエ松永武が初インタビュー。
透明な4本脚のバスチェア「リュクレ」、座面穴のない「アライス」の企画・商品化の際のエピソードや、バスチェアについての熱い思いなど、お話を伺いました。
松永― 荒地さんは会社ではどのようなお仕事をされているのですか?
荒地さん:
入社8年目で、企画・開発を担当しています。
0からものを作るというか、何もないところからテーマをあたえられて、そのテーマに合わせて、何を作るか考えるという仕事です。
― 商品を企画するときは、どのようにマーケティングなどをされているのでしょうか?
荒地さん:
営業の声を聞いたり、リッチェルweb会員の方にモニターやwebアンケートをお願いしたりして実際の消費者の声を聞くことを大切にしています。モニターの方々には、グループインタビューという小さな座談会に出席していただき、そこで不満点を回収したりしています。
最近は、消費者行動調査といった、新たな調査も始めました。
お客様のご自宅に訪問させていただいて、実際に…バス用品は難しいのですが、実際に使用しているところを見させてもらって、「この行動無駄では?」とか「なぜこれをここに置いているんだろう」とか「なぜこんな使い方しているんだろう」という本人が気づいていない潜在的なニーズを調査し、そこから開発のヒントを得ています。
― 個人宅にお伺いするのはすごいですね。でもやはりバスグッズとなると、使っているところを見せるのは難しいですよね(笑)
荒地さん:
そうですね(笑)やっぱり洗面台、洗面所までですね。
― 僕も銭湯とか、温浴施設に行くとそういう目線で見てしまいます。
そこではどんなものを置いているのか、とか、お客さんが桶をどのように使っているのか、どんな使い方をされているのか、つい目が行ってしまいますね。いろんな方がいるので結構面白いですんよ。
― ではバスチェア全般についてお伺いします。
まず、御社のバスチェアは高さが三段階ありますが、その高さはどういう理由で決めているのでしょうか?
荒地さん:
独自の調査結果ですが、湯桶を置くカウンターの高さより−5cmというのが、座りやすく、湯桶も使いやすいサイズとしております。
最近はバスカウンターのあるバスルームが増えたこともあり、どのサイズが一番使いやすいのかを調べようと、ショールームに色々なサイズのバスチェアを持って行って調査しました。結果-5cmがいちばん座りやすくて、カウンターの上の桶も使いやすいとなったので、私たちはバスカウンターから-5cmの高さを選んでくださいという、提案をしております。
― それは新しい提案ですよね。すごくわかりやすい基準で、なるほどな、と思いました。
荒地さん:
ありがとうございます。
― でも最近、若い子と話をしていて思うんですが、「立って洗っているからバスチェアは使わない」とよく言われて、バスチェアを使わないシャワー派が最近本当に増えているなーって感じるのですが、荒地さんはどのように考えていますか?
バスチェアを使う良さをどう伝えていけばいいかなど、あったら教えてください。
荒地さん:
私自身シャワー派なので‥‥
― え、そうなんですね?!
荒地さん:
シャワー派なんですけど、バスチェアは毎日使っています(笑)
私は週何回かだけでもゆっくりお風呂に入ろうとは決めているのですが、その時にゆっくりイスに座ってボディケアをしたりするので、バスチェアは絶対必要だろうなって思っています。
― そうですよね、細かく足の爪や指とか、そういったところをケアしようと思ったら必要ですよね。
荒地さん:
だから逆に、バスチェアを使っていない方は、そういう時どうされているのかなって気になります。でも使わないのが普通なら、不便さにも気づかないと思いますので「使ったらこんないいことがあるよ」というのを伝えていかなければ、今後ますますイス離れに繋がっていくのかなと思っています。
― では、荒地さんも最近のバスチェア離れの波を感じているのですね。
荒地さん:
はい。やはりバスチェアを使用しない方が結構増えてきているな、というのは実感しています。
― 立ってシャワーを浴びる人って、その方が全身にシャワーが浴びられるとか、僕はそういう単純な理由なんじゃないかなと思っていて。だからそれ以上に、座ってシャワーを浴びた方が泡などが飛び散らない分掃除が楽だよとか、体の細かいケアもできるよとか、そういう色々な角度からバスチェアの必要性をもっともっと発信しなくてはならないですね。
― バスチェアを洗う頻度ってどれくらいですか?
荒地さん:
私自身はお風呂掃除と一緒に洗うので毎日洗います。ですが、アンケートを取ってみると、バスチェアを洗うのは月一回という方が多かったですね。
― やはりそうですか。月一回とか、あまり頻繁に洗わない方は結構多いんですよね。たまに「ほとんど洗わない」という意見も聞きますので、頻繁にではなくてもまずは洗いましょう、と僕は言いたい!
荒地さん:
そうですね。メーカーとしても少しでも洗いやすいものを作ろうとしているのですが、まだそこまで訴え切れていないです。
― それでは、荒地さんが実際に手掛けられた「リュクレ」「アライス」についてお伺いしたいと思います。こちらはどのようなテーマで作られたのですか?
荒地さん:
この時はざっくりと「浴用品」というテーマでした。浴用品なら何を作ってもいいよという形で。
― そんなにザックリなんですか? 意外です。では、バスチェアを企画された際に、大変だったことはありますか?
荒地さん:
リュクレは座り心地、アライスは洗いやすさを1番の特長とした商品にしようと考えました。
しかし、製造の部分とかデザインの部分とかに関しては、私の専門外のところもあって、わかっていない部分があり、何度も設計やデザインなどやり直したり、変えてもらったりと、結構時間がかかりました。普段1テーマにこなす時間が1か月だとすると、倍以上かかりましたね。
― ・リュクレについてお伺いします。特にこだわった部分はどこでしょうか?
荒地さん:
リュクレはこの座面の大きさにこだわりを持たせました。
バスタイムに時間を費やしたり、バスルームに置くものにこだわりのある方に購入していただきたい考え、それならばバスルームでゆっくり過ごしてもらうために、座面を広くして、お尻のカタチに合うようにフィットするよう、かなりこだわりました。
ぜひ1度座ってみてください。座り心地の良さが分かってもらえると思います。
左のアライスに比べても、リュクレの座面の広さがわかります。
荒地さん:
また、実は今まで他社も含め「透明の4本脚のバスチェア」は存在していませんでした。
透明のバスチェアは基本的にコの字だけでした。透明にするにはPET樹脂を使うのですが、樹脂の性質上流動性が悪く、技術的に作るのが難しくて、市場になかったんです。
でもプラスチックの4本脚があるのだから、透明のものでも4本脚が出来るんじゃないかと思って始めたがこのリュクレです。
― 今までなかったということは、「透明の4本脚バスチェア」を技術的に実現させるのは、かなり大変だったのではないですか?
荒地さん:
はい。さらにこのリュクレにはリブ(裏側の突起)をなくしたいということもあって。リブはスタッキング(重ねる)する時に必要なものなんですが、強度を保つためにも必要と考えられているので、そこのバランスが大変でしたね。
― ここね、結構ここに黒カビとか、ヌメリがたまったりとかしちゃいますもんね。
荒地さん:
以前、カラリという商品を購入されたお客様に購入理由を聞きましたところ、裏返しにして「(他の商品だと)この部分が洗いにくいじゃない。これはそれがないから良い」とリブがなくて洗いやすいところを評価いただいて。意外と消費者の方もここが洗いにくいということを知っているんだなと思いました。なので、なくしてよかったなと。
― アライスはどうでしょう? どんなところにこだわりがあるのですか?
荒地さん:
アライスは、バスチェアを洗う時に何が一番面倒かなと考え、穴だったり裏のリブだったり、汚れがつきやすいところだと思い、じゃぁもう一筆書きのように洗えるものを作ったらどうかなと。リブと座面穴を無くし、「お手入れがしやすい」というところにこだわった商品になりました。
でもこちらはリブをなくし、さらには座面穴もなくそうとしていたので、そうなると耐久性がどうしても難しくなってくるので、すごく社内から反対されてしまって…。
― ということは、それを押し切っちゃったんですか?
荒地さん:
そうなんです(笑)。
技術者さんには「へこへこになるよ」「歪むよ」って散々言われたんですけど、それを実現するためにと、設計者・技術者さんと何度も話し合いました。最終的には「じゃあ、これだけの厚みならいけるよ」とか言っていただけて。
― そういえば脚が太めですもんね。この太さは強度を保つための構造的なものなんですね。
荒地さん:
でもあまりにも太くしたり厚くしすぎてしまうと、その分コストにも関わってくるので、コストも抑えつつ、あまり重くなく厚みのないもので…ということで、ギリギリのラインで作ってもらいました。
また、アライスは座面穴がないのですが、座面の穴って水抜きの役割もしているので、あえて後ろに水が抜けるようにデザインしました。
― こういうところもこだわりのひとつですよね。座面も広くしっかりと背もたれが当たるようになっていて、安定感がありますよ。
荒地さん:
前、後ろがわからないって声もあり、背もたれをつけてあげることで前後がわかりやすく、そしてよりお尻がフィットするようにしました。
― 座り心地にもこだわっているんですね。
― あと湯桶手桶についてですが、このサイズ感って、どうやって決めているのですか?
荒地さん:
桶はだいだい3Lほど入るサイズになっていると思うんですが、特に基準はありません。
ただ、こちらは湯桶・手桶を1つずつ重ねて吊り下げられるとか、裏っ返しにしても、すき間が開くので通気性がいいという部分にこだわりがあります。
― 水が切れやすいということですね。
荒地さん:
はい。桶に関しては「引っ掛けられる」というのが、一番の特徴ですね。
― 「吊るす収納」「空中収納」というのは、大きなキーワードですもんね。今はもう全てにおいて空中収納が増えているので。なんならイスもね、今後空中収納が出来たらいいなって思いますが(笑)
これも空中収納と言えるかな?
― 最後に、未来のバスチェアって、考えたことありますか?夢とか想像とか、こんなバスチェアあったらいいなーっていうような。
荒地さん:
このシリーズを考える時にも「未来ってどうなるのかな」ってずっと考えていました。
でも最近は住設環境がどんどん整って来ているので、「ここ(浴槽自体)がイスにもなるよ」なんてなってしまったら、バスチェアがいらなくなってしまうんじゃないかって、ちょっと脅威を感じたり。
あとは、先ほどの吊り下げ収納の話になりますが、邪魔にならずに置いておく方法はないかと、バスチェアも壁にくっつけたらどうかなと考えてみたのですが、座面が大きなイスにしたら、逆に「これが壁にくっついていたら邪魔でしょ」みたいになって、商品化できず(笑)
でも弊社にも昔あったんですけど、折り畳みにした瞬間、売れなくなるんですよね。
― 折りたたみのイスってことですか?
荒地さん:
はい。たたむのが面倒なのか、あまりそこまでの需要はないようなので、じゃぁどうしたらあまり邪魔にならない存在になるのかなと次の開発のために考えています。
出来るだけ置いておいて邪魔にならない存在にしてあげたいなと、日々考えています。
― 存在感のない、邪魔にならないバスチェア・・・楽しみにしています。
summary
バスタイムは好きな音楽をかけて楽しんでいるという荒地さん。
ときおり側においてあるバスチェアを「この子」と言っているのが印象的で、バスチェアへの並々ならぬ愛を感じました。
思い入れが強すぎて、プライベートでも実際「リュクレ」を使っているようです。
画期的なバスチェアの開発、楽しみにしています!
バスチェアに座って最後に1枚。この笑顔がバスチェア好きを物語っています。
株式会社リッチェル
バスチェアの他にも、ベビー、ペット、園芸等のさまざまな生活分野にまつわる商品の、企画・製造・販売を行うメーカー。
暮らしと心を、もっと「豊か」に。 をモットーに、リッチェルにしかできない商品づくりで、暮らし・心・社会の豊かさを追求しています。