稲刈り前日、今年の米の出来を観察する後藤さん。日照不足とは言うが、籾にもしっかり米が入っておりクズ米が多いということもなさそう。無農薬栽培は天候不順にも強いのかもしれない。
稲の無農薬栽培の最大の天敵であるヒエ。雑穀の一種なので食べたら実はかなり美味しい。米作りにはとにかく厄介者であるが、雑草との共存もこれからの農業には必要なのだ。
後藤朋子さんの合鴨農法の田んぼもいよいよ稲刈りです。今年の熊本地方は日照不足によりお米の収量低下が予想され、実際に後藤さんの周辺の農家のお米は収穫量がイマイチだったらしいのですが、後藤さんの稲はしっかり育っておりますね。
「うちのコシヒカリは全然倒れてないからね。今年は去年よりいい出来かも」
コシヒカリは非常に倒れやすく、特に化学肥料を入れると早い時期に倒れてしまうので光合成がきちんと出来ずに籾内にでんぷんが蓄積されにくくなり、粒が小さいお米や中身の入っていない籾が多くなって収穫量が低下してしまうのです。しかしアイガモ以外は農薬も化学肥料も有機肥料もな〜んにも入れない後藤さんの稲は稲刈り直前になってもビシッ!と直立しております。昨年の記録的猛暑では後藤さんの稲も育ち過ぎにより、さすがにやや倒伏してしまったのですが、今年は全くの倒伏なし。ですので今年のほうが出来が良さそうです。
アイガモの活躍で雑草も全く生えてないし・・・って、あれ?結構ヒエの姿がちらほらと見えるんですけど・・・?
「あの辺はね、なぜかアイガモが行かないのよ!」
後藤さんによると、アイガモは水田内を隈なく泳ぎ回るわけではないそうで、その中にはなぜか理由は分かりませんが絶対に行かない部分が出てくるそうです。
多分水田内の高低差によりそこには水がなくて泳ぎにくいとか、柵際なので野生動物に襲われやすいとか何かしらの理由があるんでしょうが、その部分にはお米などの餌を撒いておびき寄せようとしても絶対に近寄らないそうでなんです。で、そういったアイガモの行かない所は当然草が生えてくるので、後藤さんが除草機を押して草を取ることになります。合鴨農法ってアイガモに任せとけば全部OKかと思ってたんですが、結構大変なんですね。
「まぁヒエが生えててもいいのよ!除草剤使ってないんだからそりゃ少しくらい生えてくるって!」
そう、重要なのは自然との共存の中で稲を育てていくということ。「手野の名水」と呼ばれるほどの良質な水、阿蘇山が育んだ火山灰土、照りつける太陽と暑さを楽しむように泳ぎまわるアイガモたち。阿蘇の大自然によって育まれた後藤さんのお米は今年で無農薬栽培歴28年目となりました。
写真を撮ろうと近づくと一目散に走り去ってしまった。絶えずキツネやテンなどに狙われているため、音がすると野生動物が追ってこれない水田内に逃げてしまうのである。
後藤さんがアイガモを水田に入れて数週間。すっかり大きくなったアイガモたちは四六時中餌を求めて1ヘクタールの水田内を走り回っております。
地面に生える雑草を見つけては頭を突っ込んで食べ、稲につく虫を見つけてはパクリと平らげ、おかげで草一本ない綺麗な田んぼが広がっております。最も田植えしてすぐの頃にはアイガモの成長より雑草の成長のほうが早いので、後藤さんが水田除草機で隈なく除草作業を行なってはおりますけれども。
もう数週間経つと雑草が成長した稲の影に隠れて生えてこなくなりますので、そうしますとアイガモたちはお役御免。水田から引き上げることとなります。
アイガモたちがいなくなると。後は稲刈りを待つだけ。10月頃には大きな稲穂をぶら下げた黄金色の稲が秋の風に揺れていることでしょう。
山麓から流れてくる水は県外からも水を汲みに来る人も多い「手野の名水」。新鮮な天然水を惜しげもなく育苗に使用している。
後藤朋子さんの家にお米を取りに行くと、家のすぐ横の田んぼに作ってる苗床に美しく生えそろった苗の姿がありました。
後藤さんは苗を「ポット苗」で育てております。ポット苗とは従来のマット苗とは違い、苗箱に小さな穴がいくつも開いており、そこに土と種籾を入れて育苗する方式です。ポット苗はきっちりと薄まきできるため、容易に健康な「成苗」を育てることができます。成苗植え、つまり最初から大きな苗を植えることができれば、後から入れるアイガモたちに苗を食べられることもなくなるわけです。
毎朝苗に注ぐ水は、もちろん外輪山から流れてくる湧き水。小さい時から新鮮な湧き水をどんどん飲んで、苗はゆっくりとたくましく育っていきます。
苗がある程度まで育ったら、近所の農家と共同で管理しているポット苗用の田植え機で田植えを行います。