■ 南阿蘇にある九州東海大学農学部熊本市から阿蘇へ伸びる国道57号線より阿蘇大橋を曲がると、すぐに「九州東海大学阿蘇キャンパス」があります。75ヘクタールにも及ぶ敷地面積を持つこの農学部のキャンパス内は、肉牛や乳牛を飼育する畜舎、花やハーブを育てる温室、水田など、日本の農業の縮図の如く、さまざまな農業施設が点在しています。
その九州東海大学農学部の応用植物科学科には片野學氏という、全国でも珍しい「有機栽培」を専門としている教授が在籍しております。稲の有機栽培研究の第一人者として農薬と化学肥料を使用しない米の栽培への取り込みを全国に広めているという有機栽培界のパイオニア的な人物です。
■ 職員であり米農家でもある緒方孝行さん緒方孝行さんは、そんな九州東海大学農学部で働いている職員である一方で、片野學教授を師事し、近隣の仲間とともに南阿蘇村で米の有機栽培を行う米農家でもあります。
片野教授を会長とする「環境保全型農業技術研究会」において有機栽培を学びながら、これまで「喜多いきいきくらぶ」で無農薬栽培・無化学肥料栽培による高級酒米「山田錦」を作っており、一般のうるち米は長年に渡り県認定のエコファーマーとして減農薬・無化学肥料栽培である「特別栽培米」を作ってきましたが、今年度より農薬を一切使用しないのはもちろんのこと、施肥も全く行わない無農薬・無施肥の「自然栽培」によってヒノヒカリを栽培しました。■ 雑草をどう抑えるか。それが問題です一口に「自然栽培」といっても、その苦労はさまざまです。苗作りの元となる種籾にも消毒剤を使用しないためび発芽に不揃いが出たり、肥料を使用しないので苗の伸びも遅く長い育苗期間が必要になったり、中でも最も大変なのが、やはり「除草」。効果と効率化が徹底された水田用除草剤はたった一度でも撒けば田んぼの雑草が一掃される優れものですが、逆に1年でも使用を止めれば次の年には目も当てられないほどに生い茂るほど、雑草の繁殖能力は極めて高いのです。
■ 田植え後一ヶ月以内の2度の除草その雑草を薬剤なしで抑えるには、田植え後一ヶ月以内の除草が肝心です。緒方さんが所属する「喜多無農薬米生産会」では、田植えから10日後・30日後の手押し除草機を推奨しており、この「一ヶ月以内に2回除草機をかける」の実行と徹底した水深管理により大部分の雑草は抑えることができます。
しかし手押し除草機は田植え機が進行する「縦の列」には有効ですが、「横の列」には効果がなく、この横の列、いわゆる株間に生えた雑草は人間の手によって抜いていくことになりますが、これが米の有機栽培において最も重労働となる仕事です。 ■ 除草剤を使えばそりゃ楽だけど、使わないんです
緒方さんは米作りに対して非常に几帳面で真面目な正確であり、前述の片野教授いわく「仕事前や仕事後に少しでも時間があると田んぼに入って草を抜いている」と、その有機栽培家としての姿勢を絶賛されておりました。
たった一度でも薬剤を使用すれば、全く行う必要のない人力による除草作業。その「他の農家は行わない苦労」を耐え忍んで作るからこそ、安全で環境に負荷をかけない立派なお米が出来上がるのです。