今回のテーマ、「親の満足・子の苦痛」の内容は、非常に難しく、悩み、そして獣医師にとってどの様な場面においても常に念頭に置かなければならない、
或いは、その上に立って判断しなければならないものだと思っています。それだけに一言では言い表せない十人十色の様々な御意見があるところだと思います。 今回は、その事に対して問題定義の意味でお話しさせて頂くのみにとどめさせて頂きます。

ただ、このテーマは親御さんが理解した上で、獣医師の[インフォームド・コンセント]をお聞きにならなければ、偏った治療処置になってしまうような気がします。
なぜなら、私自身においてもすべてをその時点でお話しができているのか？
或いは、本当に満足のできる未来を見つめお話しできているのか？
おそらく出来ていないのではないか、そう思い、
そしてその事を常に悩み続けているのが実状でもあるからです。
その原因とは何なのかをお話しさせて頂く事で、少しでもお分かり頂き、
そして少しでもお考え頂く時間を持ってくださればと思っています。

お考え頂くには大きく分けて以下の二つの場面があるように思います。
�，修了劼諒�えている生涯に及ぶ疾患(遺伝疾患など)或いは起きた状態
(事故や病気など)に対する対応。
�∪犬泙譴覆�らの姿を変えてしまう(去勢・卵巣摘出など)事に対する対応。

�，砲�いては様々な場面があるかとは思いますが、一般的に多くの方がお悩みになられているだろう、アレルギー疾患があげられるかと思います。 私はアレルギー疾患においては対処として大きく以下の方法があるように思います。

【対症療法】
親御さんが気になり連れてこられた症状を一時的に止める。或いは一時的に元に戻す(治す？)。


【検査療法(体質療法)】
細かい検査によりホルモン等の因果関係を調べるなど、これから
起こりうるであろう症状の軽減や原因の除去を目的とする。
（将来を見据え、未来を良転さすべく療法）


※アレルギー疾患においては、
アレルギー単独で起きる場合[単独型]と、
アレルギーやホルモンその他の原因が重なって症状として現れる場合[複合型]に大別できる様に思います。
犬や猫においては複合型が多くみられるように思われます。
(アレルギー疾患については今後お話しさせていただく機会があると思います。)

�△砲�いては避妊・去勢が最初にあげられるのではないでしょうか。
これらの処置は、皆さんが御承知の、良いと思われている事柄も含め、すべてが性ホルモンを取る事による後遺症(術後障害)の一つだと言う事を御理解いただきたいと思います。(避妊においては卵巣摘出時)

後遺症の中で、皆さんが良いと思われる事柄にしても、人にとって良いというだけであり、本人にとって良いかどうかは難しい面でもあるように思います。卵巣や精巣を取ることにより発現しにくくなる疾患があるのも事実でしょう。
が、それだけではなく当然本人にも飼い主さんにとっても苦痛となる後遺症も出る場合がある事を分かって頂くと言うことが大切な事だと思っています。 どの様な場合においても獣医師や親御さんの満足が本人の満足を満たしているかどうかを突き詰めるべきではないでしょうか。 特に�△砲弔い討呂修Δ任靴腓Δ掘⊆�り得ない、今後お付き合いしなければならない疾患についても考えなければならないことだと思っています。

一つの治療や処置がその時点で我々に満足を与えてくれるものであっても、
犬や猫にとって生涯において満足であるものかどうかを念頭においたうえで行うべきではないかと思っています。
親の満足がそのまま子の満足といえるものもあるでしょうが、苦痛になる事もあるということを、
我々獣医師や親御さんも重々理解し、慎重にならなければいけない。そう思っています。
それを少しでも避けるためには、親御さんが理解をした上で、「生ある限り看護をしてあげる」と言う事につきると思います。
もちろん獣医師は、今後その子その子の身体がどの様に変化するか、どのような後遺症が起こりうるのかを出来る限り隅々までお話しし、また親御さんは、そのことを重々理解し納得し、そしてそれらが発症した時点においてはそのことを思い出し看護してあげる事をお子さんとお約束をした上で、手術や治療処置を行うようにすることが一つの方法かもしれません。
その場その場を親御さんと獣医師が満足することは簡単な事が多いとは思いますが、言葉を持たないお子さん（犬・猫）をも満足していただくことは非常に難しい事だと思っています。


今回は短いお話しではありますが、奥の深いお話ではないかと思います。
避妊や去勢手術で来られた親御さんにおかれましては、お話をさせて頂くのに数十分という長い時間が掛かり、
親御さんも嫌気がさすことでしょう。
一般的に知られている事、良いとされている事ばかりではないという事をお話しさせて頂き、
ご理解ご納得頂き、生涯に渡る健康確保にお役立て頂ければと思っています。

今回は、詳しくお話しさせて頂く事を控えさせて頂きますが、
一つだけお話しさせて頂くとすれば、
良いと思われることは、我々人間にとって良い結果にすぎないという事ではないでしょうか。
避妊や去勢手術において、良いとされる事も全てと言って良い程、手術における後遺症の一つであるという事であり、
もちろん後遺症には本人にとって、あるいは親御さんにとっても非常に悪いものもあると言う事ではないでしょうか。

[避妊手術：卵巣摘出]
避妊や去勢手術については後にお話しさせて頂く大切な事柄だと思っています。

では、どの様に考えていけばよいのでしょうか？
私自身は自分がそれらの治療や手術をされる側(犬・猫)になって考えています。
私自身がどの様な悩みを抱える事になるのか(未来や生涯において)
受け入れられる、或いは受け入れられない後遺症がいかなるものか、自分自身に置き換えることが必要だと理解しています。
二つ返事で受け入れる病院、どの様な小さな治療処置だとしても[インフォームド・コンセント]の短い・無い病院、良いことばかりを強調する病院、 その様な病院は無いという事を信じています。


親の満足・子の満足
親の考え・子の考え
同じと思うのは親だけかもしれません。

考えてあげましょう。
自分自身と置き換えて。
考えてあげましょう。
自分に後遺症が出た時の事を。
良い事の裏には悪い事もある事を。

未来のお子さんの身体は親御さんの判断にゆだねられている事を。