Rakuten新春カンファレンス2020

「Walk Together」をテーマに、同じ悩みや目標を持つ楽天市場出店者同士の出会いを通じて、店舗運営に役立つ学びを得る「楽天新春カンファレンス2020」。身長155cm以下の小柄女性を綺麗に見せるブランドCOHINA(コヒナ)の創業者である田中絢子(たなか・あやこ)氏と、多くの企業を渡り歩きながら投資家として世界中の先端ビジネスにも精通する尾原和啓(おばら・かずひろ)氏とのセッションでは、「インスタライブ」を中心としたSNSによって構築する顧客との競争関係の重要性にフォーカス。創業直後からの急成長を支えた田中氏の実体験は、現時点の最新知見としてあらゆる人の指針となるもの。「お客様は友達であり、仲間である」という言葉は、COHINA というブランドのあり方そのものでした。

田中 絢子 氏
身長148cm。1994年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2017年11月在学時に、「小柄がゆえに着る服がない」という自身の悩みに基づきCOHINAを創業。2018年4月、Googleに新卒入社し、広告営業に従事する。2019年退社。COHINAのInstagramフォロワーは現在10万人程度。インスタライブを毎日配信し、小柄女子のコミュニティを築いている。毎月開催しているPOPUPも人気。

取材記事:「小柄女性向けブランドに、わずか4か月で「熱狂的なファン」がつく理由」

尾原 和啓 氏
京都大学大学院で人口知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ、投資を歴任。現在12職目、バリ島をベースに人事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)はKindle、有名書店一位のベストセラー。前著「ITビジネスの原理」(NHK出版)もKindle年間ランキングビジネス書7位のロングセラー。韓国語、中国語版にも翻訳されている。

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創業1年半で月商5,000万円の奇跡

尾原 :はい、こんにちは。5年前まで楽天市場の執行役員を務めておりました尾原と申します。ご無沙汰しております。「なぜ、Instagramを中心とする女性向けソーシャルコマースに関する講演に、こんなおじさんがいるのか?」と思われるかもしれませんが、私は元々、googleやNTTドコモを経て、楽天に在籍していました。日本らしい「情感」や「エモさ」*1のようなものを通じて、自分が自分らしくなっていく楽天店舗さんが大好きでした。そして5年前に楽天から離れた後、「楽天の外にも楽天っぽい人がたくさんいるな」と感じたんですね。キングコングの西野亮廣(にしの・あきひろ)さんや「ゆうこす」こと菅本裕子(すがもと・ゆうこ)さんなどがそうですね。楽天の外に出たからこそ感じられる「楽天らしさ」というものを、このカンファレンスに持ち込みたいなということで、毎年様々な方をお連れして講演を行っているんですね。今年は、個人的に「楽天っぽい商い」をされていると思ったCOHINA(コヒナ)の田中絢子(たなか・あやこ)さんをお招きしました。ここから先、僕はあまりしゃべらずに、田中さんの面白さを引き出したいと思っています。田中さん、本日はよろしくお願いします。

田中 :はい、よろしくお願いします。

尾原 :ちなみに、COHINA創業から2年ですが、田中さんにとって今日は5年ぶりの楽天なんですよね?

田中 :はい、そうなんです。私は社会人になって2〜3年目ですが、実は学生時代に楽天さんのインターンシップに参加しており、今日は5年ぶりに楽天さんに帰ってきました。

尾原 :創業2年ですか?

田中 :そうですね。COHINAが始まったのが2018年1月なので、3年目に入りました。

尾原 :月商5,000万を超えたというのは、創業何ヶ月頃のことですか?

田中 :月商5,000万を超えたのは、2019年3月から4月頃だったので、オープンから1年数ヶ月のタイミングでしたね。

尾原 :中国ではTikTokなどの興隆もあって、ソーシャルコマースやライブコマースがものすごく勢いがある中で、日本でも気になっている店舗さんも多いと思います。そこで、田中さんの事例を中心に学びたいと思います。今日はノウハウを全公開してくださるということなので、よろしくお願いします。

小柄女性のためのブランド COHINA

田中 :よろしくお願いします。まずは、COHINAというブランドの紹介をさせてください。ご存知の方も多いかもしれませんが、COHINAは「小柄女性を綺麗に見せる服」というコンセプトのもと、身長150cm前後の女性にお洋服をお届けしています。今日は、「ユーザーの心を掴むためにどんな風にSNSを運用しているか」について、お話したいと思います。まずは、自己紹介をさせていただきます。一番大事なところは「身長148cm」という点。かなり小柄です。先ほどもご紹介いただきましたが、大学卒業後、新卒でGoogleに入社し、副業という形でCOHINAを立ち上げまして、現在はフルタイムでCOHINAの仕事をしています。COHINAについては、動画を見ていただければと思います。

(ブランド紹介動画)

COHINAは、身長155cm以下の女性のためのアパレルブランドです。ベーシックなものからトレンドを取り入れたものまで幅広く扱っています。2017年11月にオープンしました。COHINAの商品のこだわりは、とにかくサイズとシルエットです。創業者の私たち2人が148cmと151cmと身長が低く、小柄であることでなかなか服を選ぶ選択肢が少ないというところに課題感を感じていたので、この問題を解決するビジネスを始めようとブランドをスタートさせました。自分自身の体験談として、「かわいいな」と思った服をインターネットで購入しようとしても、自分の身長と比べるとモデルさんが大きすぎて全然参考にならないことや、店舗に行ってマネキンが着ているかわいい服を実際に試着してみると、サイズやシルエットがあまりに合わなくて全然思い通りにならなかったことがありました。どんな服もそうですが、丈や身幅が合わないだけで自分に似合わない服がたくさんあり、悲しい思いをしたことがたくさんありました。COHINAは、お客様との距離が近いブランドです。Instagramでライブ配信を行っているのですが、そこでたくさんコメントをいただいてお客様と一緒に商品企画を行っています。例えば、服の生地の色選びやサイズの細かな修正に関する意見を、直接お客様からいただいて実際に商品に反映して作っているのが私たちの強みだと思っていて、今後はさらにお客さんとの距離を縮めて、お客様と一緒にモノ作りをしていく過程を強化していきたいと思っています。

田中 :はい、ありがとうございました。この映像をご覧いただいて、おおよそのブランドイメージはご理解いただけたかなと思います。一つお聞きしたいのですが、この会場の中で身長が155cm以下の方はどのくらいいらっしゃいますか?

尾原 :いらっしゃいますか? おお、1割弱くらいですかね。

田中 :結構いらっしゃいますね。

尾原 :そうですね。会場にお越しの方は女性が多いというのもあるかもしれませんね。

田中 :155cm以下の方には共感していただけると思うんですが、とにかく服がないんですよ。キッズ服を購入することもあるんですが、私たちの年齢になってくると、いつまでもキッズ服を着るのは恥ずかしいですよね。一見、ニッチなビジネスに見えるのですが、一部の該当者の方からは非常に支持いただけるかと思います。身長155cm以下の人というは人口構成比でも結構いらっしゃって、日本人女性の平均身長が158cmから159cmくらいなんですよ。

尾原 :COHINAのターゲット身長とは3cmくらいしか違わないんですね。

田中 :そうなんですよ。「意外と小柄な人は多いし、ニーズは強いよね」ということで始めたブランドです。ビジネルモデルとしては、巷では「D2C(Direct to Customer)」*2と呼ばれていて、自分たちで作るものを決めて製造し、お客さんにお届けするまで一貫して行っています。

尾原 :この「D2C」という言葉、最近よく聞くなぁと思う方は会場内にどのくらいいらっしゃいますか? 意外と少ないですね。そうなんですよ。なぜかというと、楽天市場の出店店舗さんからすれば当たり前のことなんですよね。でも、シリコンバレーでは「D2C」という言葉がものすごく流行っています。もうすぐ上場し、時価総額1,500億円とも言われる「Casper(キャスパー)」*3というマットレスブランドも「D2C」と言われるビジネスモデルです。

自然発生的に拡がる「#おちびの輪」

田中 :はい。私たちが特にこだわっている点としては、SNSを徹底的にやりこむことだと思います。ここは後ほど詳しくお話します。そして、「発信する」ところのみならず、「作る」ところからお客様と協働することにこだわっていて、Instagramで「今日はこんなことがあって、こんな服が欲しいと思いました」「この間、このアイテムを買ったんですが、サイズをこうして欲しいと思いました」というようなダイレクトメッセージをいただいて、商品開発に反映させるということを日常的に行っています。とにかく、お客様と一緒にやるということを重視してやっているので、結果的にその輪が広がってきています。

InstagramやTwitterといったSNSで「♯おちびの輪」というハッシュタグが使われているんですが、自分が低身長であることにアイデンティティを持っている方々が、このハッシュタグを付けて投稿してくれています。そこからユーザーさん同士がつながり、私たちは一切関知していなかったのですが、COHINAの非公式LINEグループができているということを事後報告されました。さらには、LINEが盛り上がりすぎてオフ会も開催されているそうで、東京と大阪ですでに2回ずつ開催されたそうです。また、日常的にスタッフが表に出ていることもあり、ポップアップイベントを行うと、毎日のようにスタッフに会いに来てくれる方もいます。本当に友達のような感覚でやっているんですね。そうした支えもあり、2019年3月に月商5,000万円を達成することができました。公式数字は5,000万円ですが、現在も徐々に上がって来ています。

尾原 :創業3ヶ月くらいの頃でしょうか? 一度、ライブ撮影をしている現場に伺いましたが、本当にすごく簡易的な状態でやっていましたよね?

田中 :はい(笑)。本当に狭い一室で、機材もほとんどなく、人と携帯電話1台だけで「インスタライブ」を配信していましたね。

尾原 :ですよね。シリコンバレーでは、「ガレージベンチャー」と言われるように簡素な設備から事業を始める人が多いですが、スマートフォンが1台あればお客様とつながれるこの時代で、ここまで成長できるというのがすごいですよね。

田中 :はい。本当に小さな規模から始めました。最初は2人で、現在も社員は5〜6人くらい。小さなグループでやっているんですが、小さいことからやっていくのはいいなぁと思います。

お客様 = 友達 &仲間

尾原 :急成長を支える裏側には、「お客様とどうつながっていくか」という想い・思想があると思うので、そうしたお話もしていただければと思います。

田中 :はい。では、本題である私たちのSNS運用についてお話します。私たちの基本思想として、「お客様は友達であり、仲間である」というスタンスがあります。友達関係であり続けるために、ありとあらゆるコミュニケーションを取っていて、Instagramを中心にLINEやTwitterもフル活用しています。最近はメルマガ配信も行っていて、スタッフの私服紹介が人気コンテンツになっています。また、「インスタライブ」でお客さんと商品企画も行っています。ポップアップストアもオフラインイベントとしてかなり重視していて、現在は月1回、全国のいろんなところにお洋服を届けに行っています。

このブランドを好きになってくださるロイヤルカスタマーの存在もあります。COHINAの服の単価は 1万円弱程度なのですが、年間約230万円ご購入くださるお客様もいらっしゃいます。年間100回以上購入してくださるお客様も結構いらっしゃって、3日に1回、お洋服を買ってくれていることになりますよね。すごいですよね。響く方は、それほどまでに日常生活に取り入れてくださっています。オフィシャルには公表していませんが、リピート率も50〜60%程度をキープしており、業界水準と比較したら高水準だと思います。

尾原 :それは高いですね。創業初期だと3割程度のケースが多いですからね。

田中 :はい。「クセになる」と言ってくださる方が多いですね。「ユーザーに寄り添う」ことを追求してやっていて、特に最もお客さんとコミュニケーションを取りやすいSNSとしてInstagramはメチャメチャやり込んでいます。Facebookの公式イベントで、「Instagramをフル活用した成功事例」として紹介いただいたことがあるのですが、私たちは「インスタライブ」だけではなく、Instagramの機能を全て使っています。通常投稿する「プロフィール」はもちろん、ショッピングタグをつけて投稿する「ショッピング」も利用しています。正直、ショッピングタグ経由ではあまり売れないのですが、継続的に商品に興味を持っていただくためには効果があるようです。また、「ストーリーズ」の運用もしていて、特に参加型の運用をしていくためにアンケート機能もかなり使っています。例えば、あるアイテムの商品名を決めたい時にここで多数決を取ったりしています。あとは、「ストーリーズ広告」もアパレルブランドとの相性が良いので、他の広告媒体よりはお得に顧客獲得に貢献していると思います。

尾原 :そうですよね。「ストーリーズ」の中でも特に「オーガニック(広告ではない通常のユーザ投稿)」は、最近質問形式で運用できるようにFacebookも力を入れて開発していて、どんどんコミュニティ指向になっていますよね。

田中 :はい。いろいろな企業が利用していますよね。

尾原 :楽天店舗というよりは、「ROOM(ルーム)」*4を使っている読者モデルの方々が、楽天商品を「ストーリーズ」で紹介していますよね。実はInstagramでは、フォロワーが1万人を超えると、自分の店舗でなくても公式でやっているものだったらリンクを貼れるので、「ストーリーズ」でROOMのリンクを貼って顧客を誘引してROOMでポイントを稼いでいるアフィリエイターの方も増えてきているんですね。

田中 :私もROOMのインフルエンサーのインテリアを参考にして購入してしまいますね。

尾原 :そうですよね。「信頼する人が選ぶものを買う」という時代になってきていますよね。

*1 エモさ | 「エモーショナルな状態であること」を指す省略表現。「情緒がある」「趣がある」「グッとくる」といった名状しがたい感慨を示す。この表現の起源は1990年代から2000年代の音楽シーンにあるとされるが、根本的な意味やニュアンスに大きな変化はない。平安時代の王朝文学に特徴的な、日本独自の美的感覚である無常観を反映した「もののあはれ」を現代的に表現したものであるとも言えよう。

*2 D2C(Direct to Customer) | メーカーが顧客を直接取引きする売買形態のこと。ECに加えて、SEOによってアクセスを誘導し、SNSを使って広報・販促を行い、それをきっかけに消費者が購入したり、場合によってはショールームのようなものがあり、それをきっかけにオンラインで購入するようになるパターンを指す。単なる販売としてのチャネルだけでなく、原則ほかのメディアを介さず、自分たちのストーリーやブランドのベネフィットなどの情報をできるだけ直接伝えていこうということに加えて、EC的なチャネルをミックスしている点が特徴。D2Cの進化系ともいえるDNVB(Digitally Native Vertical Brand)という概念も広がっている。

*3 Casper(キャスパー) | 2014年に創業した寝具を中心としたオンライン直販ブランド。従来のサプライチェーンを大幅に見直し、ショールームを介さない販売モデルを採用することで、低コスト・高品質のマットレス展開を可能にした。ユーザーからのフィードバックを取り入れながら商品改善サイクルを構築したことも特徴的で、「D2C」モデルの成功例と言われる。米・ビジネス系雑誌『Fast Company』の「2017 MOST INNOVATIVE COMPANY」、雑誌『TIME』の「25 BEST INVENTIONS OF 2015」に選出。

*4 ROOM(ルーム) | 楽天市場が展開するショッピングSNS。自分のROOMアカウントから商品が売れると、所定の比率で楽天ポイントが付与される。