Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。技術進化と環境変化が激しく、先行きが見通しにくいEC業界。その未来を様々な角度から読み解く緒(いとぐち)を与えてくれたのは、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長でビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一(おおまえ・けんいち)氏。豊富な経験と幅広い見識から導かれた「EC事業者の課題解決のヒント」に耳を傾けましょう。

大前 研一 氏
1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBA プログラムとして開講)、2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。2013年10月にアオバインターナショナルスクールを株式会社ビジネス・ブレークスルーの子会社化し、1歳半から幼稚園、小学校、中学校、高等学校までの教育及び経営に携わり、日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

著書はこちら(楽天ブックス)

いまの日本で「消費を支えている人たち」は誰か?

皆さん、こんにちは。今日のテーマは面白いですね。「これからのEC事業者に求められる能力 - 見えない競争相手に勝つため -」。見えないのであれば勝ちようがないとも思いますが、今日は皆さんのヒントになることを、いくつか申し上げたいと思います。すべてを記憶できなくても、感覚だけでも掴んで頂ければと思います。

まず1つ目は「デモグラフィーを理解する」ということ。「見えない競争相手」とありますが、日本の場合、デモグラフィー(人口動態)が激しく変化してきていますので、まずは「重要顧客がどういう人か」ということを把握しなければ、皆さんの戦略は当たり損ねると思います。日本で一番大きな世帯というのは、実は「単身世帯」です。NHKでは、「ご家庭の皆さま」と言っていますが、これは間違いです。「ご家庭のテレビの前の一人寂しいあなた」が大半なわけです。料理番組では、未だに4人前のレシピを前提に放送していますが、単身世帯で4人前なんて作ってしまったら堪らないですよね。

「1人」が一番多いわけです。そして、20代以上において、全ての世代で「単身世帯」が一番大きな割合を占めています。結婚が遅れることで「単身世帯」になり、結婚しても、その3分の1が離婚するので、また「単身世帯」に戻るわけです。死別などもあるため、「単身世帯」が最も多くなるわけです。そして「家族」と言うのも「ひとり親と子」の世帯が増えているんですね。

皆さん、こうした現在の人口動態は頭にありましたか? 皆さんのお客さんは、こういう人なんです。これは統計的な事実であり、日本の場合は2055年までの予測が発表されていますから、まずはその情報を見て、「自分たちはどのグループの、どんな人たちにアプローチしているのか」ということを考えることが重要です。楽天の場合、楽天そのものは市場であり、そこに出店している各店舗が主人公ですから、皆さんがその情報を把握する必要があるわけです。

もう一つ重要なことは、「消費の半分を60歳以上の人が占めている」ということです。皆さん、このセグメントを軽視してなかったでしょうか? 若い人を当てにしてなかったでしょうか? お金を持っていて、お金を払うことを厭わない人をお客さんにしないといけません。60歳以上の人が「消費」に占める割合が46%です。そして、この世代の方たちは、予測できない消費行動を取ります。東京・四ツ谷という場所は、寿司屋の激戦区です。「すし匠(しょう)」や「三谷(みたに)」といった有名店が立ち並び、1年先まで予約が取れないほどの人気です。皆さんのように仕事のある人は、1年先の予定なんて立てられないでしょう? 1年先の予約をする人というのは「引退した人」に決まっています。それにも関わらず、1年先まで予約が一杯なんですね。

湯島天神にある日本料理店「くろぎ」もそうですね。値段も非常に高いですが、1年先まで予約で埋まっています。予約で一杯になるのは、引退した人たちが「来年のこの日は暇だ」とわかっているので、予約を取りにくいお店に予約を入れているのが理由です。引退した人たちは「サンデー毎日」ですからね。皆さん、こういう人たちを軽視してはいけません。

若い人たちはスマートフォンやインターネットを使いこなすので、皆さんも若い世代を相手にしたがる傾向がありますが、「お金を使う人たち」に対してアプローチし、どんな方法でも構わないので、とにかくお店に来てもらうことが重要です。これが今後の最大の課題ですね。今まではあまりインターネットを使って来なかった人たちに対し、使い方を教えていく必要があります。この方たちは自由になる時間があるので、使い方を覚えれば毎日使います。ここが非常に重要です。

「ヤンジー」の旺盛な消費意欲にアプローチせよ!

そして、高齢者たちは、孫に対して惜しみなくお金を使う意向があります。こどもに対しては、うまく育てられなかったという後悔にも似た念も含めて、あまりお金を使いません。孫には期待をしているため、消費促進の担い手となっているわけです。海外では、祖父母が孫の教育費を支払う場合が多いのですが、日本の場合はベビー服やおもちゃの購入を担っています。

一方で、統計上、家計消費支出にはカウントされないものの、成長著しい消費セグメントがあることに注目する必要があります。それは「越境EC」と、3,000万を超える「インバウンド消費」です。この人たちの消費は統計に出てきませんが強力です。商材によっては、この人たちの消費がメインになる会社もあるほどです。多くの場合、日本に来た時に一度購入をした商品を、自国に戻ってからまたECで購入するという「越境EC」を利用しています。

5、6年前、日本に旅行に来た中国人が大量に商品を購入する「爆買い」というものがありましたよね。その現象がなくなったと言われていますが、実はなくなってないんです。ECで購入できることが分かったので、日本に来た時に運び屋のように買って帰ることがなくなっただけで、「爆買い」という現象は続いています。

中国では、11月11日は「独身記念日」とされ、ECサイトで大規模なセールが行われますが、その日に一番売れたのは「ムーニーの紙オムツ」なんです。独身なのになぜオムツなのかと思いますが、いいんです。amazonでも「Prime Day(プライムデー)」を開催しています。したがって、「独身記念日」とはいえ、ターゲットは独身ではないわけです。この日だけで、2兆円から3兆円もの商品が売れてしまうんですね。

かつて「ちょいワルおやじ」と呼ばれた人たちが、10年後、年を重ねて「やんちゃジジイ(ヤンジー)」となって消費を支えています。熱海の高級ホテルや温泉は、この人たちで溢れています。この方たちは、バブルを経験して「いけいけドンドン」の頃に育っていますので、まだまだエネルギッシュで、犬の散歩やランニングくらいでは満足しません。「ファッション」「クルマ」「時計」「健康・食」「旅行」「アンチエイジング」「投資・相続」「不動産」という「8大関心事」を持ち、ラグジュアリー消費をするシニアライフスタイルが特徴です。伊勢丹メンズ館や、阪急メンズ館は、この人たちの消費で支えられています。脚が短くても、脚が長く見えるパンツを履いて「これ、どうかな?」なんて言っているのが「ヤンジー」です。10年前の「LEON(レオン)」セグメントです。

この方たちは、健康にも関心がありますが、時計などにも興味を持っています。高級ビジネス雑誌でも、時々20ページくらい時計の広告がズラッと並んでいますが、この方たちはこだわりがあるんですね。「僕の時計、どう?」なんて聞いてくるわけです。「ケンとメリーのスカイライン」の広告がされていた時にはお金がなくて買えなかったけれど、いま「ヤンジー」になってから憧れだったスカイラインを買うというような変わった人たちです。こういった人たちが、伊勢丹メンズ館や阪急メンズ館、熱海の高級ホテル・旅館、あるいは東京の個室付き高級レストランなどを支えているわけです。皆さん、この消費者層に売る商品はありますか? ネットで購入される商品も結構ありますよ。この人自身はインターネットを使えなくても、35歳・肉食系女子が助けてくれるので大丈夫です(笑)。

「お金を持っている買いもの弱者」と「インスタ映え消費に没頭する若者」

2つ目は「先行事例からヒントを得る」ということです。EC事業はデモグラフィーからは顧客が見えないので、先行事例からヒントを得ましょう。後ほど、「高齢者」という言葉を使ってはいけないという話をしますが、分かりやすいように「高齢者」という言葉を使います。「高齢者」は、買い物に「3つの不(ふ)」を抱えています。それは「不安」「不満」「不便」です。

日本で最も「3つの不(ふ)」が顕著なのは、関西の阪急沿線です。「急な坂のところに住宅地があり、買い物に行ったら持ち帰るのが大変」ということで、阪急百貨店にはたくさんの外商がいます。日本で最も高齢化が進んでいる富裕層が多い地域です。今となっては駅ビルの阪急にも「よう歩いていかんわ」という感じで、この人たちがEC経由で購入する食料品の割合が伸びているんです。「重たい荷物が嫌」という、NHK的な言い方では「買いもの弱者」という方たちですが、財布は大きい(購買力が高い)ので、この層を狙わなくてはいけませんよ。約50%の人が、食品のような重いものは届けてもらっており、まさにECのターゲットということになります。

そして、デジタルテクノロジーの普及やスマートフォン経済の拡大が、消費行動に様々な変化をもたらしています。定期的に行う消費行動の上位には、「オンラインで衣服を購入」という項目が現れます。以前は、オンラインで洋服を購入すると、「サイズが合わない」というクレームもありましたが、現在は返品が自由になりました。返品が自由な場合には、サイズ違いで3つくらい購入しておき、サイズが合わないものは返品するというのが一般的です。amazon傘下の「Zappos.com(ザッポス)」という靴専門ECが、「返品自由」というサービスを最初に始めました。「遠慮なく欲しいものを購入し、サイズが合わなかったら返品すればいい」というのがコツなんです。返品送料も購入者負担になると、最初から購入してくれませんからね。

それ以外にも、「GPSを使って目的地を見つける」「ソーシャルメディアの個人ページを更新」などの項目も上位に入っており、定期的にデジタルテクノロジーを使用するようになってきており、もう少しすれば、この人たちが全てECユーザーになるはずです。

10代・20代の若者は、写真や動画をSNSに投稿して自己表現することが、生活行動・消費行動のモチベーションになってきています。「何のために?」と思いますが、そこに目的はありません。「SNOW(スノー)*1」「Snapchat(スナップチャット)*2」「Instagram(インスタグラム)*3」「MixChannel(ミックスチャンネル)*4」などといったアプリケーションがあります。「Instagram(インスタグラム)」には「インスタ映え」という言葉があります。皆さんも研究されていると思いますが、この「インスタ映え」を狙った先行事例が多々あります。

例えば、ダイヤモンドダイニング「九州黒大根」という飲食店では、しゃぶしゃぶの肉を29cmの高さに積み上げ、インスタ映えするように提供して一人勝ちしています。それから、100円ショップの「キャンドゥ」では、インスタ映えするようにカラフルな商品が増えています。こういう施策をすることで、お客さんが付いてきます。「花ふわり」というかつお節は、料理にのせると揺れる様子を見せて、料理の見栄えをアップさせることを強調するわけです。それによって美味そうな印象を与えるわけです。こうした工夫により、お客さんの反応が違ってくるし、噂になるわけですね。

「Cookpad(クックパッド)」「@cosme / istyle(アット・コスメ / アイ・スタイル)」「サーモスの真空断熱フードコンテナー」など、SNSやクチコミを媒介として、消費者・企業が共に価値を生み出す商品・サービスがヒットしています。「サーモスの真空断熱フードコンテナー」は「スープ専用ジャー」として大ヒットしました。節約するために昼食を持参したいけれど、朝は作る時間がない。そんな時に、このコンテナの中に熱いお湯と材料だけ入れておくと、ちょうどお昼頃には出汁も出たスープができているわけです。こうした商品は、「映像があること」が非常に重要になってきます。

*1 SNOW(スノー) | 韓国・NAVER(ネイバー)社の子会社であるSnow Corporationが提供する写真共有アプリケーション。撮影した顔をリアルタイムに解析し、動物やキャラクターのイラストを輪郭や顔のパーツに合わせて装飾する機能や、一緒に写っている人と顔を交換する機能を備えており、女子中高生を中心に支持されている。

*2 Snapchat(スナップチャット) | スマートフォン向け写真共有アプリケーション。初版登場は2011年9月。特にアメリカにおける普及が顕著で、2017年5月時点で、アメリカ在住の12歳から17歳の約80%が利用している。

*3 Instagram(インスタグラム) | 2010年にサービスを開始した無料の写真共有アプリケーション。2016年6月時点で全世界でのユーザー数が5億人を超えた。インスタグラムに投稿する写真の見栄えの良さを意味する「インスタ映え」という言葉も生まれ、女性を中心に圧倒的な支持を得ている。通称・インスタ。

*4 MixChannel(ミックスチャンネル) | 株式会社Donutsが運営する動画共有コミュニティサイト。ユーザーの8割が中高生で、そのうち8割を女性が占める。若年層の文化・流行の発信源として注目を集めている。通称・ミクチャ。

売れるものしか買わない時代へ

それからもう一つの傾向は、シェアリングエコノミーが急拡大していることです。「シェアするから買わなくていいよ」というように、「買う」から「シェアする」に価値が移ってきています。私の造語ですが、「アイドル(idle;稼働していない)」しているものを徹底的に使うという意味で「アイドルエコノミー」とも呼んでいます。

この領域で考えると、事業のアイデアは止まらなくなります。私も、若い人に事業のアイデアをサポートする「アタッカーズ・ビジネススクール*5」というものを20年近くやっています。8,000人が卒業し、800の会社ができました。一番考えやすいのは、「シェア」や「アイドル」を使うということ。「移動」「金」「スキル」「空間」「モノ」をシェアすることを考えると最もアイデアがたくさん生まれます。最近は、パーキングスペースにもカーシェアリングのクルマが数台は置いてある時代ですが、ここからもっと進めば、皆さんの持っているクルマを貸すという時代にもなるわけです。「Airbnb(エアビーアンドビー)*6」は、空いている部屋を貸すわけですから、クルマも使わない時間に貸してお金を稼げばいいわけです。このようなアイデアを出すと、私の学校ではアイデアが次から次へと出てきて止まらなくなります。そして、そのアイデアのかなりの部分は、まだ世の中に存在していません。

だから、この期に及んで、景気が良くならならず、経済が2%も伸びないなどという「アベクロ*7」は、おかしな話ですよね。じっと考えれば、こんなにアイデアが出るわけですし、日本では13%も部屋が余っているわけです。「Airbnb(エアビーアンドビー)」も規制をしていますが、自由にやればいいんです。この辺りが、日本という規制国家の特徴ですね。

ネット上での個人間取引支援サービスで、フリマアプリや物々交換アプリが存在感を増しています。「mercari(メルカリ)*8」も最近上場しました。これはクローゼットを整理して不要なものがあった時にフリーマーケットに出品するアプリで、低コストで取引ができるようになりました。「土曜日にクローゼットから1万円出てきた!」というイメージです。この影響は甚大です。なぜかと言うと、若い人たちの間で「2年後に売れるという商品しか買わない」という傾向が強くなっているからです。2年後でも古くならない定番商品しか買わないわけです。流行だけを追いかけた中途半端な商品はメルカリで売れないので、そもそも買ってもらえないという、とんでもない現象が起きています。「Spirale(スピラル)*9」や「Clip(クリップ)*10」といった物々交換を手助けするアプリも登場してきています。

「airCloset(エアークローゼット)*11」は、既存業社と摩擦を起こしやすい一般的なシェアリングビジネスの枠を超え、アパレル業界とレンタル会社の双方が利益を取れる「Win-Win」のビジネスモデルです。「皆さん、クローゼットはもういりません。私たちの倉庫を押し入れと思ってください」というわけです。売れ残った洋服を倉庫に置いておき、月額6,800円を支払うと、スタイリストがセレクトした洋服が3セット送られてくるという仕組みです。その洋服が気に入れば購入しても良いし、気に入らなければ送り返して、次の月に新しい洋服がまた3セット届きます。9,000円払えば、さらにいい洋服が届くそうです。「airCloset(エアークローゼット)」という名称は「ここにある目に見えない大きなクローゼットが、あなたのクローゼットです」という意味です。

「Airbnb」に倣って、様々なビジネスが「エア・◯◯◯◯」と名乗っていますが、本家の「Airbnb」は、創業者が自分のアパートを貸し出す時に、エアマットレスのベッドしかなかったので、「Air Bed & Breakfast」という意味で名付けたそうです。なので、「エア・◯◯◯◯」などと名付ける必要はないんですね。「airCloset(エアークローゼット)」の社長に話を聞いたら、「ここをあなたのクローゼットと思ったら、もう洋服を買わなくて良いですよね。洋服は借りてシェアする時代です」と言っていました。そうするとクリーニング屋が儲かります。戻ってきた洋服をクリーニングして、次の人に貸し出しますからね。

*5 アタッカーズ・ビジネススクール | 大前研一が1998年に設立した社会人向けビジネススクール。座学のみならず、現場と現実そして未来を見据え、より実践的な方法でビジネス能力を論理的かつ創造的にトレーニングするのが特徴。

*6 Airbnb(エア・ビー・アンド・ビー) | 2008年にサービスを開始した、宿泊施設や民宿を貸し出す人向けのウェブサイト。世界192カ国・33,000都市で、80万件以上の宿泊施設情報を管理している。米・サンフランシスコに本社を置く。

*7 アベクロ | 安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁による金融緩和政策の通称。安倍晋三の「アベ」と黒田東彦の「クロ」を取って「アベクロ」と呼ばれる。

*8 mercari(メルカリ) | 日本およびアメリカにてサービスを提供しているフリーマーケットアプリ。 2013年7月2日にAndroid版が、同年7月23日にiPhone版が配信開始となった。1日の出品数は2013年時点で1万点以上、2015年時点で10万点以上に上る。 2016年6月期の売上高は122億5600万円、営業利益は32億8600万円で初めて黒字化。アプリのダウンロード数は5,000万を突破している。

*9 Spirale(スピラル) | Hamee株式会社が提供する次世代シェアエコノミーアプリケーション。バーコードを読み込むだけで簡単に出品でき、「交換券」を介して他のユーザーが出品した商品と等価交換ができる。フリーマーケットアプリケーションとは異なる視点で注目を集めている。

*10 Clip(クリップ) | ワールドリミテッドが提供する動く写真やフォトブックがつくれるアプリケーション。

*11 airCloset(エアークローゼット) | 月額6,800円でプロスタイリストがコーディネートした洋服を借りることができるサービス。返却時のクリーニングも不要な点も支持され、16万人の会員を獲得している。

社員5人で年商40億を稼ぐ「越境ECのパワー」

そうした回りくどいことをせず、新品を海外から直輸入しようというのが「BUYMA(バイマ)*12」です。とても面白い仕組みで、世界中にものすごい数のバイヤーを抱えていますが、そのほとんどは日本企業の現地駐在員の奥さんです。夫婦で海外に駐在する場合、旦那が仕事をしている間、奥さんは家にいるので時間はあります。「BUYMA(バイマ)」では、海外のショップで購入する代わりに商品を見て知識だけを得て、その商品の写真をサイトに掲載します。そして、注文を受けてから実際に商品を買い付けるわけです。

百貨店の場合、ブランドから100円で仕入れた商品が300円近くで売られます。仕入れ問屋を経由すると、さらに高くなります。ところが「BUYMA(バイマ)」は、ローカルの人が購入できる値段プラス送料で購入することができます。手数料は売り手と買い手、双方から5%ずつという仕組みなので、非常に安く購入できます。仕組みはメルカリと同じですが、こちらは中古品ではなくて、現地のショップやアウトレットで売っている商品ですから、非常に競争力がある仕組みです。内外価格差が大きい日本では、この仕組みはしばらくの間、機能すると思います。

皆さんもそれぞれ店舗を経営されていますが、「こんな商品がイタリアから入ってきたらいいな」という商品があれば、「BUYMA(バイマ)」のようなシステムに乗せると最強になりますね。例えば「パルミジャーノ・レッジャーノ(イタリアを代表するチーズのひとつ)」のような「世界のある特定地域のベストな商品」について、調達に苦労されている場合などは、現地にいる人に購入してもらい、自分の店舗を通じて売るという形にすればいいのです。放っておくと「BUYMA(バイマ)」のバイヤーたちがやってしまいますから、熾烈な競争関係ですね。フランスやイタリア、中欧など、ローカルな名産品が多い地域については、こうしたサービスから勉強するのも重要だと思います。

「越境EC」ですが、中国、アメリカ、日本でそれぞれ拡大しており、特に日本から中国消費者向けの越境ECは巨大市場となっています。中国越境EC市場では、Alibaba(アリババ集団)の「T-mall(天猫国際)*13」と京東集団(JD.com)の「京東商城(JD.com)*14」「京東全球購(JD Worldwide)*15」が覇を争っている状態です。2017年、「T-mall」では「W11(独身の日;11月11日)」に2.8兆円の売上がありました。これ、1日の売上ですよ。日本最大の三越伊勢丹の年間売上が1.3兆円です。その2倍の売上を1日で上げてしまうわけです。そして「京東集団」も追いついて、2017年に「Alibaba」が達成した1.8兆円を2018年の「W11」に達成したので、こうした巨大企業が中国には2つもあるということになります。

ただ、売れている商品を見ると、日本製紙オムツやこども服など、過去に日本にやってきて爆買いしていた商品ばかりです。日本に来て爆買いして帰る「担ぎ屋」をやる必要がなくなったわけです。ヒアルロン酸のフェイスマスクなども上位に入ってきます。東京のドラックストアの前に中国人観光客のバスが横付けされて、爆買いしている風景もよく見ましたよね。彼らは「百度(バイドゥ)*16」などで日本の店舗も調べていますからね。

「W11」に人気が集中したフェイスマスクを売る「クオリティファースト*17」という日本企業は、社員5名で年商40億円を上げています。この越境EC市場に乗っかっているわけです。中国人留学生など、中国に詳しい人のアドバイスを得て商品を開発し、社員が5名しかいないのに、越境ECだけで40億円を稼いでいるわけです。「空気が悪い中国にはフェイスマスクが良いね!」というアプローチですね。ほんの少しの工夫と、現地にアピールする販売チャネルを見つたことにより、一気に40億円まで到達しました。留学生など含めた在日中国人に商品を見て批評してもらい、さらに商品開発を進め、ECサイトを作成したら大当たりした、ということなんですね。

越境ECの大きな特徴は、「各カテゴリーで上位1位と2位の品目しか売れない」ことにあります。下位商品は全く売れないという傾向があり、トレンドが変化するスピードも速く、事業計画を重視するより動きながら試行錯誤するやり方が良いと言えます。その意味で、トップダウンのオーナー企業や中小企業の方が向いていると言えるでしょう。

*12 BUYMA(バイマ) | 株式会社エニグモが提供する海外ファッション通販サイト。海外在住のパーソナルショッパーを通じて、世界中のファッションアイテムを購入することができる。海外ブランド10,000以上、260万点を取り扱っており、現在524万人以上が利用している。

*13 T-mall(天猫) | 株式時価総額で世界トップ10に入るAlibaba(アリババ)が手がける中国最大のBtoCショッピングモール。毎年11月11日は大々的なセールスプロモーションが行われ、国家的イベントとも呼べる盛り上がりを見せている。

*14 京東商城(JD.com) | 劉強東が1998年に設立したウェブサービス会社・京東集団(JD.com)が手がけるECサイト。家電・PC・家具・衣類・食品・書籍などが取り引きされ、2015年時点で中国国内通販サイトシェアの56.3%を占める。

*15 京東全球購(JD Worldwide) | 京東集団(JD.com)が手がける越境ECサイト。2015年の発足以来、2,500以上の海外店舗が出店し、商品は約1,000万SKUを販売している。2017年2月時点で、70以上の国と地域の海外ブランドを18,400ブランド以上を取り扱っている。

*16 百度(バイドゥ) | 中国産検索エンジンの最大手。全世界シェアにおいて、Googleに次ぐ第2位。中国国内では最大シェアを誇る。百度公司(Baidu, Inc.)は「百度」以外にも「百度百科(オンライン百科事典)」や「百度入力方法(コンピューターおよび携帯電話への中国語などの文字入力方法)」なども提供している。

*17 クオリティファースト | シートマスクを専門に扱う化粧品会社。本社は東京・港区。高濃度美容液を浸み込ませたオールインワンシートマスクを主力商品とする。TVCMにはきゃりーぱみゅぱみゅを起用。