Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。生活者のニーズが読みにくくなった時代のモノづくりや売り方について、新しい視点を与えてくれたのは「ユニバーサルデザイン総合研究所」所長の赤池 学(あかいけ・まなぶ)氏。1980年代に提唱された概念に基づいたユニバーサルデザインのメソッドから、EC事業者にも役立つキーワードをご紹介いただきました。

赤池 学 氏
社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」、「千年持続学」、「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、(社)環境共創イニシアチブ、(社)サービスデザイン推進協議会、(社)CSV開発機構の代表理事も務める。経済産業省 キッズデザイン賞、農林水産省 FOOD ACTION NIPPON AWARD、林野庁 ウッドデザイン賞、環境省 生物多様性ニッポンアワードの審査委員長を歴任し、グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。主な著書に、「生物に学ぶイノベーション」(NHK出版新書)、「自然に学ぶものづくり」(東洋経済新報社)、「昆虫力」(小学館)、「ニッポンテクノロジー」(丸善)、「CSV経営」(NTT出版・共著)などがある。

著書はこちら(楽天ブックス)

モノづくりに影響を与える社会状況の変化

皆さま、おはようございます。ただいまご紹介いただきましたユニバーサルデザイン総合研究所の赤池 学と申します。今日のお客さまは、楽天市場のオンラインショップに出店されている方 もしくは 今後出店を検討されている方が中心と伺っています。私はeコマースの専門家ではなく、1996年から「ユニバーサルデザイン」や「エコデザイン」に基づく商品や施設、地域開発を手がけているインダストリアル(工業)デザイナーです。どちらかと言えば、技術寄りの研究開発を得意としている研究所ですが、ここ数年、様々なメーカーの「ものづくり」が劇的に変わり始めているので、私たちが開発に関わった商品の実例を紹介したいと思います。マーチャンダイジングやメーカーからの仕入れ・調達などの部分で、アイデアやヒントに結びつくような話ができればと思っています。

eコマースの専門家ではないというお話をしましたが、私の研究所はNECさんのITビジネス分野のコンサルタントを長く担当しています。皆さまもご存じの通り、人工知能(AI)の台頭が目覚ましいですが、この人工知能により人間の購買行動を含めた判断をサポートするようなシステム構築をお手伝いしています。今日のイベントでも、eコマースのためのサービスを提供する企業のブースも出店されていますが、AI あるいは 「ディープラーニング(深層学習)*1」を使って、オンラインセールスをシステム化するという状況は、もはや避けられない状態です。具体的な計数や検品の管理だけではなく、合理的に工場と直結するシステムがすでに普及していることは、皆さんもご存じのとおりです。

そうした状況で、まさに皆さんが取り込まれているスマートショッピングですが、購買行動を分析したり、画像認識を精緻化するなどのサービスが台頭してきています。後ほどお話ししますが、やはりオンラインショッピングの場合は、直感的に商品の魅力が伝わっていく、フォトジェニックなビジュアルを作っていくとか、こういうシステムと合わせてデザイン思考をセットに考えることが、当たり前になってくると思います。スーパーマーケットに並ぶ商品の需要予測や、棚作りの違いによる購買行動の変化など、多くの情報通信系企業がこうしたノウハウを蓄積しています。

こうした状況のなかで、「エシカル商品」と呼ばれるような、コンセプト型商品というのを販売する企業があります。例えば、様々な生産者支援をしている飲料メーカー、オーガニックコットンを使っているアパレル企業、シルクの機能性を活用したテキスタイルメーカーなど、多くの企業が台頭してきています。

*1 ディープラーニング(深層学習) | 人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつ。人工知能(AI)の急速な発展を支える技術であり、その進歩により様々な分野への実用化が進んでいる。従来の技術では不可能だったレベルのパフォーマンスを達成していることから、近年、特に注目を集めている。

いま、企業は「デザイン・セントリック」にシフトしている

さて、ここからが本題です。論文から引用したデータなので非常に見にくいですが、「ここ10年くらいの間で、メーカーの組織体系が劇的に変わり始めた」というテーマから話を始めたいと思います。

メーカーには、必ず営業・生産・販売を行う「ビジネスセンター」があり、研究開発を行う「R&D(Research and Development;研究・開発)センター」があります。そしてもう一つ、「デザインセンター」があるんですね。1950年代から70年代にかけての「高度経済成長」の時代から2000年代初頭、この3つの「センター」の中で最も力を持っていたのは、間違いなく「ビジネスセンター」でした。いま、この状況が変わり始めているんです。パナソニックさんでは、R&D部門とデザインカンパニーが並列で商品開発を手がけています。CMでおなじみの「パナソニック・ワンダー・プロジェクト」は、「ビジネスセンター」も「R&Dセンター」も基本的には関わっていません。「デザインセンター」のデザイナーたちが、「これからの美容家電というものは、こういう領域なんじゃないか?」「美容家電が成功したので、次は家庭用の医療家電というのはこういうものじゃないか?」ということ全てを牽引しているんです。

日産自動車さんも全く同じです。「R&Dセンター」と「デザインセンター」が組織の上層にあり、ビジネスセンターは組織の下層にあります。日産自動車さんの場合は、日本国内外でモーターショーを開催していますが、出展するコンセプトカーは「デザインセンター」のメンバーが開発し、プレゼンテーションをしています。日立さんもそうですね。それこそ、家電から公共車両、原子力発電所まで作っていますが、日立さんの場合は、「日立デザイン本部」という組織を設立し、商品ごとに別々に活動していたデザイナーたちを一元的に集めました。そして、日立グループとして、コンセプト型商品や社会貢献を意識した商品を作っていくために、情報を共有しながら商品開発を行っています。

リクシルさんもそうですね。リクシルさんの「デザインセンター」は、「ハウジング企画部」という社長直下の組織です。この部署が「これからの住宅は、こうなってくるんじゃないか?」というハウジングトレンドを開発し、それに基づいて、必要な建材、キッチン、トイレのトレンドを考え、各担当部署にデザインコンセプトを落としていく形になっています。

サントリーさんの場合は、最上位に「デザインセンター」が位置しています。清涼飲料やお酒などの新規商品開発のプロジェクトリーダーは、必ずデザインセンターから選出されます。そのデザイナーであるプロジェクトリーダーたちが、「営業やマーケティングが強いあのおじいちゃんを開発チームに入れよう」「若いけれど優秀なR&Dチームのあの子を入れよう」というように、新商品開発のチームは「デザインセンター」を中心に動いているんですね。

名詞のデザインから、動詞のデザインへ

なぜ、こういう状況になったのか、ということなんですが、結論から言うと「マーケティングが力を失った」ということなんです。かつてマーケターが力を持っていたのは、お客さまのニーズに関する情報をビジネスセンターが握っていたからです。「お客さまはこういうものを欲しがっているので技術開発しなさい」とR&D担当者に指示を出し、「デザインセンターに所属しているスタッフは商品開発に関わらなくてもいいので、パッケージデザインやコミュニケーションを考えていればいいよ」というのが、少し前までの時代だったんです。それが今、デザインが力を持つようになってきたんですね。

これまでは「マーケットイン」という言葉が使われていました。一方で、「デザインセンター」をトップに据える企業が増え始めているというのは、改めて「プロダクトアウト」の重要性にメーカー各社が気付き始めているということなんです。今の時代は、お客さまが次に何を欲しがっているかがわからないので、「こういう新しい価値がありますよ」「この新商品を使うと、これまでできなかった新しい経験ができますよ」というコンセプトをメーカーがつくっています。そうした仕事を「デザインセンター」が担っているんだと思います。

「デザインが名詞から動詞に変わってきている」というスティーブ・ジョブス(Steven Paul "Steve" Jobs)*2の言葉があります。「私たちが作っているのは、『名詞』としての電話という『モノ』ではなく、『動詞』としての新しいスマートフォンを使った時の未知なる『経験』、その部分をデザインしている」と彼は言っています。まさにこの点が、スマートフォンだけでなく、ありとあらゆる商品に展開していく問題意識だろうと思っています。

「Design for ALL ;みんなのためのデザイン」というキーワードを掲げさせていただきました。僕は1990年代初頭に、「ユニバーサルデザイン*3」という概念を提唱されたノースカロライナ州立大学におられた建築家 ロナルド・メイス(Ronald Mace)*4先生に、ユニバーサルデザインの考え方や手法論を学びました。そして、1996年にユニバーサルデザイン総合研究所を立ち上げました。メイス先生が絶えず仰っていたのが、この「 Design for ALL ;みんなのためのデザイン」という考え方です。メイス先生が強調しておられたのは、「Design for ALL」の「ALL」の部分をいかに捉えるかによって、ユニバーサルデザインの価値やインパクトは変わる、ということでした。

そして、その「ALL」というものを捉えようとした時に、「4つの社会存在が重要だ」と強調しておられました。1つ目は、「70億人、そして、いずれ90億人となる多様な地球市民たちとシェアできるものを考えましょう」ということです。この考え方が、いま一般的に流布しているユニバーサルデザインの理解です。障害を持たれた方、ご高齢の方、健常な方、こどもたち。そうした多様な人間たちとシェアしようというものです。でも、これはユニバーサルデザインの「一領域」なんですね。

2つ目は、「次代のユーザーであるこどもたち、まだ見ぬこどもたちとシェアできるものを考えよう」ということです。いまはまだ生まれていない未来の子孫たち、次代のこどもたちともシェアできるようなモノづくりを考えなさい、という非常に大事な考え方です。後ほど、僕が経済産業省と一緒に立ち上げた「キッズデザイン協議会*5」の事例もご紹介します。

メイス先生がさらに素敵だと思ったのは3つ目です。「未来のこどもたちと分かち合おう」と考えた時に、同時に、いまはもう亡くなっているかもしれないけれど、「次代に継承すべき価値を生み出した亡き先人たちともシェアしよう」と考えたことなんです。これは言葉を変えると、経済産業省が推進している「クールジャパン」のような、いわゆる「ジャパンバリュー」といわれる伝統工芸のみならず、先人たちが積み上げてきたモノづくりのノウハウ、デザイン、素材といったものを次代に継承していくことも、ユニバーサルデザインの重要な一部なんだということです。

そして最後の4つ目。「人間だけじゃないでしょう」ということで、「人間を含めた、すべての多様なる生物、自然生態系とシェアすることの重要性」を絶えず唱えていたんですね。最近流行りの言葉でいうと「SDGs;Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)*6」のことなんですね。これをゴールとしてモノづくりを進めていきなさい、ということです。「Design for ALL」に結びつく4つの要素を踏まえて、「チャーミング かつ エステティック(審美性の高い)な商品を扱っている店」というコンセプトづくりが、皆さんにとって今後ますます重要になってくると思います。

*2 スティーブ・ジョブス(Steven Paul "Steve" Jobs) | アップルコンピュータ(Apple Computer)社の共同創設者。1955年2月24日、米・カリフォルニア州ロス・アルトス生まれ。ゼロックス(Xerox)社のパロアルト研究所(PARC)を見学した際に、試験的なハードウェア「ALTO」のグラフィカルユーザインターフェース(GUI)やマウスなどに出会い、これが後の「マッキントッシュ(Macintosh)」の開発につながった。一度、アップルを離れるも、業績不振に陥った同社の暫定CEOに復帰。M&A、iMacの発売、Microsoftとの資本連携などによりApple社の業績を回復させた。暫定CEOに就任して以来、CEOそれ自体への給与は毎年1ドルしか受け取っていないことでも有名となり、「世界で最も給与の安いCEO」とも呼ばれた。2000年代に入ると、「iPod」「iTunes」「iPhone」「iPad」といった製品や「ポッドキャスティング」「マルチタッチ」などを世に送り出し、世界中の人々のライフスタイルを変えるほどの影響をもたらした。米国を代表する企業家の一人に数え上げられ、アメリカ国家技術賞を受賞している。2011年10月5日逝去。

*3 ユニバーサルデザイン | 言語・文化・国籍・年齢・障害・能力などの違いに左右されず、誰でも利用しやすいように施設・製品・情報をデザインするという考え方。ロナルド・メイス(Ronald Mace)が1985年に提唱したとされる。デザインする対象を障害者に限定していない点で「バリアフリー」と異なる。

*4 ロナルド・メイス(Ronald Mace) | 1941年生まれのアメリカ人建築家・プロダクトデザイナー・教育者。ノースカロライナ州立大学のセンター・フォー・ユニバーサルデザインの所長を務め、ユニバーサルデザインという概念を提唱した。1998年没。

*5 キッズデザイン評議会 | 2006年5月に発足した特定非営利活動法人キッズデザイン協議会が主催する顕彰制度。「こどもたちの安心・安全に貢献するデザイン」「こどもたちの創造性と未来を拓くデザイン」「こどもたちを産み育てやすいデザイン」というキッズデザインのデザインミッションに即した製品・空間・サービスを選び、広く社会に伝えることを目的としている。

*6 SDGs;Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標) | 国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標。2015年9月の国連サミットで採択された。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」など17の大きな目標と、その目標に紐付く169の具体的ターゲットから構成されている。

ユニバーサルデザインを実現する10のキーワード

そして、もう一つ。多様な社会存在との「Design for ALL」を考えていく時に、メイス先生が重視したのが「補助線」という言葉でした。「多様なシェアを実現するためには、『意味と価値のイノベーション』を通じて、新しいステークホルダーとの『補助線』を引き直し、新しい価値の連鎖(バリューチェーン)を創造することが、とてつもなく大切だ」とお話してくれました。

では、「意味と価値のイノベーション」とは何でしょうか。例えばロウソク。かつて、ロウソクは照明装置でした。現在は、LEDや有機EL(有機エレクトロ・ルミネッセンス;Electro Luminescence)まで登場してきているので、照明装置としてのロウソクの需要が減っているにも関わらず、日本でも海外でも、ロウソクの生産量は落ちていないんです。なぜかというと、照明装置として使われているのではなく、高級レストランの空間演出装置として使われているからです。このように、モノの持つ「意味」が変わって売れて生きているんですね。モノを作ったり、モノを売ったりする時に、「この商品は、かつてはこういう意味の商品だったけれど、今は世の中に対してこういう違った意味を持っていますよ」と、そこまで伝えていくのが、オンラインショップの外せない要諦であると思っています。

ユニバーサルデザインを具体的に形にしていく時の10のキーワードがあります。「1. セーフティ(safety;安全性)」「2. アクセシビリティ(accessibility;接しやすさ)」「3. ユーザビリティ(usability;使い勝手)」「4. ホスピタリティ(hospitality;慰安性)」「5. アフォーダビリティ(affordability;価格妥当性)」「6. サステナビリティ(sustainability;持続可能性)」「7. エキスパンダビリティ(expandability;拡張性)」「8. パーティシぺーション(participation;参画性)」「9. エステティック(aesthetic;審美性)」「10. ジャパンバリュー(Japan value;日本的価値)」です。この10のキーワードを全て説明していると、あっという間に1時間経ってしまうので、ここでは特に重要な「5. アフォーダビリティ(affordability;価格妥当性)」と「8. パーティシぺーション(participation;参画性)」という2つのキーワードだけ、お話したいと思います。

まず最初のキーワードは「アフォーダビリティ(affordability;価格妥当性)」です。ユニバーサルデザインとは「多様な人が接しやすいようにデザインしなさい」ということですよね。そして、価格の部分でも接しやすくしようというのが、この「アフォーダビリティ(affordability;価格妥当性)」です。ユニバーサルデザインで「アフォーダビリティ(affordability;価格妥当性)」を実現するというのは結構大変です。もちろん、多くのメーカーが「良いものを、安く作る」ということをやってきていますが、障害者にもメリットがあり、高齢者も使いやすくて、健常者もちゃんと買ってくれて、こどもたちにも安心・安全、とやっていくと、商品のスペックがどんどん上がってしまい、高価な商品になりやすいんですね。それをどこでバランスさせるかが非常に大切になってきます。

店舗や製品をつくるだけがユニバーサルデザインではない

では、具体的にどうするのでしょうか。例えば、あらゆる商品に取扱説明書が入っていますよね。あの取扱説明書を全部読むお客さんはいませんね。それをもう少しだけ読みやすくしてあげたり、グラフィカルにしてあげたり、アプリをダウンロードして簡便な使い方・操作を教えてあげる。モノのデザインだけではなく、「モノと人とのコミュニケーション」の部分を、きちんとユニバーサルにデザインしてあげることが重要なわけです。

オンラインではなく、実店舗での事例をご紹介します。滋賀県に「たねや」さんという和菓子屋さんがあります。滋賀の文化にこだわり、季節ごとの旬の食材を使った季節限定の和菓子をお作りになられていて、ビジネスとしても成功しています。その「たねや」さんから、和菓子を売る店舗をユニバーサルデザインにしてほしいという依頼がありました。一般的に、ユニバーサルデザインに基づく店舗をどのようにデザインするかと言うと、「車椅子のお客さんも想定されるので、入り口は段差のないフラットなアプローチにしましょう」「視力の衰えたおばあさま方も重要なお客さまなので、店舗の照明を明るくしましょう」「肢体が不自由なお客さまもいるので、モノ選びの動線は極めてシンプルなものにしましょう」というように進めていきます。でも、そのアプローチで店舗を作った時、「滋賀の文化、季節、地域にこだわっている和菓子が、果たして売れるだろうか?」と悩んだわけです。

その結果、私がデザインした店舗はこうなりました。エントランスは、地元の黒玉石を使った段差のあるもの。和的な照明演出をかけた薄暗い店内。坪庭のような和的な空間演出を組み込んだ複雑な動線。そういう店舗デザインを提案したんです。このデザインは、クライアントの注文には一切応えてないんですね。そこで僕は、「今回のお仕事では、店舗デザインではなく、従業員の皆さんにユニバーサルデザインをかけさせていただけませんか?」という提案をしました。具体的に言うと、接客マニュアルを作らせていただいたんです。例えば、「車椅子のお客さまが、段差のある新店舗にお越しになった時に、健常者の男性スタッフ3名が安心・安全に店舗の中に迎え入れましょう」「お歳暮やお中元の時に、お客さまが知人の方に複数の和菓子を送るという状況に接した時は、売り子の方がお声がけをして、お客さまの横に椅子を置いて宅急便の送り主の住所を書いて差し上げましょう」というような内容で、マニュアルを作ったんです。

すると、新店舗の売り上げが2割くらい上がってきたんですね。頷いている方がたくさんいらっしゃるので、とても嬉しく思いますが、やはり「うちの店はフラットで段差のないエントランスを作ったから車椅子のお客さんは自分で上がって来てね」というお店と、おもてなしの心を持ってヒューマンウェア(人間的要素・人間的な働き)で接してくれるお店。お客さまがどちらのお店と絆を作りたくなるかは明白ですよね。それが人間として当たり前の価値観だと思います。このような問題意識の持ち方や、ヒューマンウェアの接し方のようなことを、オンラインショップでいかに展開できるか。ちょっと知恵を絞ってみるだけで、従来にはなかったオンラインショップというものが現出する可能性があるだろうと思っています。

モノとファンを同時につくるスゴい仕組み

次に紹介したいキーワードは「パーティシぺーション(participation;参画性)」です。「参画性のデザイン」ということですね。これは、商品開発構想や商品企画 あるいは試作評価段階から、お客さまに参画していただきながらモノを作ろうというデザインマネージメントプログラムのキーワードです。様々な地方企業さんに必ず提案しているのは、地元の障害者の方々、お年寄り、こどもたち もしくは こどもたちに関わる有識者の方々、地元のお医者さん、看護士さん、デイケア施設など、プロフェッショナルの方々が参加するアドバイザリーボードを作るということです。そのメンバーに対し、「私たちはこういうモノを作っていますが、これをユニバーサルデザインに進化させたいので、過去に同じような商品を使って感じた不具合があれば教えてください」「もっとこうしたらもっと使いやすくなるなぁというアイデアがあったら教えてください」とお願いするんです。そこから商品企画を練って試作品を作り、試作品が完成したら、それをまたアドバイザリーボードの方々に評価してもらって、さらなる改善点を探りブラッシュアップを図るわけです。

すると3つほどいいことが起きます。1つ目は、時間と手間はかかりますが、間違いなく、ユニバーサルデザイン品質は上がっていきます。ビジネスに直結するのは、残りの2つのメリットです。まずは、アドバイザリーボードの方々、一人ひとりが商品の広告塔になってくれるんですね。その方たちの知人・友人がインフルエンサーになってくれるんです。そして最後は、もうお気づきの方が多いと思いますが、最終商品が完成するとアドバイザリーボードの方とその周りの知り合いが、かなり高い確度で商品を買ってくれるんですね。要するに、チャーミングな商品を作ると同時に、それを購入してくださるチャーミングなお客さまを同時に作ってしまうというのが、この「パーティシぺーション(participation;参画性)」のデザインという考え方なんです。おそらく、この考え方は、オンラインの世界でも十分に応用可能だと思います。お客さまや取引先のメーカーなどと一緒に、同じ感性でインフルエンサーを戦略的に作っていき、それをユーザーに変えてしまうといったような取り組みですね。

こうした取り組みを行っていくと、そのモノだけではなくて、そのモノの開発に至るバックストーリーもモノが持つ価値になっていきます。新潟・燕市のメーカーと作ったバリアフリーデザインに基づくカトラリーがあります。ターゲットは、手に障害を持っているこどもです。障害の具合によって指の形はさまざまなので、ポイントは柄の部分にあります。製造元はステンレスメーカーですが、形状記憶プラスチックを使っています。この素材は、80℃以上のお湯の中に入れると柔らかくなり、引き上げて冷めるとカチカチに固まるという特性を持っています。この材料特性を使って、いろんなこどもの手にジャストフィットして食事ができるようにした商品で、グッドデザイン賞・金賞や、海外のデザイン賞のグランプリなども受賞しました。こうしたアワードなどを受賞できると、途方もなく売れてきますね。

※続きは近日公開