トランス型脂肪酸、NYで全面禁止
〜それでもまだマーガリンを子供に食べさせるのか〜

悪玉脂肪酸、NYで全面禁止

2006年12月5日、ニューヨーク市は市内2万4千6百軒の飲食店のすべてに対してトランス型脂肪酸(トランス脂肪)の使用を禁止するという、全米の自治体としては初めてとなる画期的な措置を発表しました。

 これによって、今後ニューヨークのレストランやファーストフード店は、2007年の7月までにマーガリン、ショートニング、食用油、揚げ油をトランス脂肪を含まないものに切り替えてゆき、1人分の料理品のトランス脂肪含有量を0.5グラム以下にしなければなりません。その上で、2008年7月までには、イースト菌などのパン生地、ケーキ用のバターオイルを含む、すべての調整食品からトランス脂肪を排除しなければならなくなりました。

 もしも、立ち入り検査でトランス脂肪を含む調理油やマーガリンなどが見つかれば、罰金の対象になります。ニューヨークでの決定を受けて、シカゴでも同様の規制を導入することが検討されており、そうなると今後この動きはアメリカ全土に広まる可能性も期待できます。

アメリカで急増する心臓病の元凶はトランス脂肪

 ニューヨーク市保健局のトーマス・フリーデン局長は声明を発表し、「ニューヨーク市民は、有害な人工物質を知らないうちに、同意もなく食べさせられている」 「トランス脂肪は心臓病の原因になる。飲食店は、努力すれば味や値段に影響させることなく(トランス脂肪を含まない)代替品に切り替えることができるはずだ。(トランス脂肪が)なくなったとしても誰も残念に思わない。」といっています。

 トランス脂肪が心臓の血管に有害だというのは、アメリカだけでなく先進国の間ではもはや常識になっています。心臓疾患での死亡者が年間50万人を越えるアメリカのなかでも、ニューヨークは特に心臓病患者の多い都市で、市民の死因の40%が心臓病に関係するものであるともいわれています。そのため、消費者団体などによって、トランス脂肪をなくすためのキャンペーンが以前から大々的に行われていました。

 ハーバード大学公衆衛生大学院栄養学部長のウォルター・ウィレット博士は「もしニューヨーク全市民がトランス脂肪の含まれる食品を摂取しなくなれば、少なく見積もっても年間5百人は心臓病で死亡する人数を減らすことができる」と断言しています。

トランス脂肪は肥満の原因

 仮に摂取カロリーが同じであっても、トランス脂肪は他の油よりも太りやすい油であることが実験によって証明されています。

 51匹の雄のベルベットモンキーを、総カロリーの35%が脂肪というアメリカンスタイルの食餌で飼育した実験があります。半分の猿は総カロリーの8%をトランス脂肪で摂り、他の猿はオリーブオイルなどの不飽和脂肪酸で摂りました。両グループは慎重に計量した同カロリー食でしたが、6年後には、オリーブオイルのグループは体重が1.8%増加したのに比べて、トランス脂肪グループは7.2%も増加したのです。また、CTスキャンで調べてみると、トランス脂肪グループは腹部の脂肪が30%も多くなりました。この結果からも明らかなように、トランス脂肪は肥満になりやすい油であるといえます。

 アメリカ人の好むマクドナルドのフライド・ポテト(大)には、8グラムのトランス脂肪が含まれています。ケンタッキーのフライドチキンでは50グラムあたり1グラム、ダンキンドーナツだと1個に4〜7グラムもトランス脂肪が含まれているのです。こんなものを食事がわりに食べていては、肥満になるのも当たり前です。

トランス脂肪は糖尿病を招く

 ハーバード大学では、34歳から59歳までの健康な「ナース」8万4千人を14年間の長期にわたって追跡調査した研究があります。この研究で、マーガリンやショートニングのようなトランス脂肪を多く含む食品を好む人達は、糖尿病になりやすいことが発見されました。

 トランス脂肪の摂取量が最も高いグループの女性(2.9%)は、最も低いグループの女性(1.3%)よりも糖尿病の発症危険度が30%も高まることがわかったのです。しかも、総カロリー摂取量のうち2%のトランス脂肪を他の不飽和脂肪酸に置き換えることで、この危険度は40%も減少すると推測しています(平均的なアメリカ人の食生活では3%以上のトランス脂肪酸を摂っています)。

 この理由としては、トランス脂肪を摂ることによって、生体を構成する細胞膜の構造が不安定なものに変化してインスリンの抵抗性が増すため、インスリンが効き難くなると考えられます。アメリカでは多くの研究者がトランス脂肪が血液に与える悪影響を認めており、トランス脂肪が血液中の悪玉コレステロールを増やすという知識が広く一般的に普及しています。

遅れている日本の対応

 米食品医薬品局(FDA)は、2006年1月から、食品の栄養成分表示欄に総脂肪量、飽和脂肪酸量、コレステロール量に加えてトランス型脂肪酸量の表示を義務付けました。このおかげで、消費者はラベルを見て加工食品にトランス脂肪が含まれているかどうかを選別できるようになりました。

 デンマークやドイツを始めとするヨーロッパ各国でも国を挙げてトランス脂肪の削減・追放運動を進めており、トランス脂肪を含む食用油の一部が販売禁止になっている国もあります。

 日本ではトランス脂肪の危険性に対して、まったくといっていいほど注意が払われていません。アメリカのように総脂肪量、飽和脂肪酸量、コレステロール量の表示を義務化する働きすらないのです。もちろん、トランス脂肪の表示義務やマーガリンの使用制限もありません。そればかりか、学校給食で子供達に有害なマーガリンを強制的に食べさせています。

それでもまだマーガリンを子供に食べさせるのか

 日本のテレビ番組では、専門家のインタビューを交えて「トランス脂肪は過剰に摂取した場合には問題がある」というような曖昧な報道がなされていましたが、はっきりいって、これは間違いです。トランス脂肪は、安いコストで食品の日持ちを良くする以外のメリットはなく、消費者の健康にとって全く意味のない油です。

 考えてみて下さい。ニューヨークのマーガリンはダメで、日本のマーガリンがどうして安全だといえるのでしょうか。健康に害があるとはっきりわかっているものを、自分達の利益のを守るために消費者に与えておいて、量が少しだからこれは大丈夫だとどうしていいきれるのでしょうか。しかも、レストランの食事メニューはまだ自分の意思で選べますが、子供達の口にする学校給食は選ぶことができないのです。

 マーガリンのような水素添加精製油と心臓病との関連は、1969年にはもうアメリカの学会で指摘されていました。1981年には、ニューヨークタイムズ紙面にトランス脂肪の害についての記事が大きく掲載されています。

 私は20年以上も前からずっと、マーガリンやトランス脂肪の害について、少しでも多くの人に理解してもらおうと、講演や本誌などを通じて訴え続けてきました。世界の良識ある学者の間ではすでに認識されているトランス脂肪の害を、食品業界の専門家達が知らないはずがありません。わかっていながらごまかしている業界とその御用学者の欺瞞にも、事なかれ主義で無作為なままやり過ごそうとする行政や学校関係者の怠慢にも、私は常に激しい憤りを感じています。

授乳中の女性は特にトランス脂肪に注意

 母親がトランス脂肪を摂取していれば、当然それは母乳中に分泌されます。私達の細胞膜の状態は、摂取する油の質によって左右されるため、急速に発育、成長している乳児がトランス脂肪を自分の細胞膜に使うと外部からの刺激に弱くなり、アレルギーやアトピー体質になるやすくなります。

 自然界には存在しないトランス型の構造は必須脂肪酸としての機能を持たない不自然なものです。そのため、細胞膜のしっかりした構成材料にならず、細胞膜組織に多量にあると、細胞膜の構造が弱く、働きが悪くなり、有害な物質の侵入を許しやすくなります。

 脂肪は生命の潤滑剤であり、エネルギーの源となる重要な栄養素です。わずか数分の間に、人間の体のなかでは膨大な化学反応がおこっています。たとえ少しでも、体に害を与える恐れのある物質は避けたほうがいいに決まっています。

 昔にはなかった花粉症やアトピーが日本だけで急増しているのも、若者がキレやすくなって短絡的な犯罪や凶悪な事件が多発しているのも、「動物性の脂肪は体に悪く、植物性なら健康的」という漠然としたイメージを植え付けた戦後の間違った栄養教育と、学校給食で強制的にマーガリンや牛乳を食べさせ続けたことと無関係ではないと私は考えています。

自分の健康は自分で守る

 最後に、これは非常に重要なことであるにもかかわらず、日本では誰も発言していませんが、トランス脂肪はマーガリンやショートニングに含まれるだけでなく、天ぷらや豚カツを植物油で揚げた時など、植物性油のような不飽和脂肪酸を多く含む油を加熱処理した時に生成されるということを、私達は知っておく必要があります。

 仮にトランス脂肪を使っていないと表示されていても、高温の油で揚げた加工食品は油がシス型からトランス型に変質してしまっているのです。ましてや、代替品としてパーム油を使用したものなど、まったくナンセンスな代物としかいいようがありません。

 消費者の健康よりもコストと利潤を最優先する業界や御用学者達。問題が目に見えて深刻な状態にならないと動き出さない怠慢な行政。私達の健康が損なわれて病気になっても、彼等は絶対に非を認めて責任を取ることはないでしょう。食品添加物のAF2の事件や薬害エイズ、公害やアスベスト問題のときと同じ事が、またしても、このトランス脂肪問題で繰り返されようとしています。

 マーガリン、ショートニングを使用しない、加熱調理にはオリーブ油を使う、加工食品、外食、揚げ物は極力さけて、オメガ3の摂取比率を上げるために毎日亜麻仁油を摂る。トランス脂肪だけでなく、添加物まみれの食品に私達の健康が蝕まれてゆくに任せるのではなく、しっかりとした自衛策を取って、自分や大切な家族の健康は自分達の手で守るという意識を持つことが重要です。