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2010年10月17日(日)、熊本県阿蘇郡南阿蘇村にある野外劇場「アスペクタ」にて、第22回カントリーゴールドが開催された。今回は前年と打って変わり朝から快晴、気候も風も穏やかで絶好の野外イヴェント日和だった。前年はほとんど打ち上げられなかった、毎年おなじみの体験熱気球「まもるくん号」も順調に上げられ、僕も今回初めて乗ってみたが、阿蘇の壮大な景観を一望でき、実に爽やかな気分になれた。まだ乗ったことのない方は、次回以降ぜひ一度乗ってみることをお勧めする。
さて今年も正午過ぎ、オープニング・アクトとして、アマチュア・バンドのコンテスト「カントリーゴールド・アウォード」の勝者2組が登場。僕は舞台裏で取材準備をしていたので残念ながら見ることができなかったが、前年に引き続き堂々たる演奏を披露してくれたようだ。
続いて行われた開会式の後、チャーリー永谷&キャノンボールが登場。前年は3組目の出演だった彼らだが、長年慣れたこの順番がやりやすいのか、リラックスした演奏を披露してくれた。近年は他のメンバーにヴォーカルをとらせることが増え、後進の育成にも余念がないチャーリーだが、やはり可能な限りいつまでも元気な歌声を聞かせ続けてほしいものだ。
2番手はケニーズ・バンド。リーダーのKenny Awa(ヴォーカル、ギター、キーボード)は67〜83年にチャーリー永谷&キャノンボールのメンバーとして活動。その後自身のバンドを結成、現在のメンバーとは10年近く活動を共にしている。他にはKennyの奥さんでもあるYuko Nakamura(ドラムス)、Ritchie Sekine(ギター)、Taka Sato(ベース、ヴォーカル)、そして助っ人としてKaz Tanioka(フィドル)という構成で、ファミリー・バンド的色彩が強く出た、安定した演奏を聞かせてくれた。
次の登場はトニー中村&ザ・ステートサイダース。リーダーの中村(ヴォーカル、ギター)を中心に、今年で結成22年となる。メンバーは他にマッシー鴨川(ギター)、村中靖愛(スティール・ギター、ヴォーカル)、阪野克幸(フィドル)、madoka(ピアノ)、横山渉(ベース)、国際的に活躍する稲葉が98年に結成したバンドで、マンドリンに大西一由、バンジョーにランディ・コットン、フィドルに蔦川元、ベースに石平祐二という編成。曲の方は歌を2曲やった後にインストゥルメンタルを入れる、といった構成で、安定した演奏を聞かせてくれた。
ここでいよいよ来日組から、まず66年ヴァージニア州マーティンヴィル出身のクリントン・グレゴリー[Clinton Gregory]が登場。フィドル・プレイヤーとしての腕も一流の彼は、チャートがほぼ完全に大手に独占されていた90年代に、インディ・レーベル:ステップ・ワン[Step One]から"(If It Weren't For Country Music) I'd Go Crazy"[91年第26位],"Play, Ruby, Play"[92年第25位],"Who Needs It"[92年第29位]という3曲のトップ40ヒットを生み出したことで注目された。特に"Who Needs It"は、個人的には90年代のベスト・カントリー・バラードの中の1曲と思っており、本人にそのことを伝えると嬉しそうに「僕にとっても最もお気に入りの曲だよ」と言っていた(残念ながらライヴでは歌われなかったが)。95年にメジャーのポリドール[Polydor]に引き抜かれたが、その途端ヒットに恵まれなくなり、第一線から遠ざかってしまったのが惜しまれる。近年はジーン・ワトソン[Gene Watson]らのバックでフィドルを演奏していたとのこと。
ちなみにポリドール・ナッシュヴィルは、90年代のカントリー・ブームに乗じてマーキュリー[Mercury]が設立した姉妹レーベルで、当時マーキュリー所属のトビー・キース[Toby Keith]をフラッグシップ・アーティストとして転籍させてスタートしたが、マーキュリーと違い過去のカタログを持たないことからたちまち経営不振に陥り、途中で社名をA & Mナッシュヴィルに改名したりと迷走した挙句、閉鎖されたという経緯がある。所属アーティストは、マーキュリーに戻されたトビーを除き皆(後にMCAで活躍したシェリー・ライト[Chely Wright]もその一人)解雇された。やはりこの時期と前後して、アリスタ[Arista]が設立したカリア[Career]、MCAが設立したデッカ[Decca]、リバティ[Liberty] /キャピトル[Capitol]が設立したペイトリオット[Patriot]やヴァージン[Virgin]、ワーナー[Warner]が設立したアサイラム[Asylum]、ユニヴァーサル[Universal]が設立したライジング・タイド[Rising Tide]等もポリドールと同様の運命を辿っており、多くのアーティストやスタッフが時代に翻弄される結果となった。
さて話が脇に逸れたが、続いて登場したのは紅一点のジュリー・ロバーツ[Julie Roberts]。79年サウス・キャロライナ州ランカスター出身で、ナッシュヴィルのベルモント大学在学中にクラブ等で歌い始め、やがて実力が認められマーキュリーと契約。04年にアルバム"Julie Roberts"[04年第9位/ポップ第51位]でデビュー、シングルも"Break Down Here"[第18位]、"The Chance"[第47位]、"Wake Up Older"[05年第46位]がヒット。06年には第2作"Men And Mascara"[06年第4位/ポップ第25位]をリリース、日本でもライス・レコードから帯付き輸入盤の形で配給された。女優としても映画出演しており、美貌も折り紙付きという、才色兼備のシンガー・ソングライターだ。エヴァリー・ブラザーズ[Everly Brothers]やリンダ・ロンシュタット[Linda Ronstadt]がヒットさせた"When Will I Be Loved"で幕を開けたライヴでは、ステージを端から端まで動き回り、遂には客席から見てステージ右前方にせり出して設置されたTVカメラの背後(観客から見ると最も近い場所)にまで出て歌う等、サーヴィス精神も旺盛(カメラ・クルーは困惑していたが)。チャーミングな笑顔がとても印象的だった。
そしていよいよメイン・アクト、バディ・ジュエル[Buddy Jewell]の登場だ。61年アーカンソー州出身の彼は、下積みを経て93年、TVタレント・コンテスト"Star Search"に出場。過去にソーヤー・ブラウン[Sawyer Brown]らを輩出したこのコンテストで将来が開けたかと思われたが、実際に来た仕事はデモ・テープ用の歌入ればかりだったという。気分を一新し、03年にスタートしたTVタレント・コンテスト"Nashville Star"に出場。『アメリカン・アイドル[American Idol]』を模したこのリアリティ・ショウ型の番組で、今を時めくミランダ・ランバート[Miranda Lambert]らを破って見事第1回優勝者となり、大手ソニー・ミュージック[Sony Music]のレーベル:コロムビア[Columbia]から、クリント・ブラック[Clint Black]のプロデュースでアルバム"Buddy Jewell"[03年第1位/ポップ第13位]を発表、メジャー・デビューを果たした。シングルも"Help Pour Out The Rain (Lacey's Song)"[03年第3位/ポップ第29位]、"Sweet Southern Comfort"[04年第3位/ポップ第40位]、"One Step At A Time"[04年第38位]と次々ヒット。続くアルバム"Times Like These"[05年第3位/ポップ第31位]とシングル"If You Were Any Other Women" [05年第27位]が思ったほどの成績を上げられなかったため、大手レーベルからは離れる結果となってしまったが、08年には第3作"Country Enough"を発表している。話した印象でも飾ったところがなく、気さくな好漢、という言葉がぴったり。この辺りも、コンテストを勝ち抜いた要因の一つといえるのではないだろうか。
演奏はバディのバンドがクリントン、ジュリーに続けて行うという、前年のスタイルを踏襲。アーティストが次々登場するためなかなか席を外せない(お手洗い等に行けない)、外せばライヴを見逃すという状態に陥り、困った人もいたようだ。この辺りは主催者に考えてもらいたいところ。
さてライヴはまずジュリーをゲストに迎えてデュエットで"Jackson"を披露。ジョニー・キャッシュ&ジューン・カーター[Johnny Cash & June Carter/67年第2位]、ナンシー・シナトラ&リー・ヘイズルウッド[Nancy Sinatra & Lee Hazlewood/67年ポップ第14位]がヒットさせたクラシック・ナンバーだが、この二人もなかなか息の合ったデュエットを聞かせてくれた。その後も、影響を受けたウェイロン・ジェニングズ[Waylon Jennings]のメドレーをやったり、ジョージ・ハミルトン4世[George Hamilton, W]のヒットとしておなじみ"Abilene"[63年第1位/ポップ第15位]等のクラシック・ナンバーを取り混ぜつつ、自身のヒット曲、アルバム収録曲を披露。ラストは名曲の誉れ高い"Sweet Southern Comfort"で締めてくれた。その体格同様、堂々たるパフォーマンスだった。
アンコールではクリントン、ジュリー、バディの3人で"Jambalaya (On The Bayou)"、"Take Me Home, Country Roads"を歌い、大喝采を浴びていた。そしてそのまま出演者全員が登場、ハンク・ウィリアムス[Hank Williams]のゴスペル・ナンバー"I Saw The Light"でフィナーレとなった。
今回のカントリーゴールド、一言で表現すれば「悪くなかった」。内容としては前年を踏襲しており、アーティストもやや小粒ながら実力者揃い。見れば、参加すれば絶対に満足できるイヴェントであることに変わりはない。しかしながら、悪くない、という印象に留まるのが、ここ2年間のカントリーゴールドであった。これが単に来日組が減ったことによるものか、あるいはややマンネリに陥っているのか。
他にもいろいろある。スポンサーの減少、出店の縮小、そして相変わらずほとんど訪れない取材陣。特に取材に関しては、地元熊本のラジオ・パーソナリティと僕の2組のみ、という状態が、もう何年もの間続いている。これらが何を意味しているのか、主催者はもう一度よく考えてみる必要があるのではないだろうか。
いずれにせよ、これからもカントリーゴールドを全力で支えて行きたいと思う。
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