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 N70A ネットワークプレーヤー

 HD-DAC1 Special 、 PM7005 Applause 音質比較テスト


※ネットワークプレーヤーとPCは、AIRBOW ウェルフロートボードに乗せて試聴しました。

Pioneer(パイオニア)から発売されたUSB-DAC機能を搭載する、ネットワークプレーヤー"N70A"を前回は、USBメモリー再生とLAN接続で比較しました。今回はそれをUSB接続して、同様のUSB-DAC入力を装備する AIRBOW PM7005 Applause、USB-DAC機能を搭載するヘッドホンアンプ AIRBOW HD-DAC1 Specialの2機種と比較しました。また、前回の比較試聴では、音質より詳細に聞き比べるためアンプとスピーカーに高価なTADハイエンドシステムを使用しましたが、今回はより一般的な音質で比較するため、スピーカーに限定発売のaudiopro FS20(ピアノブラック仕上げ、上写真左、ペア14万円/税別)を選び、アンプにはAIRBOW PM7005 Applause(USB入力装備、売価17万円/税込)をチョイスしました。また、USB入力を備えるPM7005 Applauseを選んだのは、再生機器のグレードをN70Aに合わせるためだけではなく、PM7005 Applauseの内蔵DACの音質と、N70Aを外付けDACとして使った場合の音質を比較する目的があります。もし、内蔵DACの方が良ければ、音質改善のためにN70Aを購入する必要がありません。それを探ろうと考えました。さらに、N70AのUSB-DACとしての音質を純粋に探るため、音質をよく知るAIRBOW HD-DAC1 Specialを比較対象に選びました。

接続する再生用PCは、MAC Book。使用する再生ソフトには、Audirvana Plusを選びました。再生にMacを使ったのは、Windows PCに比べて音質がよいことと、接続が簡単なこと、加えてPCのプラットフォームによる音質差が小さいことなどが理由です。再生ソフトにAudirvana Plusを選んだのは、一般的に広く使われていること、接続などの操作が簡単だからです。

私もPC・ネットワークプレーヤーの試聴を始めた頃は、Macの操作を覚えるのが面倒でWindowsを使っていたのですが、最近増えてきたハイレゾやDSDファイルの再生では、音質の良さと再生の安定度(テスト時の機器切替が簡単で安全)でMacがWindowsよりも圧倒的に優れているため、最近はもっぱらMacを使っています。

ソフト面では対応のWindowsとMacですが、事音と映像に関しては、古くから「現場ではMac」が使われて来たためインターフェイス・ソフト共にMacがWindowsよりも進歩しています。逸品館の動画もMacで配信していますが、Windowsと比べ操作性、音質面でWindowsよりも優位です。PC・ネットワークオーディオをより本格的に取り組みたいとお考えなら、手元に一台Mac(Mac BookやMac AirでOK)を用意しておくと、何かと便利だと思います。

  audiopro FS20(ピアノブラック仕上げ) (お問い合わせ・ご注文はこちらから)

 AIRBOW PM7005 Applause (お問い合わせ・ご注文はこちらから)

 Mac Book PRO(core2 DUO 搭載HDDモデル) OS:MAC-OS X(Yosemite) 再生ソフト:Audirvana Plus

各USB-DACとMac Bookは"AIRBOW ウェルフロートボード"(上写真右)に設置し、接続には、電源ケーブル:"AIRBOW KDK-OFC"(下写真左)、USBケーブル:"Wireworld Violet USB2.0"(下写真右)を使いました。

 

試聴ソフト

CDリップWAV(44.1kHz/16bit)に加え、ハイレゾ(88.2kHz/24bit)とDSD(2.8MHz)を試聴

今回の試聴には、いつも使う5曲に、E.ONKYOサイトから発売されている「What a Wonderful World / Mathias Landaeus Trio / MA Recording」のDSD2.8MHz、WAV 88.2kHz/24bitの2曲(2ファイル)を加えた7曲を聞きました。

Della
「せせらぎ」

Decca
「Your Best Tunes」

Grace Mahya
「Last Live at DUG」

noon
「500 Miles」

DENON
「新世界」

システムのメンテナンスにも使える、川の流れる音を収録した自然音のソフトです。スピーカーの音の自然さ(癖の無さ)、音の細やかさ、広がり感などを判断できます。

どこかで聞いたことがある。そんなクラシックを集めたソフトです。2枚目1曲目の弦楽セレナードを聴きました。似たような音(バイオリン、チェロ、コントラバス)が重なったときの分離感を判断できます。

試聴によく使います。録音が最高!もちろん演奏も素晴らしいです。
聞き慣れた楽器の音(ギター)女性ボーカル、それぞれの音の深みやニュアンス、デュオのマッチングなどを判断できます。

音質と演奏に優れる楽曲が集められたダイジェスト盤です。"500Miles/noon"を聞きました。
コンプレッサー(帯域圧縮)がかけられたソフトの再現製を判断できます。

ワンポイントステレオマイクで録音された、良質なソフトです。納得の音質、納得の演奏。第2楽章を聞きました。
あらゆる種類の楽器の音、小音量から大音量への変化など、様々な項目を判断できます。

Mathias Landaeus Trio
「What a Wonderful World」

88.2kHz/24bit

比較的シンプルなマイク構成で高音質に録音されたJAZZトリオ。MA Recordingの録音。

DSD 2.8MHz

比較的シンプルなマイク構成で高音質に録音されたJAZZトリオ。MA Recordingの録音。

音質テスト

AIRBOW (エアボウ) PM7005 Applause メーカー希望小売価格  \162,037(税別) お問い合わせはこちら

 

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せせらぎ

ハイエンド高級システム(TAD C2000、M2500、E1)と比べるとさすがに水の量は少なくなるが、無理のない自然な音で質感も非常に高く、かなりリアルにせせらぎが鳴る。立体感(音の広がり)にも優れ、飽きることなく、疲れることなく、聞き続けていられる音質だ。

弦楽セレナード

冒頭の弦の低音の厚みや圧力感(密度の高さ)は、合計30万円のシステムとは思えないしっかりした音で表現される。低音も驚くほど良く出るし、各弦楽器の分離感も上々、この演奏の主題である弦楽器の切ない音色もちゃんと再現される。それと知らずに聞いていると、もっと高価なシステムがなっているように感じられる音質だ。

モナリザ

ギターの余韻が透明で美しい。ギターの胴鳴りもちゃんと出る。ボーカルは艶やかで表情も豊か。高級システムと比較すると、力強さ(音の密度感)に若干欠ける印象があるが、それを除くと驚くほど「高級」な音が出ている。イベントなどで下手に鳴らされている100万円オーバーのシステムは、まず太刀打ちできないであろう良好な音質で、モナリザが鳴った。

500 Miles

さすがにピアノの音の密度は少し低いが、ピアニストのタッチは右手左手とも正確な強さで再現される。この価格、このサイズのシステムで、ピアノの左手がきちんと再現されるのは嬉しい長所だ。しかも、その低音は膨らまないから、ボーカルがぼやけずセンターにキチンと定位し、実在感も高い。

明るく優しい音で、ハイセンス(色々な要素がきちんとバランスされた音)に500 Milesが鳴った。

新世界

audiopro FS20とAIRBOW PM7005 Applauseの組み合わせは、音色に癖がなく音の変化がとても自然に出る。それぞれの楽器の「質感」こそ、高級システムには叶わないのだが、各々の特長が生演奏と変わらないバランスで再現される。シンフォニーの醍醐味をきちんと引き出している。

What a Wonderful World (88.2kHz/24bit)

低音がしっかりしているので、ウッドベース、ドラムなどリズムラインがしっかりと躍動する。さらに手前にピアノ、後にドラム、サイドにベースという「楽器の位置関係」が明確かつ適正なスケール感で再現されるから、鳴っている音の実在感が驚くほど高い。まるで目の前の演奏を聴いているようだ。

音調は明るく、演奏は楽しく弾み、しかも上手に聞こえる。ステージの奥行き感も十分。この曲に関しては、TADハイエンドシステムで聞いているよりも、この安価なシステムで聞いている方が楽しめた。

What a Wonderful World (DSD/2.8MHz)

PCMハイレゾと音の違いはわからないが、演奏はハイレゾよりも少し優しく流麗で、プロっぽい感じになったように聞こえる。

総合評価

FS20は表面の仕上げが塩ビシートから塗りに変わったことで、普段聞いている木目仕上げよりも、音の細やかさと艶やかさ滑らかさがアップしているようだ。

marantzお得意のHDAM回路を搭載するPM7005のカスタムモデル、PM7005 Applauseは、総数100を超えるパーツの交換でその良さが十分に引き出され、高級プリメインアンプのようなシルキータッチを持っている。同じ方向の音質に仕上げられている、audiopro FS20(ピアノブラック仕上げ)とAIRBOW PM7005 Applauseの相性は驚くほど良く、セット合計30万円とは思えない「質感の高さ(きめ細やかさや濁りの少なさ)」と「しっかりした低音の再現性」で音楽を存分に楽しませてくれる。

またそれが再生する音には、癖がほとんどなく、楽器の個性や奏者のタッチ、音の広がりが素直に再生音に反映されるから、オーディオセットで音楽を聞いているという違和感や閉塞感がほとんど感じられない。

もちろん絶対的な音質では、高級システムよりも劣るのだが、逆にソフトによっては(今回は、What a Wonderful World)それが「適度なソフトフォーカス感」を演出し、高級システムよりも「録音を選ばず、音楽が楽しく聞ける」能力を発揮する。

オーディオは「絶対音質」ではなく、「トータルバランス(相対音質)」がより重要だと感じる納得の音が出た。家庭用のオーディオセットとしては、最適な組み合わせだ。

Pioneer (パイオニア) N70A メーカー希望小売価格  \142,000(税別) お問い合わせはこちら

 

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せせらぎ

高域が少し強くなり、音の輪郭がクッキリして音にメリハリが出た。水の粒子も細やかになった。鳥の声は、ごく僅かに電子的になった。

弦楽セレナード

演奏の抑揚と、楽器の音色の変化量が、ごく僅かに減少したように感じられ、演奏がほんの少しあっさりしたように感じられる。

Pioneerは薄口、AIRBOWは濃い口の音作りなので、PM7005 Applause USBダイレクト入力に比べ、色彩が薄くなると予想していたが、良い意味で色彩感にはそれほど大きな差が感じらず、音が細かくなった分、演奏がより精緻に再現されるようになった。

モナリザ

ギター音が少し「辛く」なったが、楽器やタッチの細かいディティールは良く出るようになった。

ボーカルとギターの分離感、空間の透明度が向上し、このソフトでは、明かな「音質の良化」が感じられた。

500 Miles

N70AをTADシステムに繋いで聞いた場合よりも、audiopro FS20 Piano Black + AIRBOW PM7005 Applauseに繋いだときの方が、総合的な印象がよい。

NA70Aが細やかだけれど少し薄口なところをAIRBOWの濃さがうまくカバーして、絶妙なマッチングを醸し出し、双方の良さが出ているようだ。

新世界

N70Aを追加すると音が細かくなり、S/N感も改善した。これまでは聞き取れなかった、弱音部の変化が再現され、演奏のデリケートさが際立ってくる。

AIRBOW PM7005 Applauseで聞いているときは、明るくややポップな新世界に聞こえたが、N70Aを追加すると音に落ち着きが出て、この演奏が本来持っている「味(雰囲気)」に近づいた。NA70AとPM7005 Applauseは、とても良いマッチングだ。

What a Wonderful World (88.2kHz/24bit)

音の立ち上がりが早くなり、ピアノのタッチが際立つようになる。ステージに奥行きが出て、音の繋がり感(スムースな感じ)も向上した。楽器の位置関係も非常に良好で、生演奏を聴いている感覚に近い。

N70A+TADで聞くこの曲は、かなり「雑」で「下手」に感じられたが、N70A+PM7005 Applause+FS20で聞くと、その印象ががらりと変わり、演奏がスッと心に入るようになる。N70A+TADとは別人の演奏のように「丁寧」で「上手」に感じられる。ミスタッチと感じられたピアノの2度打ちが、演奏のテクニックに聞こえるから不思議だ。

What a Wonderful World (DSD/2.8MHz)

PCMハイレゾよりも少し音が明るく、リズムが弾む。しかし、音の差は非常に小さく、傾向の違いもない。逆に、PCMとDSDの音の差の小ささに驚いた。

総合評価

当初、AIRBOW PM7005 ApplauseにPioneer N70Aを追加すると「音は細かくなっても、色彩感や躍動感が殺がれてしまう」のではないかと懸念していた。しかし、実際に聴いてみると両者の相性は抜群で、それは取り越し苦労に終わった。

N70Aは音が細かいが、色彩感がやや薄く低音も若干薄い。AIRBOWは、色彩感が濃く、中低音が分厚い。この組み合わせは予想を覆して「マイナスとマイナス」の関係にはならず、「プラスとプラス」の関係になった。しかし、プリメインアンプがPioneer A70だったら結果はこうは上手く行っただろうか?もしかすると、それぞれの特長と共に弱点も倍加され、薄くて細く躍動しない音になっていたかも知れない。

今回の組合せでは、音質も改善したし、何よりもN70Aを追加する事による「機能性の向上(接続できる対応機器)」の改善はめざましい。機能改善効果だけでも、10万円強の追加コストは納得できるだろう。インターネットラジオが聴けるのも楽しい。

AIRBOW (エアボウ) HD-DAC1 Special メーカー希望小売価格  \166,666(税別) お問い合わせはこちら

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せせらぎ

N70Aに比べてHD-DAC1 Specialで聞く「せせらぎ」は、水の動きが大きく、その動きもしなやかに感じられる。

遠くの鳥の声がハッキリ聞き取れ、空間も大きい。音質、情報量(音の細やかさ、密度感など)がN70Aよりも向上しているのが聞き取れる。

弦楽セレナード

PM7005 Applause にMac Bookを直接繋いだ時の音色に近いが、HD-DAC1Specialの追加で音の数が増えて、エネルギー感も俄然大きくなる。

PM7005 Applauseが小川のせせらぎなら、N70Aの追加でそれが清流になり、HD-DAC1 Specialの追加ではそれが大きな流れになった。

いわゆる「蛇口全開」というのは、こういう雰囲気を言うのだろう。

モナリザ

N70Aの持ち味である「細やかさ」に「色彩の濃さ」が加わり、ギターの余韻が甘く美しく聞こえる。ボーカルのグレース・マーヤさんがチャーミングになった。少々大げさに表現するなら、N70A:モノクロ、HD-DAC1 Special:フルカラーのような違いを感じる。

500 Miles

ピアノの響きに色彩が出る。PM7005 Applauseでもまったく不足を感じなかった、低音はさらに良く出る。ボーカルの表現力も向上し、丁寧かつ上手に聞こえる。N70Aでは音のまとまりが良くなって、じっくり聞いていたい感じが出た。HD-DAC1 Specialでは音の動き(変化)が大きくなって、一緒に歌いたい感じになった。両者には、明らかな音作りの違いが感じとれる。

新世界

N70Aで聞く新世界は、細やかでデリケート。中性的な雰囲気を持っていた。HD-DAC1 Specialで聞く新世界は、動きが大きく(演奏が大きく躍動する)、力強く、男性的な雰囲気が醸し出される。

PM7005 Applause内蔵DACと音色は非常によく似ているが、音の角が立ってエネルギー感が向上し、質感がさらに高められる。特に録音に優れるこのソフトでは、音の細やかさ、細部のディティールの再現製の確かさでHD-DAC1 SpecialがN70Aを超えていることが確認できる。

高級システムに匹敵すると言っても過言ではない、素晴らしくリアルな音で新世界が鳴った。

What a Wonderful World (88.2kHz/24bit)

HD-DAC1 Specialで聞くハイレゾ音源は、CDリップ音源に比べてS/Nに優れ、音の数が多い。さらに中低音の厚みとエネルギー感に優れ、ドラムの皮に張りが出て、リズムセクションが大きく躍動する。ピアノの音にグランドピアノらしい重厚感が出て、音色の変化も大きくなるから、「コロコロ」と転がり弾むような動きがそこから感じられるようになった。安いシステムにもかかわらず、TAD システムよりも演奏が遙かに上手に聞こえるから不思議だ。

What a Wonderful World (DSD/2.8MHz)

marantz系のDACは、搭載するDACチップの動作だと思われるが、ハイレゾからDSDにすると音が少し小さくなる。ボリュームを操作すればよいのだが、アナログボリュームだとボリュームを操作すると音量を元に戻せないので、それができない。音が小さくなると、音が弱く、細かい音も聞き取りにくくなるので、どうしても音が「悪く」感じられる。そのため、正しい評価がやりにくい。けれど、たぶん音はそれほど変わっていないはずだ。

総合評価

HD-DAC1 Specialの追加は、PM7005 Applauseに「著しい音質の改善」をもたらしてくれた。機能的な向上はほとんどないが、ヘッドホンでオーディオを聞く機会もあるのならば、HD-DAC1 Specialの追加効果はさらに高くなるだろう。18万円は高価だが、その価値はある。

試聴後感想

最近声高にハイレゾ・DSDの「高音質」が謳われています。けれど、実際に自分自身で録音テストを行ってみれば、DSDの良さを出すためには、レコーディングそのものからDSDで行う必要があることがわかります。けれど販売されているDSDは、録音のほぼ100%がPCM(ハイレゾ)で行われてから、編集完了後にPCMをDSDに変換されて売られています。これは、DSDというフォーマットが編集に対応していないので、ミキシングに支障をきたすからですが、今後も編集できないDSDダイレクト録音ソースが主流になることはありません。

DSDについて、もうすこし詳しく説明しましょう。

DSDという方法は、アナログ録音に変わる、最も音が近い方法として開発されました。しかし、前述したように編集ができない(やりにくい)という重大な問題があったために、デジタルフォーマットの主流にはなり得ませんでした。現在疲れているデジタルのフォーマットは、編集が簡便に行えるPCMですが、その音質がDSDにくらべて劣る訳ではありません。あえて違いを挙げるならば、DSDが持っている「アナログのような滑らかさ」がPCMには欠けていますが、逆にPCMには、DSDに欠けている「メリハリの強さ」があります。だから、現在主流となっている音楽のPOPS、JAZZ、ROCKには、PCMが向いていると言えます。

DSDが得意とするのは、弱音部の表現が繊細なClassicです。また、バラード系ボーカルのようなスローな音楽にも向いています。DSDが生きてくるのは「アナログマスタ−」音源をデジタル化するときです。これは、DSDの音がアナログに近いことが大きく影響しています。アナログソース+DSDダイレクトリマスタリングのソフトであれば、DSDの良さが発揮されるでしょう。しかし、アナログマスター音源を再生する時の「機器(再生オーディオ機器)」に高音質なものが使われていなければ、それがネックとなってDSDでも良好な音質は期待できません。さらに、録音時の「ノイズ」を消すために、ノイズゲートなどのデジタル処理が下手に行なわれていた場合、DSDリマスタリングソフトでもCDより音が悪い場合がありますから、注意が必要です。

結果として、再生品質のほとんどは「収録するデジタルフォーマットの種類」ではなく、リマスタリング機材の音質やレコーディングエンジニアの腕にかかっています。完全なものがほとんどない市販のソフトを聞いて、それがDSDかPCMかを言い当てるのは、たぶん不可能でしょう。「出来上がったソフト」という結果から見れば、両者の違いはそれほど大きくないのです。

次に、CDとハイレゾ、DSDの音質の違いについて説明します。

先ほど「入れ物となるデジタルフォーマット」よりも「それに入れる音」が重要だと説明しました。仮にデジタルフォーマットを「お皿」だとすると、収録する音は「それに載せる食材」です。お皿がいくら立派でも、食材がしょぼいと、料理は美味しくいただけません。まず、それを頭に置いてください。また、「お皿」については、各メーカーや雑誌、評論家などが耳が、説明を繰り返していますから、ここでは詳しい説明を省きます。

では肝心な「食材」についてはどうでしょうか?ほとんどの配信サイトが、それについての情報を提供していません。私が求めたいのは「どんなマイク」と「どんな録音-編集機材」を使っていたか、そして「録音時のフォーマット」が重要です。

録音時に求められる「周波数特性」ですが、「パワードスピーカー Tannoy Reveal 402 音質比較」で」詳しく書いたように、良い音を録音しようとするときに使えるマイクの周波数特性の上限は20kHzを大きく超えることがありません。PCMでサンプリング周波数を変えて実際に試してみるとよくわかりますが、44.1kHzと48kHzの違いは、数字以上に大きく、聴感上では「1オクターブ」程度高域に差があるように聞こえます。48kHzと96kHzの違いはそれよりもずっと少なく、無視できる程度でしかありません。96kHzと192kHzでは、機材によっては96kHzが明らかに良い音で聞こえます。

次に量子化ビット数を変えて試すと、16bitと20bitの違いはかなり大きく、20bitと24bitでもやはり少し違います。32bitは試したことがないので分かりませんが、20bitでも音質的には十分です。32bitだと編集時のデーター量が大きくなって不便ですから、中を取って24bitが妥当な選択です。実際に多くのレコーディングエンジニアは経験上、もっぱらPCM 48kHz/24bi、もしくは96kHz/24bitを使っています。NHKはトラック数を確保するため、交響曲の収録では、48kHz/24bitを使い、そのソースをブルーレイにするときには、それをレコーディングコンソールで96kHz/24bitにアップサンプリングしています。

これが、録音の現実です。つまり「最高の食材」は、「96kHz/24bit」の「お皿」に乗るだけの量でしかないのです。

つまり、現在販売されている「ハイレゾ」ソースの中で「デジタル録音されたもの」に使われる食材は96kHz/24bit以上の「お皿」は不必要なのです。また、CDをそのままリマスタリングしている「ハイレゾ」には、CDのデーターをアップサンプリングしただけのものすら存在します。しかし、これでは家庭用のPCでアップサンプリング、DSD変換を行った場合と、配信されるハイレゾ音源の音質にほとんど違いが出ません。けれど大手配信サイトからこのような「インチキ音源」が、堂々と「リマスタリング」と称されて、高額に売られています。

アップサンプリングで作られたハイレゾソフトは「波形分析ソフト」でエネルギー分布を見れば、20kHz以上に「倍音構造を持たない」ことですぐに「それ」と判別可能です。いくつか調べてみましたが、想像通りの結果にがっかりしました。私から見れば、これは詐欺、もしくは詐称で、道義上やってはならないことです。皆様も疑問があれば、市販の(あるいはフリーの)波形分析ソフトでお手持ちのデーターを調べれば、結果は判別できるでしょう。

しかし、反論もあるでしょう。ハイレゾの96kHzと192kHzでは「明らかに後者の音が良い」、あるいはDSDは「2.8→5.6→11.2」と「周波数を上げればどんどん音が良くなる」という現実です。しかし、果たしてそれは「フォーマット」という「お皿」が良くなったからでしょうか?DAコンバーターに搭載されているDACチップは、入力されたデジタルデーターをそのままアナログに変換していません。それは、トランジスターを高速で動かしてDA変換を行った場合、速度が速くなりすぎたり、変換回数(スイッチング回数)が多くなりすぎると、トランジスターの速度が追いつかず、歪みが大きくなるからです。これを解決する方法として、DACチップには「デジタルフィルター」という「論理回路」が搭載されています。入力されたデジタルデーターは、まずDACチップの「論理回路」に入ります。そして、「搭載するトランジスタ−(DA変換回路)」に最適な「動作パターン」に変換されているのです。入力されるデジタルデーターが変われば、当然論理回路の動きも変わります。結果として、変換後出力される音も変わります。音が変わるのは、フォーマットが上位になったからではなく、単純にDACの動作原理が変わったからかも知れません。現実にEsotericは、この論理回路の設定の一部をユーザーに開放し、それを「音作り」として生かしています。逆にTADはその動作ポイントを88.2kHz/24bitに固定することで、音の変化を抑制する方法を選んでいます。

オーディオ業界は「高価なものをより珍重する」というユーザー意識(ユーザー需要)を利用して、中身のない(良いパーツ屋新技術が使われていても、音が良くない)機器や中身のないソフト(先に説明したようなフォーマット/入れ物だけが大きくて、中身/音が入っていないソフト)を平気で販売してきました。もしかすると、作る方(レコーディングエンジニア)も売っている方(レーベル)も「音の善し悪し」がわからないのかも知れません。最近では「おまけ」でCDを売っている有様です。もちろん、既存の業者を食わせて行くための苦肉の策なのでしょうが、とにかく、うたい文句ばかりで中身の伴わない「偽物」の多さには閉口します。そして、良くない物を「良い」と断言する、メディアや評論家にもうんざりです。けれど、消費者は賢く、その結果「高音質オーディオ市場」は衰退の一歩をたどって来ました。今時「音が良い」と言っても、多くの消費者は財布の紐を緩めないのが現実です。

けれど、本物の「良い音」は、代価を支払って手に入れる価値があります。良い音と、良い音楽が、日常をより良く変えてくれる力を持つことを考えれば、それらには価格以上の価値があるはずです。

くどいようですが、再現性がないから、絶対的な指標がないから、消費者を欺けるというのは、間違っています。悪い装置、悪い音を聞いたから人が「不幸になる」ことは、たぶんありません。けれど、良い装置で良い音を聞いたら、ほとんどの人は「幸せ」を感じるでしょう。人の一生を「幸せ」にする力を持っているオーディオ機器だからこそ、作り手・メディアは、その善し悪しを「知らなかった」ではいけません。オーディオ業界は総力を挙げて良い音を適価で販売する社会的な責務がある、と考えるのは決して無茶な独りよがりではないと思うのです。

話を戻します。

今回のテストでは、私の予想(先入観)が「大きく裏切られ」ました。

AIRBOW PM7005 ApplauseにN70Aを追加した場合、それぞれの長所が引き出されるのではなく、お互いの長所を削りあう結果になると予想しましたが、それは見事に覆され、見事な「Win-Win」の関係が実現しました。

また、AIRBOW HD-DAC1 Specialを追加した場合、同じ方向で音質がどれくらい改善するか、自分自身が手がけた機器だけに、容易に想像できると考えていたのですが、予想していたよりも、遙かに大きな改善が実現しました。入力機器の追加だけで「中低音の厚みの改善」と「エネルギー感」がこれほど向上するのは、想像の範囲を大きく超えています。

どれだけ情報を集めても、結局はやってみなければわからない。それがオーディオの難しさだし、逆に面白さです。一筋縄でいかないから、オーディオはこれほど奥が深く、興味が尽きないのでしょう。そしてどうせなら、費やしたコストは音質に反映させたいものです。

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2015年11月 逸品館代表 清原裕介

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