【革靴の製法の違いと特徴】


普段店頭に立っていて、お客様が靴を購入する際にその靴がどのような製法で作られた靴なのか気にして選ばれている方が少ないように感じました。
靴の製法の違いによりデザイン、履きやすさや防水性、長く履き続けられるかなどに大きな違いがあります。

製法を気にせずに靴を選んだ場合、「履き心地が悪いし痛くなった」や「雨の日に浸水してきて履けない」、「修理しながら長く履きたかったのに修理ができなかった」などということになりかねません。

そこで今回は、革靴の代表的な製法とそれぞれの特徴について解説していきます。




製法の意味するところとは


靴の製法とは靴の作り方のことなのですが、最も重要な工程であるアッパーとソールを合わせる「底付け」の方法の違いによって区別されています。

アッパーとは靴底から上側のことで、様々なデザインがあります。【こちら】のコラムにて、アッパーデザインをまとめていますのでぜひご覧ください。

ソールとは靴底のことで、直に地面に接する部分です。通気性の良いレザーソールや、滑りにくいラバーソールなどこちらも様々な種類があります。

底付けの分類


底付けの方法は、『縫い付ける方法』と『貼り付ける方法』の2つに分類されます。

「縫い付ける底付け」は糸を使ってソールの外周に沿ってアッパーを縫い付けています。濡れた時に強度が増す麻糸に、防水性を高めるための松ヤニを染み込ませて使います。この底付け方法は、ソールを丸ごと交換する修理にも適しているので、定期的なお手入れをすることで長く履くことができます。

反対に「貼り付ける底付け」は、糸を使わず底付け用の強力な糊を塗ったソールとアッパーを圧着機で貼り付けていきます。大量生産に向き、製造コストが低いことが特徴です。底をはがす際に強力な力で引っ張る必要がある為、アッパーが変形しやすく、ソールを丸ごと交換する修理にはあまりおすすめできません。


代表的な3種の製法


代表的な靴の製法は『グッドイヤーウェルテッド製法』、『マッケイ製法』、『セメンテッド製法』の3つです。
それぞれのメリット、デメリットを詳しく解説していきます。

01.グッドイヤーウェルテッド製法




靴底とアッパーを『縫い付ける製法』になります。

重厚感のある仕上がりで、“高級紳士靴の代名詞”ともいえる製法です。イギリスで発明された底付け方法で、イギリスの有名な紳士靴ブランドのほとんどはこの作り方になります。

アッパーとソールを2回に分けて縫い付ける「複式縫い」で底付けされます。

中底の端に”リブ”と呼ばれる部材を装着し、”リブ”にアッパーとウェルトを縫い付けます。(すくい縫い)その後ソールをウェルトに縫いつけます。(出し縫い)底面と靴の内面を貫通する糸がないため防水性が高いことと、アウトソールの脱着がしやすいため複数回のオールソール交換修理にも対応できることが特徴です。

中底とアウトソールの間にコルクなどを詰めることが可能で、馴染むと詰めたものが自分の足の形に沈み込んで変形するので、長時間歩いても疲れにくいというメリットがある反面、詰めたものがどのくらい沈みこむのかの予測がつきにくくサイズ選びには注意が必要です。

また、足の屈曲方向に対して直角にリブが貼られているので、履き始めはソールの返りが悪いというデメリットがあります。


【こんな方におすすめ】
■靴が馴染むまでの過程を楽しむことができ、お手入れや修理をしながら長く愛着を持って履き続けたい方。
■外回りの営業など、歩くことが多い方。

02.マッケイ製法




こちらも、靴底とアッパーを『縫い付ける製法』になります。

コバの張り出し(ソールの縁周りの張り出し部分)を少なくすることが可能で、細くスタイリッシュなシルエットに仕上げることが可能です。イタリア製の靴に多く用いられる作り方です。

アッパーとソールを1度に縫い付ける「単式縫い」で底付けされます。
シンプルな作りで比較的ソールの返りが良いので、履き始めから歩きやすいことと、軽く通気性の良い靴に仕上がるとことが特徴です。
スッキリとした仕上がりにするため底の厚みを抑えたものが多く、最終的な履き心地ではグッドイヤーウェルテッド製法に軍配が上がります。またアウトソールに出ている糸(ステッチ)が直接靴の内部に繋がっているため、雨の日には糸を通じて水が染み込んでくるというデメリットもあります。
オールソール交換修理は可能ですが、底を縫いつける際に中底にできる穴があるため2回くらいまでが限界と言われています。


【こんな方におすすめ】
■お手入れや修理をしつつ、ある程度長い期間履き続けたい方。
■履き初めから比較的快適に履きたい方。
■雨の日専用の靴をお持ちで、晴れの日にしか履かないという方。

03.セメンテッド製法




こちらは、靴底とアッパーを『貼り付ける製法』になります。

糸を使って縫い付けることはせずに、底付け用の強力な糊で圧着機を使って底付けします。大量生産に向いていて、製造コストを抑えられるため比較的安価な靴に多用されます。スニーカーに多い製法です。

デザインの汎用性が高いこと。軽く、防水性が他の製法よりは優れていることが特徴です。メリットはありますが、オールソール交換修理に適していないので、靴自体が消耗品となってしまいます。厳密にいうと不可能ではないのですが、ソール脱着の際に靴が変形する可能性があるのであまりおすすめできません。


【こんな方におすすめ】
■履き初めから比較的快適で、天候を気にすることなく履きたい方。
■靴は消耗品と割り切れる方。
■いろいろなデザインの靴をたくさん履いてみたい方。

04.見分けるポイント




大まかな見分け方にはなりますが、まずアッパーとソールの境目と靴の裏側を確認し、縫い目の有無を見ます。
縫い目がなければ『セメンテッド製法』の可能性が高いです。




次に縫い目があれば靴内部を見てみましょう。内部に縫い目があれば『マッケイ製法』、縫い目がなければ『グッドイヤーウェルテッド製法』の可能性が高いです。




(写真左) ヒドゥンチャネル仕上げ。糸が見えないので浸水の心配が少ないです。
(写真右) 糸が見えています。浸水の可能性が高く雨の日の着用は避けたいところです。

靴の裏側の縫い糸の切れを防ぐためや、防水性を高めるために縫い目を隠す「ヒドゥンチャネル仕上げ」のマッケイ製法や、フェイクのステッチを施したセメンテッド製法などもあるため、完璧に見分けるのは正直なところ難しいかもしれません。

どの製法で作られているのか、自分では判断が付かない場合はお気軽にお声がけください。

まとめ


今回は『革靴の製法』に注目して解説してきました。いかがでしたでしょうか。

製法ごとの特徴を知ることで、より自分のライフスタイルに合った靴を選ぶことができます。購入時の値段が高くても、修理可能な製法の靴であれば、長い目で見た時にコストパフォーマンスが高くなることもあります。(もちろん日常のお手入れは必須になります。)

普段お話しするお客様の中には、とても思い入れのあるグッドイヤーウェルテッド製法の靴をお手入れと修理をしながら10年、15年と大切に履かれている方もいます。そのような靴が一足でもあるのはすごく素敵ですね。

今後はデザインと共に、製法も気にしながら靴選びを楽しんでいただければ幸いです。

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