「しんどそうだな!」
「何か具合が悪いのかな?」
「アッ!おかしい。」
「病院に行ってあげないと。」
--そう思って動物病院へ急いでいらっしゃる事でしょう。
親御さんにとってはそれが一番大切な事であり一番必要なことだと思います。
私たち獣医師は、その症状をより早く軽減し、そして治す事が重要だと理解しています。

ただ、以前にもお話しさせて頂きましたように、
「アッ!おかしい。」その時点でさえ、かなりの日数が経っている場合があるという事に親御さんも気付き、
そして、そのことを理解したうえで、病院に行って頂きたいと思っています。
勿論、その様な状態にならない様、或はより少なくしてあげるのが獣医師にとって最も重要で大切な事だと思っています。
そしてそれが最も必要である、という事を親御さんにもお分かり頂きたい。という思いを込めて---
(以前と重複するかと思いますが御了承ください・・)

[ホメオスタシス*]聞き慣れない言葉だと思いますが、
生体恒常性とも言われ、生命を維持するのに最も必要かつ不可欠だと言われています。
当然、我々人にも備わっているものであり(減量に大敵と言われている?)、
生体機能全般に及ぶものです。ただこの機能が、犬や猫にとって症状を表に出さない一つの大きな原因にもなっているようです。

「人にも備わっているものなら一緒だろう」と思われるかもしれませんが、
この[生体恒常性]の維持が人に比べてはるかに強く発揮されていると思われる状態がある様に私は思っています。
「発揮されるのであればそれでいいじゃないか」
・・・ところがそうでもない場合も少なくないのです。

では、一例をお話しさせて頂きます。
生体恒常性が発揮されるのは、ほとんどが目に見えない内的(ケガの様に切れていたり出血していたり、表面的に気付きやすいものではなく、
確認が難しい、或いは分からなかったりする)な場合が殆どです。
これは臓器機能全般に共通しているものではないかと思っています。

たとえば腎臓。
皆さんもご存知なように、腎臓の機能が低下すれば、
尿毒素(尿素窒素)が全身に増加し、末端においてアンモニアに変化します。
普段から少量は存在していますが、このある量を超えると多大な影響が身体全体に現れ、(尿毒症:アンモニア中毒)
一言では言えない様々な症状が出てきます。

この、「ある量」に問題があります。
猫でよく見受けられるケースで、高齢のお子さんの血液検査において、驚くべき「良くない」結果が出る場合があります。
これは、ゆっくり進行する腎機能の低下に身体が適応していく・・・
即ち、この[生体恒常性]の維持の働きにより、悪いなりの状況に身体が適合(適応)していく事が原因だと言われています。


「驚くべき結果であろうが元気で、[生体恒常性]の維持が出来ていればそれでいいのでは?」
野生ではそれでよいのでしょう。
少しでもアスリート*(コラムNo.009参照)であり、長生きする事が必要でしょう。
でも、わが子であればそうではないと思います。
もっともっと健康で不自由なく長生きして頂かなければ、我々獣医師の存在意義、必要性がなくなるように思います。
なぜなら、いくら恒常性が働いても限界があるからです。
その限界を超えた時、関を切った様に、見るに見かねる症状が出てくる事になります。

その症状が出てからでは医療に限界を感じる事が多くあります。
「もっと早くに・・・」と、ふと思う事があります。が、それは思ってはいけない事です。
なぜならそれは、誰もが分からなかった事だからです。
しかし、[生体恒常性]の維持には限界がある事をを分かって頂くことが大切だと思っています。
「じゃ、恒常性は無い方がいいじゃないか」
ある一部はそうかもしれません。が、あるものをなくすことはできませんし、生命になくてはならないのも事実だからです。
人であれば、とっくに症状や身体の不調を訴えているであろうものを、
お子さん達は、なにくわぬ顔で元気に過ごしているという[我慢くらべ一等賞!]の状態なのです。

ただ、病気に関しては我慢は最も良くない事の一つに数えられるかと思います。
猫の我慢はわからないものであり、ご飯を食べ、歳相応の元気さ?があれば、気にされないのも理解できます。
「お子さんの我慢をどうやって分かってあげる事が出来るのか。」
「どうやって少しでも[生体恒常性]の維持を必要としない状態で生活してもらえるのか。」
この疑問は、すべての目に見えない病気の進行を食い止めるのに重要な事です。
この重要な事を、どの様に見い出してあげればよいのでしょうか?
これは、獣医師にとって最も難しく悩み、そして獣医師(主治医)であるという存在的意義の多くを占めている様に思います。
(当然、獣医師にとって、循環器(心臓)・神経・口腔・歯・眼・骨・消化器・・・・それぞれの専門医、それらに突起した技術をお持ちになられておられる方々も無くてはならない存在であることも事実です。)
そして、その事を常に悩み、そして考えておられる獣医師に出会う事が最も必要に思います。
得てしてその様な獣医師は費用が掛かったり、へんくつで評判が良くない?かもしれないですが・・・・。
もちろんその事を理解していただく親御さんである事も必要かと思います。


特に、この予防医療は[獣医師の予測](ここが最も問題になる点かとは思いますが)を含んでいる場合もあります。
その為、親御さんと獣医師が人力車の両輪でなければならず、いくら生活環境やお薬で引っ張っても、 親御さんのご理解がなければ、両輪がそろわず前に進むことすら出来ない事なのです。
親御さんのご理解を得られなければ、
「元気なのにそんなこと言って、お金儲けじゃないの!ほかの獣医さんはそんなこと何にも言わないぞ!」
と思われ、その病院に行きたくなくなることになることでしょう・・・
(そんな経営的な事を考えず、信念を持ってお話しされる先生がすべてだとは思いますが。)

もちろん費用がかかる事ではありますが定期的な検査や、お家の獣医さんの観察も大変重要になってきます。
一日一日、今を精一杯生きているものにとって、数年先のことを今考える事ほど難しく、
数年先の為に今必要と思いにくい費用を負担しなければならない決断も難しいことと十分理解しています。
しかし、そのような目で診察をされている獣医師は、その時その時を診察されている獣医師より、
必ずその子の未来につながる、そして将来の事を見据えた優しい治療をされていると信じています。
また、そうでなければならないものと思っています。

今を精いっぱい生きる。
明日に向かって生きる。
とっても大事な事。
身体は日々歳をとっていきます。
未来のメッセージ
受け取るも受け取らないも我々しだいです。